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招聘

 和維とミカは二階の階段を上がって行くと後ろにいるはずの人間がいないことに気がつく。クルト一人がギルドホールの席に立ったままだ。先を行く二人は当然ついてきていると思っている。


「ちょっ…。 クルトもついてきてよ、呼ばれたのは僕らだけど、ついてきてもらわないと困るし、仲間になったんだし。 ……! まさかとは思うけど、テンプレ発動する感じ?」


 クルトは面頬を外している為、普通の声色に戻っている。


「てんぷれ? テンプレという魔法か、技は知りませんぜ…」


「いやいやいや。そ、そうだよね、うん。えっと、例えば、冒険者ギルドのマスターと昔の因縁があるとかさ。血縁関係にあるとかさ、今回はそういうのがテンプレってのになるんだけど」


「まぁ、冒険者ギルドで手に余るのをうちで預かってたわけですからね、そりゃ知っちゃいますがね」


 和維はその言葉を聞いて、うん、ならいいね。仲間なんだから一緒に行こう。と共にここ最近テンプレうんざりしてきてたんだよねという若干複雑な笑みでクルトに言った。



「…? ま、旦那がそう仰るなら。わかりました。闇で生きてきた人間が表に出ていることで、今後不利益になるかもしれない事もあるでしょう。そんときは勘弁して下さいよ」


「裏ギルドだったからってこと? 今は仲間だから、ね」和維はおだやかに、なんとも人惚れのするような笑顔でクルトにそう告げると、クルトは、しかたがありやせん。と言って階段に足をかけた。


 三人は階段をのぼりナディーンが手招きをしているいつもの扉をくぐった。今回は書斎テーブルではなく上座にコンスタンツェが座り、その向かって左隣にアーストがくぐもった表情で座し、その横に三人を呼び寄せたナディーンが腰掛ける。


 和維は三人掛けのソファーの上座に腰掛けると最後まで入り口で躊躇しているクルトに声をかけた。


「クルト。入って来なよ、僕ら仲間なんだから」


 その言葉にコンスタンツェの眉尻が上がり目を細めて和維を見て言った。


「地下の爺様から連絡が入ってはいたけど、本当だったんだね」


 クルトは頭を掻いてちょっといたずらっぽく笑うと後ろ手に扉を閉めていそいそと三人掛けに座る。そして、深く呼吸するとコンスタンツェを見る。


「へぇ。そのようで。旦那の物好きにも程ってもんがありますがね」


「えっと、そんな話しで呼ばれたのでもないよね。アーストさんもいるし、そんなに頻繁にここに顔を出すってことは何か厄介事だと思ってるんだけど。なにかな?」

 和維はニコニコとそういうとコンスタンツェとアーストを交互に見ている。


 アーストはコンスタンツェに目で訴えかけ、その彼女はナディーンの方へ目を向け頷いた。


『・・・結界』 と少女は空中に印を示してそう切り結ぶ。


 クルトはその手際と結界の効力を確認すると「ほぉ」と声をあげて素直に感心している。


(おもて)にもまともな使い手がいるもんだな。若いのにたいしたもんだぁ。ただね、ちょっとこれだと弱いんだな。ちょっと手を貸してやろう。お嬢ちゃん」


 クルトは懐から何本かの音叉を取り出すとそれぞれをテーブルに打ち付けて音を確かめ、その中の一本をより大きく室内に響かせると、それを自分の耳元に近づける。そして音階を頭の中に刻み込むと残っている左手の指を揉み離して、音叉と同じ音階で指を弾いた。辺りに弾いた「パチィーン!」と澄んだ音が満ちあふれる。


「表も裏も変わらんけど、人の集まる場所では浄化の魔法も練り込んだ方いいだろうなぁ、俺たちだと雑音に紛れ込む隙間があれば入って来れちまうんだ」


 ナディーンはもとより、素性を知るコンスタンツェは驚きだけでなく若干の賞賛の笑みを浮かべる、次世代の裏ギルドのなかにも優しい男がいるじゃないかと。クルトはその表情を読み取り即座に否定する。


「違うな、身内だからだ。そのお嬢ちゃんは。経験の浅い者をフォローするのは身内としては当然だろうなぁ。一歩、一瞬の気のゆるみが死に直結するのさ……。と、おいらがそんな講釈垂れる場所でもねぇか、で、なにがあったギルドマスター殿?」


 コンスタンツェはそのことふと忘れかけていた要件を思い出し、アーストの方を向いてから再び三人にとくに和維へ顔を向ける。


「国王陛下があんたたちに会ってカロリーナ様救出の礼をしたいとさ」


 ふぅん。と和維はニヤニヤと笑いながらコンスタンツェをまっすぐと見つめた。和維としても国王と知己になっておく事は後々有用であることもわかっていたが、テンプレでもそんなに簡単に会って良い存在なのか考えあぐねる。


「国王が軽率に何者かわからないものと会ったらダメなんじゃない? 遠慮しておくよ」


 えっ!? ナディーンが小さく声をあげた。

「陛下の招集をお断りになられるのですか!?」


 ベルン王国は人間の統治する国としては当世最大を誇る強国だ、その一国の国王からの招集を断るという事が彼女の常識から外れたNOだったのだ。声をあげても仕方の無い返事だった。


「人として当然の事をしたまで、御心に止め得て頂いただけで恐縮でございます。って表向きな回答で良い?」


 その解に和維から目を離したコンスタンツェは首を横に振ってからアーストを見やった。


「裏向きな回答はいらないよ。陛下は私人としてカズイ殿、ミカ殿に礼と話しをしたいとのことだ。王家に連なるものとして国王が私的に街へ出ては来れぬこと、謝罪するとともに、王城へお越し頂きたい」


「そういうことなら、喜んで。人を呼びつけてそれを面白がるのなら消滅させてしまうかもしれないところだったよ。それが冒険者の挟持だろうクルト。」


 和維はニコニコとクルトを見ている。クルトはその笑顔の奥の怒気をカズイの瞳から読み取る、そこから想像できる惨状も考えが及んだ。和維にうなずくと、僭越ながらとアーストへ申し出た。


「アースト様、我が主と貴族派を遭わせぬようにお取り計らい頂いた方がよろしいですなぁ」





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