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一興

 和維とミカは、まだ冒険者ギルドにいた、ミカはかなり飽き飽きしているのだが、和維の目が掲示板に釘付けになっているのだ。Eランクになった直後はそこそこのパーティが和維たちをうかがって話す機会を得ようとしていたが、一向に掲示板から離れる事のない和維を見て、それぞれの依頼遂行の為、ギルドホールから旅立っていってしまった。


 冒険者の割合として多いのはDとEランクだ。また、王都の周りには結界のため、上級や中級の魔物が少なく、低級の魔物は比較的多い。そこに来て、この一月程の魔物増大だ、Eランクの討伐クエストはかなり多くなっている。それを食い入るようにして、和維が延々と見ていて、時折、うぉ、スライムあった。とか、うぉ、ゴブリン退治。などと言っている。


 ナディーンはそんな和維の姿を視野に入れながら、カウンター業務や事務仕事、冒険者ギルドの銀行業務などをコツコツとこなしていく。


 そんな時だった。ナディーンもその視野の中、急に黒い影が和維の背後に立っている。最初は和維がランプの影に入ったのだと思ったが、その影はハッキリと影だった。


 その影はゆらりと揺らめくと和維の頭の上に黒漆でつや消したナイフをハッキリと掲げている。ミカはそれに気がつくとギルドホールのテーブルから一瞬の間合いで和維の後ろにある影に右手握りしめ、その拳をその影に打ち込んだ。


 ミカの右腕は影の中に入っているが、肉体の感触はなく、逆にミカの首筋に黒漆のナイフを当てられてしまった。そして、掲示板をのぞいていた和維のうなじ部分にもやはり、はっきりとナイフを当てている。


 ナディーンはすぐに動く事は出来ない、影から自分に対して凄まじい殺気を浴びせられていて、動くに動けない状態だ。


 ギルドホール内には人が一番少ない時間なのか、他のパーティもこちらには気がついていない。和維は左目で俯瞰して、後ろ頭に当たっているものや周りの状況をようやく把握して、その影に小声で言った。


「カウンターの中の女の子には手を出さないでね」


「へいへい。こっちだって弱いものいじめは嫌いだ。面倒なのも、もっと嫌いな質でしてね、若旦那ぁ…。その首はどうなってるんですかい。落としたつもりだったんだが」


「一応、秘密かな。僕らの力を試したいなら外の方が助かるんだけど……」


 和維は段々低くなり、ナディーンの周りに何も通さない結界を想う。そしてソレと同時にナイフを突きつける影に対しても何も通さない結界を想い。そして、和維はナイフを避ける。その気配にミカも動きだし、ナディーンと影の斜線上にはいった。



「なんか、このパターン昨日と同じだな」


「やっぱり、お前さんたちが殺っちまったんですかね」


「おー。話しができるってすごいや。どうやったの?」和維は純粋に興味がわいて影に聞いてみる。

主様(マスター)……、今はそのような話しではなく…」ミカはあきれている。


「いやいや、興味あるよ。掲示板を見てたら、さっきから虫とか、幽霊みたいな魂魄とか、そんなのを飛ばしてくる輩がいて鬱陶しかったもので。そのまんま、呪詛送りみたいに送り返すように想ってて。最後にこの人出てきたんだよね」


「うちの手下が何人もあっちの世界とこっちの世界を往復してまさぁ。そろそろ疲れたんで、座らせてもらえませんか」


 和維は、うーんと首を少しひねって黒漆のナイフをひょいと影の手からつかみとるとミカに渡して、影を操り人形のように操ってギルドホールのテーブルの椅子へと座らせる。周りには隠蔽と音の壁を造るように想ったので、周りからは気がつかれていないだろう。

 影はテーブルに座ると黒衣、黒頭巾、黒皮の脛当て、黒皮の手甲を身につけていた。和維が、あっと言うと、ニンマリして言った。


「忍者だ。忍者だよ、この人! 頭巾取って下さい。あ、もう動けますよ」


「日本人だって、忍者の存在知ってるのは、そうそう多くないってのに恐れ入りました」


 影はそう言うと黒い頭巾と面頬を取って頭と顔をさらす。その下には赤く長い髪と切れ長の目、かなりの美丈夫である。年齢は30歳くらいか? 見ようによって40手前にも見えた。年齢をわからなくしていたのは、左の頬に斜め十字に入った傷が普通の高校生なら結構ヒク感じがしてちょっと怖さがあり、それが年齢不詳な感じを漂わせている。


 その顔を見てミカが、はっとして和維に小声で言う。

主様(マスター)、その男とあまり親しくなられましても……」


「一応、殺そうとした? 理由とか聞いておきたいじゃない。それに縁ってヤツ? 忍者って滅多に見れないし。面白いじゃないか」


 和維は目を輝かせながら、ミカにそう言うと正面に座らせた影に向き直って、表情を一変させた。目の笑っていない笑顔で影を下に見る。その目を見て何人も殺しを芸術的に仕上げてきた影は、はっとなり、だが目を背けられないという状況で和維の言葉を待った。


「おにいさん。僕らの仲間になってくれない?」


 その言葉に思わず、ミカと影は顔を見合わせて、同時に耳を疑う。


「だ、旦那、ちょっとそれは冗談がキツいぜ。そもそも、こっちは、あわよくばってんで殺しにきてんですよ? それを味方にって言いました?」面頬をとった彼の声はおじさん特有のしゃがれた声でもなく、こちらの声の方が顔と相応する一段高い声だった。


「あ、声色変わって、口調が変わってきてますよ。とぼけた口調でなくても良いんですか?」

 和維はいたずらっぽい笑顔で影を見つめたままだ。影はたしかに口調も声色も偽っていた。


主様(マスター)、私も反対です。第一、信用出来ません」

 ミカは和維を食い入るように接近して、影を指差して抗議する。


「僕に取られて困るものは特にないかな。命すら無い。それに一日二日で僕らもこの人から信用してもらえないんじゃないかな。普通ではね」


「しかし…」


 和維が人差し指をミカの唇に押しあてて、言葉を遮った。ミカの頬がかすかに赤らむ。


「思ったんだ。確かにゲーム感覚でこっちにきてしまってて、僕らに圧倒的に足りないものがあるんだよ、それを補う必要があるんだ」


 ミカの唇に押し当てた人差し指を影に向ける。


「この世界の情報だよ。 魔神たちがうまく隠蔽してくれてて、手に入るのは僕らが動き回った場所とその周辺だけ。僕の本体がこの大地に影響出来ている場所だけさ。この広い地上の1%の情報だって、今は手に入ってないんだ。忍者って、諜報活動のエキスパートだよ。その人を雇えれば、百人力だよ」


 そう言って和維はこめかみに手を置いた。


 ミカは頬がまだ赤いが和維の言うことに、一つ一つ納得していった。影もその道ではかなり名の通ったプロだ、自分の置かれた状況や今後の展開など経験則と計算をする。いづれにしても、自分はこのままでは必死だろう、では、どうするか、いっそ裏から足を洗うか、いや信用が重要な世界だ失敗の汚点を残して足を洗う事はできない…。 ふと、影が和維の唇が動いている事に気がつく。


 そして、ふっと我に返ると和維の唇が何をしていたのかがわかって声を上げる。


「心を読めるんですね…。いつからってのは、もう聞きゃしませんが。わかりました。先ほどの空間魔法といい、今の読心術といい、うちの連中をあの世界としては再起不能にした呪返しといい…。万策尽きました。良いでしょう。仲間ってのになりましょう」


 影がそう返答すると、和維が左目に表示された彼の思考データを読むのを止めて、満面の笑みで影を見返す。ミカをすでにみていない、あきれているのが態度で見えているのだ。


 和維は影に向かって手を差し出した。影も握り返す。和維の握力はそんなにないようだった。


「よろしくお願いします! えっと……。ごめん、名前聞いてなかった……」


 影は和維の手をもったまま、ミカに大丈夫? と視線を送るが、ミカもあきれかえったまま、首を振った。


「これが、自分の仲間ってヤツですかねぇ。ま、いいでしょう。命預けますよ。ただし…」


 影が握手をしていない左手で一つと出してきた。


「裏世界は甘いもんじゃないんで。ちょっと清算だけは時間もらいますよ」


 和維はその言葉に目を見てしっかりと頷く。影はそれを見て握手を少し強めると、言った。


「俺の名前はクルト」







影の名前を変更しました(6/11)


いつも読んで頂きまして、

ありがとうございます。


皆様の感想やご評価が、

 とても励みになっています。

お気に入り登録頂けますと幸いです。


少しリアルがデスマーチの様相になってきました。

若干更新速度が下がりますがご容赦下さい。


今後とも

よろしくお願いします。

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