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麺包

 和維は左目の調整を行いながら朝を迎える。太陽は上ってから1時間程度経ち、王都全体に鐘の音が鳴り響いたが、それでも目を覚ます事が無い。一瞬、天に召されたのかと思って口と鼻に手をかざしたが息はしていた。と、先ほどの耳元の吐息を思い出して……、ガバっとベッドから飛び退いた。


 その音にミカの瞼が少しきゅっと閉じられ、白く長い両腕が上に伸びていき、ベッドから飛び退いた和維の姿を確認すると、うっすらと開いたその目で、ちょこんと首を前にまげる。


「おはようございます、ますたー……」そういうとまた、瞼が重そうに閉じていった。


「ちょっ、また寝るのか、いいなぁ寝れて」

「……! あ、すみません。主様(マスター)!」

「いや、いいよ。ちょっといじけてみようと思う。寝れないしさ。夜の間ずっと、左目だけでお出かけしたりさ。虫の視覚奪ってみたりさ。明け方にコウモリの視覚奪って遊んだりさ……」


主様(マスター)、暗いです。とっても暗いですよね」

「いや! それでも王都の町並みだけは、慣れたぞ!……」


 和維は自分が言っている事に非常にむなしさを感じて、ミカにかしづく。


「はい、暗いです。暗いね。明日はもっと別の事しようと思いますです、はい」


 それを見てミカは少しニッコリと笑って、ベッドから窓際へ移動して外の往来を見た。


「そろそろ、人も出歩き始めたみたいですね。ギルドに向かいましょうか?」


「そ、そうだな」


 ミカはその言葉に鎧を着込み、剣を腰に盾を背中にかける。それを見てとると和維は杖と鍵を手にとり、部屋を後にした。便利な事に、この扉はオートロックの魔法が掛かっているらしい。鍵をかけようとしたら、既に閉まっていて、現代的? というか、魔法って何でもできるんだなと、ちょっと驚いてしまった和維がいた。


 和維とミカは一階まで降りると、目の前の食堂には昨晩の飲み散らかした後がスッカリとなくなって、朝食をとる冒険者などが数人いた。そして、人族の給仕の女の子がこちらを見つけて声をかけてくる。


「カズイさん、ミカさん! おはようございます!」


 朝から元気なこの子はアンナ、真っ赤な髪の毛にブラウンの瞳で、年は15歳というからミカと同じくらいにも見えなくもないが、ミカが綺麗というなら、アンナはかわいいという感じだ。きっと髪をおさげにふたつしているのもかわいさって感じかもしれない。


 アンナが大きな声で挨拶したので、厨房にいたノーラも厨房からこちらをのぞいて言った。


「おはよう、眠れたかい? 若いんだから朝食はちゃんと食べていきなよ!」


 その言葉に反応したアンナが和維たちにテーブルへと誘う。商売上手だな。とか思いつつ、昨日の炙ったソーセージがとてもおいしかったのを和維は思い出し、椅子にすわる。


「アンナ、パンとスープに、昨日のソーセージを炙ったヤツおいしかったな、あれを少しもらえる? ミカもそれで良いかな?」


 和維のその言葉に、ミカが頷くとアンナが「はーい!」と言って、厨房に駆けて行って、まずパン籠を持ってきた。


「これ、毎朝ここで焼いてるんですよ! 親方が焼いてるんです!」


 ふぅん。といって、和維はそのパンを手に取ると、まだ温かい。そして、騎士団でわけてもらったパンと比べ物にならないくらい、柔らかかった。ひとつずつ手に取ると、ありがとうと言って、ミカが朝食代をアンナに渡そうとする。


「あ、金貨しかないんだけどいい?」ミカが申し訳なさそうに聞いた。

「おつりあるか聞いてきます〜」また、アンナはすっ飛んでいくと、また疾風のごとく戻ってきた。


「大丈夫ですよ〜」

「じゃあ、ごめんね、二人分で」と金貨を一枚渡すと、アンナがすでに用意していたおつりをミカに渡す。で、アンナはそこで、急に元気をなくし困った顔をして、厨房にいるノーラに助けを求めるように見やった。


「ごめんね、ちょっと計算できなくってね、おつりは銀貨99枚と銅貨84枚だよ」


 やはり文化レベルは中世並ということだろうか、識字率も低いかもしれない。とか和維は考えているが、アンナを励ます。


「大丈夫、僕らもおつりいくらかわからないし。気にしない、気にしない」そう言って、アンナの頭をぽんぽんとしてやった。アンナは少し嬉しそうだ。


「あ! ぱん、パン食べてみて下さい!」

 アンナがうれしそうにパンをすすめてくるので、一口大にちぎって食べてみると、すごく口当たりもやわらかくて、小麦の香ばしさも鼻をくすぐっていき、とてもおいしかった。ミカも満足そうにうんうんと口にほおばっている。


「おいしいね。とてもおいしいよ、アンナ」


「えへへ。今日初めて親方に手伝って良いっていってもらって。焼いたんですよ。えへへ」

 アンナは非常にうれしそうにしていた。


「アンナ、そういえば、親方って誰? ヘルマンさんの事?」


 和維がそう聞くと、厨房からノーラがスープと炙ったソーセージを持って出てきた。

「そうだよ、元々、うちの亭主が親方としてパーティを率いてた時のパーティメンバーの子供たちや孫でね。冒険者を引退してから、この子たちを預かってるんだけど、その時の呼び方のままさ」


 聞けば、ドワーフはエルフほどでは無いが長命でアンナの親と祖父はそれぞれヘルマンと同じパーティを組んでいたのだそうだ。いわゆるパーティの寄り合い長がヘルマンで、寄り合い仲間ということになるようだ。多いときには100名前後の大所帯だったらしい。


「ナディーンの両親とは特にうちの人は仲良くてね、いまでも娘のようにかわいがってるのさ」


「あ、あたしは?」とちょっと涙目のアンナ。そんなアンナの頭を優しくノーラはなでてやる。

「あんたはかわいい孫みたいなもんさ。さっ、さっさとはたらいといで」


 アンナはうれしそうに厨房へと駆け込んでいった。本当にうれしかったのだろう。


「今日はあんたたち冒険者ギルドに行くんだったね」ノーラがアンナの背中から視線を外して和維たちに話しかけてきた。


「うん。昨日は登録だけだったから、規則とか、Fランクの宝石? それをもらいにいかないといけないんだ。」


「そうかい、そうかい。Fランクのクエストは採集とか配達とかが多いからね。大丈夫だろうけど、二人で無茶するんじゃないよ。ここらへんの連中も一応、腕っぷしはそこそこ自慢にしてるからね、いつでも頼りなよ。」


 ノーラはそういうと厨房に戻っていく、和維とミカは、ソーセージの炙った香りを楽しみながら、朝食を食べ終え、「ごちそうさまでした」と言って。コンラッドを後にする。






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