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平謝

 ここにはお酒は二十歳になってから。とかそういう何才からというものがないようだ。いや、ドワーフと一緒に飲むということは何才でも飲まされるという事になるのかもしれないが。ヘルマンなどはエールを産湯にしていたそうだ。そんな彼もいまは、エールの空樽を愛おしそうに抱きついて椅子にどっかと座ったまま落ちている。


 そもそも、ここで起きているのは、ノーラとミカと和維の三人のみだった。ノーラは厨房で料理を次々に作っていたため、宴会には参加できず、テーブルにせっせと運んでいた給仕たちが次々と捕われていった。

 ミカはと言えば、適度にアルコールを分解・解毒しながら飲んで居たため、ほんのり頬を赤らめる程度で、ニコニコと酔っぱらいと会話を引き出して聞き役に徹していた。


 そして、ヘルマン以下、冒険者たちを次々と酔い潰していったのが和維だった。初めて飲むエールだったが、最初の一杯が少し苦く、すぐに気持ち悪くなって、ミカからは「主様(マスター)、顔が青いです」と言われたが、すぐにその状態から回復し、また、すすめられて飲む。気持ち悪くなる。治る。の繰り返しをしていた。飲みすすめるにつれ、量を飲んでも気持ちも悪くなるのがなくなっていった。酒への耐性がついたのだろうか。


 そして、和維は酔っぱらった周りの冒険者たちと、負けたら一気するというアームレスリングを持ちかけられて、負けてそうになっては、相手の能力を上回って勝ち、さらに強い冒険者が来ては負けそうになって勝つということを繰り返していくうちに、腕自慢が酔いつぶれた。これが第一の犠牲者だろう。ここで腕力が一気に上がり、マグを持つ手の加減がわからず、一個握りつぶしてしまった。


 アームレスリングが終わった後、ヘルマンからは昔ばなしをされ、これには周りからのヤジとその掛け合いが楽しくてなかなか前にすすまない。そうこうしていくうち飲み比べになり最後まで残っていたヘルマンまでもが夢の中。


 そうして今に至り料理や洗い物が落ち着いたノーラが、やけに静かになった食堂をのぞくと、和維とミカしか満足に椅子に座っているものが居ないのを見て、慌ただしく出てきたところだ。


「この人がつぶれるのを久しぶりに見たわ。まったく、なにはしゃいでんだかねぇ。あんたたちは大丈夫そうだね、よかったわ」

「ま、まぁ。そこそこに飲みましたけど。大丈夫みたいです……」


 そこで、ミカが忘れていたかのように、話しを切り出した。


「ところで、いきなり宴会になってしまったので忘れていましたが、わたしたちこちらに泊まりたいのですが」

「あらっ、そうだったわねぇ、ちょっと待ってね」


 ノーラはそう言って、厨房の横にあるカウンターに入って金庫から鍵を取り出してきた。


「ちょっと一番上の部屋しか空いてなかったけど、おまけしちゃおうかね、一泊金貨1枚だけど、90枚で良いよ。あと、朝食とか、飲み代とかは別料金になるからね。あ、今日の宴会はうちのが勝手にやったからね、他の連中とうちのからごっそり頂くから心配しないで」


「ありがとうございます。主様(マスター)、どのくらい泊まりますか?」

「うーん、ランクあげるのにそこそこ掛かるよね。10泊くらいかな? そうしよう」

「では、ノーラさん、10泊でお願いします。えっと、金貨しかもってないのですけど、良いですか?」

「大丈夫だよ、金貨だと9枚だね」


 金貨4枚ということは銀貨100枚が金貨一枚ということらしい、今後計算が楽そうで良かった。と和維は思ってもみないところで、貨幣価値がわかって良かったと思った。ミカはバックパックに手を入れると金貨を9枚取り出して、ノーラに渡した。


「ありがとうね。水浴びとか身体を拭いたいときは桶を貸してあげるからね、ここに来ておくれ、さ、これが鍵だよ、部屋は4階の手前にあるからね」


「ありがとうございます」

「ノーラさんありがとう、さっそく部屋にいってみる、けど…。なんか、大丈夫?」


 ノーラがきょとんとそう言った和維を見つめ、和維の見ている方向を見て惨劇を再確認した。


「あー、大丈夫だよ、まぁ、そこそこの冒険者たちだからね、朝になったらちゃんと起きてくるよ」


「そっか、わかったよ。んじゃ、部屋行ってみるね」

「はいはい、ゆっくりしといで。おやすみ」


 和維とミカは床に転がった冒険者たちを避けつつ、食堂の奥にある階段を上がっていく、階段は木で造ってあった。4階まであがってくると廊下があり、現代のように休憩スペースやそのようなモノがなく、部屋が3つ並んでいた、そこそこ扉同士が離れている。階段に一番近い部屋の前に、鍵についた木札と同じマークの扉があったので、その鍵穴へ鍵を差し込んで、ガチャリとまわす。少し光ったので、魔法の仕掛けもしてあるようだ。


 奥のカーテンからの月明かりで、中が少し見える、結構広く、ベッドが6つあるが、それほど窮屈に置かれている訳でもなく、書斎机もあり、ちょっとしたリビングスペースもあった。


「これ、高いんじゃないかな」

「そうですね、これで普通金貨1枚ということですから、金貨1枚がそれなりに高額だということでしょう」

「だよなぁ。高校生だった僕としてはちょっとヒクね、盗賊が狙うわけだよね。なりたての冒険者が金貨100枚と金の小粒をもってんだからね、良いカモだったんだろうね、今後気をつけよう」


 和維はそういうふうに言いながら、また別の事も考えていた。


「でも、良いところ紹介してもらえたよね。先輩冒険者の人たちも良い人たちばかりだったし、いろいろ聞けそうだし、ヘルマンさんの長い話しも面白いしね」


「そうですね。主様(マスター)が気に入って頂ければ。それでよいのですよ」


 和維は「そっか」と言って、ベッドに寝そべる。


「朝になったら冒険者ギルドに行ってと、ちょっと王都見学したいな」


 そこでミカからの冷たい視線と、指でトントントンと叩くのを音で聞こえてきて、はたと気がつき和維は言葉を続けた。


「あ、勿論、ギルドでは魔神とか魔物の情報は集めるからね、必要ならアーストさんところに行っても良いかな……」


「アースト様の居場所は聞いてませんよねぇ、こっちにきてから、結構無計画に来てますよねぇ。こんなことで、大丈夫なんですかねぇ。来てやった事はなんでしたっけねぇ、朝」


(!!……)


 和維は唐突に気がついた。朝にやった事をやっと思い出した。しくった、完全にしくじっていた。二人になったところで謝ろうと、冒険者ギルドまでは覚えていたのに…。和維は、ベッドの上だが、ミカに向かって、土下座をする。


「すみません。ごめんなさい。もうしないようにします、本当にごめんなさい」


「この身は主様(マスター)の為にございますので、何も言うべく事はございませんが。むやみやたらに女性に向かってその魔法をお使いになられますと、いかがなものかと思います」


「……はい。申し訳ございません」さらに深々と土下座する。


「そうおっしゃられる、主様(マスター)も現在は当然、17才の肉体と精神をお持ちですので、勿論、性の欲求というものもあるかと存じます。その為ならば、わたしが……」


 そういうとミカは鎧を外し始めた、その音と気配を感じ取り、和維があわてて、もっと土下座の角度を深くして、言った。


「ごめん! たしかに若いと思うけど、そういうことじゃないから、そういうことだめだから。ミカはそういうのダメだから、ね。おねがい。ダメ。ね……」


 ミカは鎧を外し終わり、和維のベッドに腰掛け、和維の耳元に口を寄せる。


「次にあったら、許しませんよ……」と言って、和維の横に落ちている。


「酔っぱらってたのか…、危ないって、それでなくても僕の好みに合わせてあるってのに。全く…。あ、寝た。僕眠れないのに……」


 ベッドをミカに譲り渡し、和維は、書斎机にある椅子に座ると、左目でマップ表示させて朝からの行程を考え始めた。無計画はいかん。と、明日の観光計画を立てるのだった。






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