地面
和維は目を覚ますと最初はよくわからなかったが、まず、身体が動かない事に気がついた。
どうやら靴を履いていない二足歩行のモノたちに踏みつけられている、痛覚がないので、くすぐったくさえ感じる。
今、服は泥だらけで、身体は半ば魔物たちの重さで地面に埋もれていた。気がついたときにはこの感じで、上を見ればというと、夕方のようで、よく見えないが少し上空から羽を広げ浮かんでいるミカがこちらを見て「あらら……。」とか言っているようだ。
和維は内心助けろと思ったが、顔や身体を踏みつけていく魔物が多く、口を閉じていないと泥も入ってくる感じだった。とりあえず、右手はかろうじて頭の近くにあったので、こめかみに指を添える。
−入力、何が起きた?現状がまるでわからない。−
−……。(やべっ。気付いた。)−
−聞こえてるから……。応えて。怒らないから−
−……えっと、若干座標に誤差がありまして、上空10メートルに転送され、真っ逆さまに。そこへという次第です−
−そう、それで? いつまでこの状況なの? 僕は早くたすけて欲しい。手も足も自由が利かない−
−り、了解しました。結界でコーティングさせていただき、ミカ様のいる上空へ引き上げます−
ほどなくして、和維は魔物には見えない結界の中に入れられ、5メートルほど上空で生暖かく見守っていた黒髪のサディストのところへと浮かび上がる。結界の中で身体に力を入れてみるが、右手以外はあらぬ方向へと向いていて力が入らない、骨折したのだろう、足に至ってはグニャリとしている、粉砕骨折か。痛覚あったら痛みで死んでたりしているかもとか和維は考えていた。そして、横で翼を広げたミカをみやる。
「いろいろ大変なんだけど、まず、何かできることある?」
「怒ってません?」
「……。開口一番その言葉で、怒る以前にあきれてる。とりあえず、治すとかして」
「出来ません。神を回復するなど、私はできません」
「! いや、どうするのさ、コレ。テンプレで来たけど、魔物の真ん中で、10メートルの高さから落とされて、骨折とかしてて、身体がこれじゃ、討伐なんてできないだろ!」
「あ。すみません。そもそも主様が怪我をなさった事はありませんでしたので、さらに記憶もない事をすっかり忘れていました」
「いやいやいや、さっき、上からみてるときに、あらら、とか気がついてたよね!」
ミカは和維の目から視線を逸らし、和維の身体についた泥を払い骨の状態や内蔵の状態などを看ていった。
「主様の身体の60%が骨折、臓器破裂30%、頭蓋と肺が無事でしたので、何とか話しが出来たようですね。ここまでですと自己回復機能より、復元されたほうがよろしいですね。やり方をお教えします。失礼します。」ミカはそういうと、和維の頭に手をやり、髪をそっとかき分け、口づける。
和維は突然の口づけに何も出来ず(身体も動かなかったが)、じっと、そのままにしていると、だんだんとミカの唇が熱くなってくるのを感じ、直接頭の中に自己復元や治癒の方法など情報が流れてくるのを受け取った。
「主様、こちらをご利用ください。基本的に魔法などは思い通りに使う事が可能です」
「呪文とかは? スクロールとか魔法書とかあるでしょ」
「……は? 必要ございません。そもそも魔法は主様や主様から送られた神の奇跡をその似姿たる人やその他亜人、魔族などが契約や庇護の元使用可能になるもの。ですので主様が契約の言葉などいりましょうか」
「えっと、すると、奇跡を起こせばよい。ってこと? どうやって?」
「簡単に言いますと、イメージしてください。想いが奇跡を起こせます。というか、今そのリミッターを解除しました。そのかわりに……」
「あ、また僕から五感が消えたとか言うんだよね。そうだよね」
「いいえ、睡眠が消えました」
「ええっ。昼寝出来ないの!? 困るよ。唯一の楽しみなんだよ」
「主様が寝ている間に見る夢で、世界が何個か崩壊したことがあります。夢の中での想いもそのまま現実になります」
和維は眠りをなくされ、何とも言えぬ感じとなりながら、自分の身体の復元を想った。触覚が残っているだけに内蔵やら、骨が急速に復元していく様子を感じるのはくすぐったくもあるが、とりあえず、結界の中に手を付き、立ち上がる。ミカに何か言ってやろうかと思ったが、夕日に照らされた眼下の光景を見て、それを口にはしなかった。
結界の真下には魔物の奔流がうねっていた。
「魔物の種族とか左目に表示可能?僕やってたようなMMOみたいな感じで、見えると便利だな」
−了解しました。球体ディスプレイへインフォメーションを開始します。表示オフの場合は主様の操作で可能です−
天使からの遠隔操作で左目に表示されたそれは、ゴブリン、ゴブリンチーフ、オーク、トロルなど、ファンタジー系の一般的な魔物たちだった、多少頭脳がある分、統率のとれた動きをさせやすいのかもしれない。ボス表示っぽいものが遠くにみえるので、多分その理由だろう、和維は本来のテンプレ処理に移ろうと考えるのだった。




