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勘気

 王城の中でも二番目に大きな空間は謁見の間で、他国からの使節団は百人にも及ぶこともあるし、騎士団全体が集まる叙任式などもここで行われる。


 謁見の間は四方200メートル、高さ10メートル程、そして10メートル毎に直径1メートルの柱が石造りの天井を支えており、奥には5段ほどの階段が有り、そこに王の椅子とそれより少し小さい王女の椅子がしつらえてある。部屋をには金糸で縁取り刺繍がなされた幅3メートル程の赤いカーペットが王座まで届いていた。


 今は、そのカーペットを踏まぬよう左右二列で10人程度の人々が集まっていた。片側には鎧を来た騎士たちが、もう片側には布で出来た三角の冠帽をつけた文官たちがそれぞれ副官を伴って参列していた。


「国王陛下がお出でになられます! ご静粛に!」


 謁見の間に衛兵の声が響くと、騎士、文官それぞれ身を律して真正面を向いた。それと同じくして、謁見の間の奥の扉が開き、近衛騎士に先導される壮年というにはまだ若い冠を頂いた王が深紅のマントをたなびかせて入ってきた。その後ろにはカロリーナの姿と、王の冠より少し小さな冠を頂く青年も列に続く。


 王は王座に付くと右手に騎士団と文官たちをかなり上から眺め、言った。


「ローゼンマイヤー、カロリーナの護衛、大義であった」


 その言葉にローゼンマイヤーは「はっ」と軽く礼をする。その時、文官側にいる黒く長いひげを蓄えた老人が声を上げる。


「お恐れながら、陛下。報告によりますれば、カロリーナ様はご無事でこそすれ、帰途魔物の大群に襲われ、あたら若い騎士たちの命が多く失われたと聞き及んでおります。森の魔物ごとき遅れをとるとはローゼンマイヤー公のご采配に問題があったものと断じるをえませぬ」


 王は眉間にしわを寄せ、目を細めると、その文官を見やった。


「ハルトヴィヒよ、そなたが報告すべきはそこではない。魔物の増大の報告は我が耳にも聞こえておる、おのが報告すべくは我が国の結界が薄れているかどうかよ、あたら若い騎士の命を散らしたというのであれば、そなたら文官として、国境を守る結界の異変が無かった事を報告してからであろう」


 王の言っている事だけでなく、王の発する威圧感にハルトヴィヒと呼ばれた文官は、うつむきながら返答する。


「差し出がましい事を申しまして、大変申し訳ございません」


 この王は愚鈍でもなければ、聞く耳を持たないということもなく、時には国民に耳を傾け文官、武官の隔たり無く意見を聞くどちらかと言えば賢王であるが、自国、他国に関わらず変人としても通っており、王の嫌忌に触れた場合、下手をすると命が無いのは、ここに居る最高齢のハルトヴィヒが一番良く知っていた。文官の老人はローブの中で脂汗が流れるのを感じていた


 王はそれを感じ取って、興が醒めたように「まぁ、良い」といって、ローゼンマイヤーの方へ目を向ける。


「して、カロリーナより昨日聞き及んでおるが、日本から来た冒険者に助けられたそうだが、その者たちはいづれにおる、我は非常に興味がわいたぞ」


「彼らは一介の冒険者なれば……」


「なんだ、どうしたというのだ、いつもはわめき散らす癖に」


 ローゼンマイヤーはそれ以上何も言わない。いや、言えなかった。まさか、王が興味を持つと思わなかったのだ。よくよく考えれば、会わせろと言ってくる事も想定しておくべきだったが。


 その時、後ろに居るアーストのもとへと使いが走り寄ってきて、メモを渡した。そのメモを見るや、アーストは片眉を上げて王へと言上する。


「陛下、今、その者たちを預かる者が、陛下にお会いしたいと参っております」


「預かる? だと。また我をたばかって、自分だけで面白い者を囲いこむつもりか?」王はそういうと少しため息をつき、続ける。


「……まぁ、良い。通せ」


 その言葉に扉を守る近衛騎士が謁見の間の大扉を内側に開く、扉の向こうから皮のチェニックとズボンに身を包むコンスタンツェが、斜め下を向いて、王を視界に入れぬよう気をつけながら、赤い絨毯の真ん中を進んでいく。


 文官たちや、ローゼンマイヤーのすぐ右隣にいる脂ぎった中年の騎士が、いぶかしんで見つめる中、コンスタンツェはそれを意に介さず、国王の前に進んでいき、彼らと肩を並べるところまで来ると止まって言った。


「国王陛下におかれましてはご壮健の様子、お喜び申し上げます。」


「久しいな、コンスタンツェ。お前自らここへ来るというのも珍しい。聞けば、面白い冒険者たちをその方が預かっておるとか、その者たちに関する報告か?」


「恐れながら、ソチらの件ではございません。 先般のカロリーナ王女殿下襲撃に関したご報告ではございますが、魔物増大の方でございます」


 その言葉を聞いて、脂ぎった中年の騎士がコンスタンツェの方を向いて言った。


「陛下は、そこに助けに入った冒険者についてのご報告がご所望だ。それについて話しをしろ!」


 コンスタンツェは、その中年ににらみをきかせる。


「それがギルド連合を束ねるあたしに言う台詞かい? 今日は冒険者ギルドのマスターの立場ではないよ。いいかい。黙ってな、ヴァルデマール」


 それを聞いて王が「ほう」と声をあげる。


「今日は座頭としてではなく、連合の長として来たか。ならば、先にそなたの話しに耳を傾けねばならんか」


 ヴァルデマールと呼ばれた中年騎士は歯噛みして伏せ目がちにコンスタンツェを睨む。当の彼女はその目にうるさがる事も無く、王に目線を向ける。


「先般、カロリーナ王女殿下襲撃後、ローゼンマイヤー公より依頼を受け、様々なギルドおよび冒険者ギルドにて、国内、国境における結界を調査致しましたところ、北方および東方の結界に人為的な破壊の後が見られました。現在、聖職者ギルドおよび魔術ギルド相互、協力のもと、復旧に当たらせておりますが、復旧には、かなりの時間がかかるものと思われます」


「襲撃も魔物の増大も、それが原因と申すか?」


「襲撃については、そうお考え頂いてよろしいかと、ですが、魔物の増大の兆候は、ひと月程前からあり、襲撃地点よりも王都やその周辺の町の方が近く、襲撃の方が意図的なものが多く感じられます」


 王はコンスタンツェからの話しを時折頷きながら聞くと。


「うむ、理解した。して、お前がここに来たのだ。その報告だけではあるまい。何をどうすれば良い?」


 王はコンスタンツェにいたずらっぽくにやりとして聞いた。


「叶うなら、冒険者ギルドは本来の魔物増大を収めるべく討伐を優先とし、結界復旧に宮廷魔術師のお力と護衛に騎士団のお力添えを賜りたく」


「なんだ、そのような事か、至極当然ではないか。結界が破壊されたとなれば、国家事業として復旧に務めるは王国の第一優先である」


 王はそういうと、ハルトヴィヒとヴァルデマールに命じる。


「ハルトヴィヒ! 宮廷魔術師を揃えよ! ヴァルデマール! 貴様の第一騎士団にて宮廷魔術師の護衛と周辺の魔物討伐だ!」


 白髭の老人が王に目を向けると口を開く。


「しかし、陛下。まだ我々の調査が終わってはおりませぬ。ギルドの言葉だけで兵をやたらに動かすのは…」


「黙れ! 魔物増大の調査にどれほど時間をかけてきたというのだ。貴様らが市井とともに政を行っておれば、このようにすぐにも調査完了していた事であろうが! 足の取り合いだけが政と勘違いしとらんか!」


 ハルトヴィヒは、突然の大声に「ヒィ」と思わず声を上げ、押し黙る。


「本日はこれにて、解散とする! ハルトヴィヒ! ヴァルデマール! 早急に片を付けろ、ゴタクはもういらん」


「はっ!」


 脂ぎった中年と白髭の老人は礼をして勅命を受けるとそのまま下を向き続ける。


 王はそのまま、立ち上がると、肩を怒らせながら、ハルトヴィヒとヴァルデマールを睨みつけてから、謁見の間を出て行く。カロリーナも小さな冠を頂いた青年も王に従って退出した。


 それを見届けるや否や、ハルトヴィヒもヴァルデマールも、副官になにやら悪態を付きながら、王の勘気は時として苛烈な処断を降す事もあり、それが目の前に迫っていた事を悟ったのだろう。足早に謁見の間を出て行ってしまった。


 残った文官と武官は、コンスタンツェに礼をすると、謁見の間を退出していった。残ったのはローゼンマイヤーとアースト、コンスタンツェの三人だ。


「これぐらい、あんたたちだけでやっとくれ。あたしだって暇じゃないんだよ」


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