装備
制限がかかっているとわかっていれば、このようなテンプレはイベントとして選んでいないと思う和維だったが、それも後の祭り、オークやトロルのぶっとい腕で、ひしゃげ肉塊と化す小さい人間たち、いや、人間だったモノたち。
最初和維はその光景を上空から眺めているところで、のどの奥からあがってくるものがあったが、リミッター解除のせいかソレを受け入れ始めている。
彼の顔色は勿論顔面は蒼白だが。
ただ、平和ボケした日本人と言われる所以だろう。人間や魔物の頭上に表示されたHPゲージのおかげで、次第にゲーム感覚ということで処理開始しているようだ。
「主様? 大丈夫ですか? 彼らの死は予定されたもの、定命の者にはしかるべく訪れるものであります。これも慣れていただきませんと」
「まって、うっぷ、ごめん、イベントが強烈すぎだよ……」
和維は必死で、目をつぶって、あがってくるものを押さえつけ、深呼吸をして、心に平安を取り戻そうとする。そうしていく中で、心の奥から沸き上がる声が聞こえた。
−−ツラいなら止めればいい。この争いを止めれば良いじゃない。君の自由だ。自由にして良いよ。少し助力しよう。あとで恨みっこなしだよ……−−
その声がフェードアウトしていくと同時にのどや胃から違和感が消えた。そして、目を開いた光景がまるで自分が見ているものではない様な違和感さえ感じた。
「ごめん、待たせた。もう大丈夫。多分ね。ミカ、テンプレ救出に行こう。第三王女の近くまでつれてってくれないかな、自分で飛んで行くのはやったことないし」
ミカは和維の手をとると広大な森へと急速に進んでいく団体へめがけ飛行し始めた。森を進むと谷があり、そこで迎撃しようとでも思っているのだろう。
「ミカ、そこだ、追い越して少し開けたところ、ここだ、ここで待ち伏せしよう、冒険者のふりでもして、助力するってテンプレどおりの対応でいこう」
「御意に」
ミカが羽をたたみ、一気に下降する。和維は内心(ジェットコースター嫌いだって〜〜。)と思いながら、自分の命令のまずさに落ち込む余裕すらなく、今度は別の意味で、気持ち悪くなっていった。
そして、谷にさしかかる前に急ブレーキをかけ、遠心力で和維はグルンと岩肌に当たりそうになり、かろうじて谷を蹴って着地する。足がジィンとなっているが、痛覚ではなく、触覚が伝わってきているのと足にヒビでも入ったのであろう。一応、自己復元されると想う。また、むずむずするが、復元の証明と実感することにした。
「な、慣れてきたら、自分で飛ぶから……。うっぷ。」和維は先ほどの人間たちの死よりも気持ち悪そうに、ミカを見る。ちょうど、その黒髪が夕日に重なり、それは漆黒のシルエットとして優しくフワりと腰まで降りた。ミカは和維を振り返る。
「主様、あと10分ほどで、対象はこちらに来ます」
「……あ、ありがとう。ところで装備欲しいんだけど、何かある?」
「私はこちらに」
ミカは両手を顔にかざし、ふぅっと息を吹きかけ、そのまま、手をおろす。
下ろした右手には金色の片手剣が、左手にはクリスタルの盾を持ち、銀色の胸当てと直垂で身体と膝上までを覆い、黒鋼のガントレットとブーツを装備していた。これで、羽でも生えていれば、戦女神とかに見えるかもしれない。いや、黒髪ではなかったと思うが。彼女は装備を和維に見せた。
「あー。そうくるんだ。僕の装備って意味だったんだけど、心きまったわ。ミカが戦士とかしてくれるんだったら、このテンプレのシナリオ、もう決めた」
「主様、何を駄々っ子みたいなことを。お造りになられれば良いではないですか」
「ええ。そうくるかなと思ったよ。どうせ、想えば、造れるとか言うんだよね。きっと!」
「……。」
ミカは無言を決めたようなので、肯定の意味と捉え、和維は自分にあった装備を想い浮かべる。このテンプレのシナリオ通りのものを。目を閉じて、深く深呼吸をするように、イメージを固めた、全属性防御、対斬撃用防刃布、対ショック用アブソーバー、対砲弾追尾透明盾搭載ローブ。そして、属性不干渉、指向性全魔法無効の杖、それを想って目を開ける。自分の周りの光が収束し、ローブと杖の形を縁取る。最後に一瞬きらめいたとき、和維は深紅のローブに身を包み、ほの紫の光に覆われたヒヒイロカネの杖を右手に持っていた。
「主様、それ……。神界でのご自身の装備です。いま、自分で考えたんだ、エラいだろう、見てみてってオーラ出しておられましたけど、それご自身の装備ですから……」
それを聞いてガックリとする和維だったが、
……ガシャガシャ
森の向こうから鎧の鉄が合わさるような、音が複数、近寄ってきていた。きっと護衛の斥候か何かだろう。軽装の鎧をつけた兵士が二人、こちらへと走り寄ってきた。
「逃げろ! 魔物が大挙して来ている。逃げるんだ!」
二人の男の若干年のいった方がそう告げると、和維たちの後ろへ振っている。
和維とミカはそれをそのまま待っていると、兵士たちの後方から一台の馬車と数十人の護衛の兵士たちが現れた。
「逃げろと言っただろう、なぜ逃げん」
先ほどの軽装鎧の兵士が和維に若干距離をおいて所にとまりそう言った。




