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転送

 和維は施設に戻る道すがら、ミカエルに薦められるまま指示されるがままに、左目の起動を行う。

 しばし歩みを止めると、両眼を閉じて左手でこめかみの辺りを触る。

 頭の中でカチッと音がして、瞼を閉じているにも関わらず、左目に最近のPCでも見た事がない、bootメッセージが流れはじめた。


 − 視神経接続・・・・・・・・・・100%

 − 生体適合化・・・・・・・・・・100%

 − 脳波同期調整・・・・・・・・・100%

 − ジャミング開始・・・・・・・・100%

 − 時空間端末接続開始


 施設に戻ったミカエルの言う通り、結界で何の気配もないのを確認し、和維はとりあえず、部屋に戻って制服からジーパン、Tシャツに着替える。


主様(マスター)、何をされているのでしょう。」

「旅の準備……だ。というか、そもそもその羽が邪魔なんだけど。部屋いっぱいに広がってるから支度できないよ。」

主様(マスター)が設定された羽ですので。邪魔と言われればしまいますが。口調もそろそろ、命令口調とか、もう少しくだけた言い方にしていただけませんか? 仮にも創造神たるもの……」

「長そうだから、その話し却下で。その姿変えるとか出来ない?大天使然とした雰囲気で、こっちはまだ心の準備ないんだから、急に命令口調とか無理だし、邪魔……」


 ミカエルはうーんと唸ってひらめいたように、羽と光輪を消してみせる、だが、まだ和維の表情には笑顔のかけらもないので、それならばと、魔法少女のようにその場でクルリと回転した。

 そこには背が和維の目線くらいで、腰までまっすぐにのびた黒髪、顔立ちは日本人ではあるが目鼻立ちがしっかりしていて、10人の男が10人振り向くような美少女に変化した。


 ミカエルは和維の顔を下から覗き込んだ。和維は自分の中の理想の美少女に頬を赤らめる。


「いかがでしょうか?」

「近いって。近いんだって。逆に困るってば……」


 頬を赤らめた彼にミカエルもいたずらっぽく微笑んだ。


「ヘー。主様(マスター)もそういう顔をされるのですね。」


 和維は何かに取り憑かれまいと、顔をそらす。


「そういえば、主様(マスター)。旅の準備とおっしゃられていましたが、どのような準備をされるのでしょうか?」

「そりゃ、着替えとか? テントは……倉庫だったかな」


 ミカエルは不思議そうに首をかしげる。そのかしげた仕草にまた和維は目をそらす。モデルとかアイドルとか、それとは全く違う異種の感じだ。アイドルは自分だけに微笑まないからか。など考えながら、リュックを手にしようとする。


「そのような準備は不要です。必要であれば、造れば良いです。湯浴みが必要でしたら魔法などでどうとでもなります」

「……はい?」


 彼は考えてみれば世界を創造している人間が生活感漂うようなことはしないかな。など考えてみる。


「それじゃ、行くだけか。そうか、行くだけか。ちょっと待って、追いつけない、切り替えなきゃ。僕はまだ人間なんだよ。少しずつ切り替えなきゃ……」

主様(マスター)? ますたー。戻ってこないですね。普通の人間なら心を読むところですが、主様(マスター)はプロテクト掛かっていますし、無理にやって、痛い目をみるのもいやですし」


 和維は5分ほどブツブツ言った後、ようやく、現実に戻ってきた。

 もともと孤児ということもあり、学校などで疎外感をたっぷり味わってきている。

 授業参観、家庭訪問、運動会、PTAのお知らせが自分には来ない事。などなど。

 親がいないと学校行事は全て苦行だった。それだけに気持ちの切り替えはわりと早いほうだったが、今回は時間がかかった。

 気持ちではなく、自分が人間ではないというところから、切り替えるのだ。目をつぶっていても左目には文字が浮かび続け、切り替えを阻害したということもあるが。


 再び、目を開くとそこには、先ほどまでの今時の高校生ではなく、少し落ち着いた雰囲気まで身につけている和維の姿があった。

 ミカエルから見ても

 「ほぅ」

 と声にだしてしまうくらいには、変化が見られた。


「よし、やるしかない。やれるだけやる。シナリオも台詞も自分で考えて良いってことだし。MMO感覚で、がんばろう」

主様(マスター)、お恐れながらこれはゲームではありませんので。」

「わかってるって、でも、とりあえずゲームって感じにした方が最初は楽さ。ミカエルのリミッター解除も段階的に調整出来るだろう。てけてってっててんと。いざとなったら全解放してしまえば良いしさ。一旦楽しむ方向でいくよ。」


 そうと決まれば、和維は左手でこめかみを触れた。ヘッドマウントディスプレイを見るように視野の中には文字が空中に浮かんでいた。


「コマンド音声入力。転移先でイベントを捜索して、イベント要件は貴族のツテが欲しいから、襲撃イベントで。侯爵令嬢救出とかテンプレがあれば、そこを転移先にしたい。」

「ゲームではないと……。」

 ミカエルが若干別の意味でこめかみを押さえているが、和維の目の中では空中の文字カーソルが点滅し始めた。ちなみに文字情報はミカエルの意思へも共有情報としておくられているようだ。


 −日本でなくてもかまいませんか?−

「えっ、日本はあるの?いや、そこはどうでもいいかな。かまわないけど、どこ?」

 −主様(マスター)の世界のパラレル世界です。フランス東部と言った方がイメージがつきますでしょうか。隣国への使者として第三王女が向かう途中で魔物に襲撃を受けています。善戦していますが、あと半日程度で全滅だと思われます−

「半日もかかるって、どれだけの規模なんだ? 魔物ってのも気になるし、転送中に情報をダウンロードしておいて」


 和維は悪そうにニヤリと笑うと、ミカエルを見る。見られたミカエルは背中にぞぅっと悪寒が走って首をすくませた。


主様(マスター)、実は自力でリミッター解除して本体になられていませんか……。以前、キレられた時の天の川銀河で有人惑星を破壊したときの表情に」

「そんなことないよ。大丈夫。しかし、ミカエルって言いにくいし。日本人みたいになってもらったし、本体になるまで、ミカって呼ぶよ」

「また、名前を変更されるのですか」


 黒髪の大天使は、こうしてミカという名の少女として討伐に参加することとなった。和維はどうだと言わんばかりにニッコリ笑って黒髪の少女を見つめる。そして、再度こめかみに指を添えた。


「天使たち、そこにするよ」

 −はい。転送データ入力、次元転送準備します。肉体的にブラックアウトする可能性がありますので、転移後はご注意下さい−

「いいよ。ミカ行くよ!」

「はい。主様(マスター)


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