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黒尖

和維が戦闘中に墓地に想った四重結界の終着点には、いかにも年月が過ぎてところどころ崩れた城壁に囲まれた黒炭で化粧された石砦があった。天を突かんばかりの尖塔を三つ携え持つそれは“栄えて”いたころに見たとして、黒の化粧が威容を顕しとても堅牢な要塞であったに違いなかった。無論“朽ちた”現在でも異様として存在し、現に四重結界の侵攻を阻んでいた。

そんな黒石の宮殿、内部も光があまり入り込まぬ程暗い大広間へ、勢い良く若い龍人が飛び来み、広間の向こう側、墓地へ開けた方向のバルコニーに駆けていく。


 バルコニーには若者よりふた回りは大きな龍人、また、そこに設置された水晶球に向かって手をかざし続ける人族の若者の姿があった。人族の若者はとりわけ古い時代のアーマーに王族のかける真紅のマントをかけており、龍人も爬虫類種から派生した人型生物であるので哺乳類種とは違い加齢とともに巨大化をしており、若者が青年であるとすれば、ふた回りほど大きなことから老年と見えた。


 その若い龍人はバルコニーに立つ二人のうち“人”である人物に向かっていた。


「閣下! 死霊兵までお使いになるなどとは何事ですか!」


 只人は水晶球に手をかざしたまま、若者のほうを振り向かず、右の口角をあげるのみである。代わりに老いた龍人が振り返り、何者をも返させぬ眼光で若者をにらみ、しかし極力抑えた唸りを放つ。


「公爵様の集中が切れる。煩くするでないわ」


 若者は眼光とともに老いた龍人に隠れて見えなかった水晶球の中で結ばれている画像を見て取ると


「……」


 若者は只そこで何も言えず、立ち、時間が過ぎるのを感じていた。ここに来るまでの怒りなどはどこかに吹き飛んでしまった。





 クルトの見ているミカの、あらゆるものが異様であった、背中に生え、器用に折りたたまれていく6対12枚の羽、まだあどけない姿から想像できない見事な黄金の鎧、そしてその少女の瞳は目を合わせられない程、尊厳にあふれこちらを見ている。


 羽をたたみ終えると少女いや、天使は少し年上に見える少年に向き直ってその足元へ跪く。

 地龍人たちも現場指揮官がいないこともあり、そのおかしな感じが伝播して、少女たちの一挙手一投足を眺めているだけだった。


 静かに刻が流れる。隻腕の男もその雰囲気にのまれ何もできず、


 そこへ動の一石を投じたのは若い少年のほうだ。その目はいつもミカに投げかけている温和なものではなく、冷たい。


「それで?(・・・・) ミカが羽を出してこちらに来たってことは相当まずいことが起きているように見えたのだろう」


 その必ずしも強い声音ではないが心臓を掴まれるように通る言葉に、ミカは跪き、その表情を自分の主人に見えぬよう、こわばらせ少年の問いに応える





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