反祖
和維は左に座っているクルトを覗き、いたずらっぽく笑って見せる、その表情には邪気も何も隠おらずミカを除外した全員が首をかしげる。
「ちょっと違うかな。 そこで遭わなければ良いのだよ。 ミカ、今世から退場してもらおう」
「御意」
ミカはスックと立ち上がる。
そこの主従の挙動に顔を蒼白とするアーストとクルト、慌ててコンスタンツェがミカの方に手をかざして制する。
「何をするかわかったけど、この国には貴族も居なきゃ纏まらないんだよ。嫌な奴ばかりじゃないから今は待っておくれ」
和維が目でミカに合図を送るとゆっくりと腰掛けた。それを見てからコンスタンツェは再び口を開く。
「結局どこにいるかまだわからないだろう? 貴族と名のつくヤツを全員亡き者にされても困るんだよ」
カズイはスっと立ち上がるとソファーの後ろに回って、クルトの後ろに立つ、おもむろに手を右肩に乗せると目を閉じた。
その時、和維が何をするのか読み取ったかのように、イケナイ! と叫び声をあげたが、和維にはその声は届いていない。
「コンスタンツェ、その言葉を言ってはなりません! 我が主に出来ぬことは皆無に等しいのですよ! ナディーン! 結界を解除して、早く! わたしが結界を張り直します!」
ミカはそういって斜め前にいるナディーンの手印を揺する。ナディーンは驚きながらもコンスタンツェを見て頷くのを確認してから手印を切った。
「ありがとう、もうすこしで我が主が外にでます…」
『……空間結界』
すぐにミカが詠唱して引き継ぐとナディーンのものとは比べようもない魔法力がこの部屋全体に行き渡る。
結界、空間に干渉する魔法は少なからず術者の魔法が干渉する力場を周囲に放出し続ける必要があり、術者側から周囲に対して何も出入りすることはできない力として形成されている。結界はその性質上外側から破られるぶんには魔力が霧散するだけだが、内側から破られた場合、結界を形成している魔法力が一気に術者へ跳ね返る。仲間同士であればなおさら禁忌の行為であると言えた。
「クルト、お前のことだ、僕のことを探ろうとしていた真の依頼者も知っているんだよね。それを思い出して、そう、どこにいるかもだよ」
クルトは一言もしゃべってはいない。和維の手が触れた瞬間から動けず、感じられず、目は開いていても見えなくなる。ただ、気分が悪いというよりもどちらかというと心地の良い感覚で和維の声しか聞こえなくなった。
和維の言う通りに依頼主ハルトヴィヒではなく、その出処である真の依頼主を思い出し。次に彼の屋敷を思い出ていく。
「王都じゃなさそうだね。そうか、そのまま、ここからその屋敷にいく道順も思い出してみよう。そう頭の中で旅するようにね」
クルトは白昼夢でも見ているかのように、自分が鷹かはやぶさになったかごとく冒険者ギルドを飛び立つとまっすぐに……。
「主様との精神同期完了。対ショック、対魔法防御も完了しました。いつでもどうぞ」
和維はチラッと見て頷くと、目を閉じてクルトの肩に置いた手をわずかに鎮める。クルトはとても心地良さげに、眠っているように見えた。
クルトは失われた魔法である飛翔魔法を使っているのか、本当に鷹かはやぶさになったのかわからないまま、飛んだこともない山の上を跳び続けていた。着地していないので飛んでいるという感覚なのだろうか、とても早く。
いつのまにか北の山脈を飛び越えて、人馬であれば越えるのに一ヶ月以上はかかるであろう樹海を一気に突っ切る。
「クルトの意識は順調に出て行ったから、僕も行ってくる…… って、なんだこりゃ!?」
和維は左目に映るクルトのイメージを“二度見”して、検索する。
−クロスさーん。大きな森の向こうに見えるのは何ですかー?
−……主様、なんか便利ツールかなんかと間違えていませんかね? そもそも、そういう役回りはミカエルにさせれば良いのでは?
−だって、ミカは結界張らせてるし。他の知り合いいないでしょ。
−そのうち、ミカエルにレベルを引き上げさせて、生命創造させて下さい…。
決して自分以外のものを紹介しないというのもクロスの貧乏性というヤツだが、クロス以外の神では現在の創造神といえど、気軽に話しかけられるようなものもいなかった。
−その星の生体情報を左目にダウンロードしておきますので、私への接続は不要でしょう。
−あ、そういうの便利ツールあるじゃん。ありがとう♪
三次元最高神の威厳など微塵も感じる事なく、和維はダウンロードされた情報と左目に映るクルトの意識に広がる光景の大半を占めるモノと照合する。
−result : 龍人比=70% その他=30%
−そ、その他? って、データに入ってない構成要素ってことはっ やばくないかコレっ
「ミカ、トレースしといてくれ!」
和維はそう言い残すとクルトの意識に集中して、クルトとともに部屋から消え去る。
次回久々の戦闘にいけます。
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