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人壁




龍人族は大きく二つの種族からなりたち、一つは皮膜有翼の天龍人、もう一つは甲殻無翼の地龍人。天龍人は先の魔神戦争で魔神側につき、悪に堕ちて転じて魔人と呼ばれる。

 樹海を超えた平原に数万とも思えるおびただしい地龍人の軍勢だった。が、なにやら様子がおかしい。和維の左眼では目の前にあっても、地龍人とは断定できなかった。姿形はそれだが、何かがブレンドされているようで、どうしても鑑定結果が出なかった。



 鑑定結果に首をひねっている和維の横で、クルトは夢から醒める。と、夢の中の軍勢の目の前におり若干困惑している。時間的には夕暮れのはずなのに一面は朝もやのような霧が立ち込めて薄暗さもなかった。そしてかれらの目の前にはおびただしい数の光る目、そんな情景に周りへの気配を研ぎ澄まそうとした時、隣から彼に声をかけられた。


「どう考えても、僕らが標的だよね?」


 クルトは樹海の方向をみて、気配を探るがこれだけの軍勢が標的とするような魔物がいないことを確認する。龍人族の軍勢は隊列を整えゆっくりとではあるが、和維とクルトの方へ進んできていた。


「どうやらそのようですなぁ。逃げますかね」


 クルトが和維の方をみて言うが、和維は難しい表情を浮かべている。


「逃げようとしてるんだけど、チャネルが閉じちゃったみたいなんだよね。またギルドホールに転移ってのはちょっと難しいかな」


「チャネルですかい。しかし、難しいっていっても、このままだとあの数だ、押しつぶされますぜ」


「その断言はダメだな。やってみなきゃ。それに、都合よくっていうか、この結界のおかげでチャネル閉じちゃったんだけど、力を存分に使えそうだし。そんな場所を提供してもらってたらね。やらないわけにもいかないでしょ」


 和維は天に右手を差し伸ばしてヒヒイロカネの杖を空間から掴み出すと、クルトの右肩に杖の先端を添えた。


『僕は与える。何人(なんびと)をも隠し遂せる右腕』


 クルトの全身が光に包まれ、その光が右腕に収束していく。彼自身にはその腕を最初見ることはできなかったが、だんだんと認識できるようになっていき、透明な腕が生えていた。何も見えないが確かに“ある”のだ。感覚も空気を掴む触覚もある、何より腰の小刀を握ることができた。

 小刀は握られているが目の前では小刀が自分で踊っているようにしか見えなかった。


「こ、これは……」


「自分の腕を繋ぎ直したわけじゃないしさ。どうせ義手作らないとだったから、創ってみただけ。それといざとなったら、その腕で自分自身を触って、隠れるんだ。そういうふうに出来てるはずだよ」


「いや、そうですが、そうじゃないッ。旦那あんた一体?」


 その言葉を遮るように一条の矢が和維の頭をかすめて地面に突き刺さる。和維はそれを気に留めずにクルトに向かって言った。何よりも重要なのはクルトのほうだと。


「誰? 誰って、仲間だよ。あとは感じてってことかな。軍勢もまだ近づいてきてるし、いこうかな」


 目の前の平原には赤く光る眼が彼らの動きに合わせ奔流のように波打っている。どの瞳もギラついてはいるが生命力溢れるそのものだ。和維は待ち受ける瞳の奔流にゆっくりと近づいていく。


『僕は命じる。武器を置け』


 自分たちよりも小さく小突けば吹き飛ぶような人間がそれを口にすると地龍人たちは自分の意識よりも強い力によって武器を置こうとしている自分自身がいることに気がつく。だが、抗いがたい何かに拮抗するように自分の頭の中で悲鳴をあげ、激しい頭痛を引き起こし始める。


 平原を埋め尽くしていた赤く光る眼が一様に激しく明滅しているのをクルトは確認すると、和維の横に立ち、困った表情をした彼の顔を見た。


「旦那、何をしたんですか」


「ちょっと、戦わない方向でもっていけないかなって」


「言葉とは正反対に彼らは一方的に精神的ダメージを与えてるようにしか見えませんが。戦術としては大勢を相手にするならこの方法が良いと思いますけどね」


「たしかにちょっとした拷問になってるかな」


「…ですな」


 ただ、この平原のなかで頭痛に苦しんでいないものも極少数ではあることをクルトも和維も見えている。馬形の魔物に騎乗していることから、彼らが小隊長以上と判断する。


「解呪する前にアレを潰しといたほうが良いかな、全体のコントロールが不能なら、被害は最小限にだよ」


 平然と騎乗している地龍人の数をカウントしながらクルトは横の和維を見て何を考えてるんだと若干呆れた表情をする。自分自身の隠行でどこまで減らすことができるか、そもそもこの精神攻撃のようなものはいつまで続くのか、効果が切れれば周りに敵しかいなくなる。


「一応、二段階の攻撃考えてるから、それだめなら、物理的に行こう」


 クルトに自分一人で行かないように促すと和維はクルトの前に立ち、その場で杖を大地に立てかけた。そして左目に集中して苦痛を受けていない隊長を軒並み選別する。


−各隊長のマッピング完了


 左目の表示を受けて、杖を左手に持ち右手を開いて彼らに向けた。


『往け、光の奔流(オーバーレイ)


 杖の先端に光が集約して、マッピングした対象へ何百本もの光の動線が直線状に向かう。一様に蒸発する頭部。騎上から頭部のない身体のみ、ずり落ちて行くのが見える。


 だが、それで屠ったのも約半数に過ぎない、目の前で貫かれる味方の姿を見て、周りの苦しんでいる地龍人を槍などでひっかけて軸線上に何人かを盾にして自分を守り切ったものもいた。


「……非道いな。……これは。多勢に無勢だから、動けないってところが勝機だと思ったんだけどね、さすがにただの案山子になっていてはくれないか、では」


 和維は再び右手を伸ばして、左手に持った杖の指向性の属性無効化を発動、左目のマッピングを確認する。


『叩きつける。極所重力子(グラビトン)


 残った騎乗した地龍人たちは周囲の重力が一気に自分の方向へと集中して自分の頭蓋骨のきしむ音が耳に伝達される前に割れた頭蓋から脳漿が飛び散る、そして折れた肋骨が肺に刺さり、その穴から空気が笛を吹くように高い音で漏れ出した。


「旦那、そんなもんでいいんじゃないですかね」


 その言葉に和維は右手を下げる。左目の球体ディスプレイ上には先ほどマッピングした地龍人たちの生体反応は消えていた。それと同時に自分自身の心の中で戦う地龍人たちの頭痛も解除される。地龍人たちは一様にぐったりし、地に伏す者や槍を支えに立っていたりと様々ではあるが、敵意の籠った目で和維たちをみている。その目からの赤い反射光はまだ多い。


「殺さないように手加減できるかな?」


「あちらさんの強さ次第でしょうな、龍人族ですぜ。手加減してたら、こっちの命を持ってかれちまう」


「じゃぁ、クルトは手加減しなくて良いや。僕もしない。それだけ強いなら経験をためて自己強化したいしね」


 地龍人たちは意識のハッキリとしたものから順番に統制をとっていき、じわりと前線を詰めてきている。その距離100メートル


「それなりの練度じゃないかな。本で読んだよ」


「関心してたら、回り込まれて大変ですぜ、旦那」


「そこも本で読んだよ。わかってるって」


 和維は杖を地面に突き刺すと両手を扇のように前へと広げる。


『囲め、精霊たちよ。極寒障壁(アイスウォール)烈風障壁(ウィンドウォール)豪炎障壁(ファイアウォール)堅土障壁(グランドウォール)


 青、緑、赤、黄、4色の光がそれぞれ両手から飛び出ていくと、クルトと和維から10メートルほどの間隔をもって、一直線に壁を作り一筋の道を作り出した。戦場を大きく二つに割る大きな障壁が4条二対、10キロにも及ぶその道は出来上がる際に、そこにいた地龍人を氷漬けにし、突風に煽られ炎に焼かれ、巨大な壁に激突して全身の骨が砕かれる。


「近づきすぎないでね、凍るよ」


「旦那は手加減してもいいんじゃないですかね」


「ま、魔法と格闘は違うからね。行くよ」


いつも読んで頂きまして、

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