表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/42

換金

 和維は困っていた。それはとてつもなく困っていた。どのくらいって、ここの貨幣価値がわからないのだ。ようはお金がない。宿にも泊まれもせず。くつろぐなんて事が出来ようはずは、ない。

 ナディーンからのこの宿をどうするか、と言われて、金がないことにようやく気がついたのだ。先ほどの結界の中の雰囲気からは全くかけ離れた年相応な青年のように困った顔をして、和維はナディーンに答える。


「……実は、僕らお金持ってないんです……」


「はへ?」


 まさかの答えにナディーンは開いた口が塞がっていない。かなり上等、いや、ミカの装備品などは最高級品だろう、それを身につけた彼らが、お金を持っていない。とは、先入観からとはいえ、言葉ではわかっているが、頭で理解するには時間がかかった。ただ、ナディーンが理解するよりも早く、別の回答を示した者が居る。


「金貨ではないですが……」


 ミカがカウンターに麻袋をゴトリと置く。和維が麻袋の口紐を解いて、中を覗き込むとナディーンもカウンター越しに覗きにきた。


「はやぁ……。これは金ですかぁ…。すごい量ですね」

 麻袋の中に入っていたのは金の粒だった、一つ一つが人族の小指の爪くらいの大きさだ。


「ナディーン殿、これで宿泊は可能ですか?」


「交渉次第ですが、無理だと思いますねぇ。あれならギルドで換金することも可能ですが。一般とギルド価格のどちらを適用すれば良いか…」


 その時、階上から声が聞こえて来る。


「ギルド価格で良いに決まってるだろうこの娘はそれくらいの権限はもたせてるだろうに…」


「だって、ギルドの説明してないですし、そもそも、ランクの設定だってして無いじゃないですか〜」

 ナディーンがほっぺたを膨らませながら、階段を降りてくるコンスタンツェに言いかえした。それを聞いたギルドマスターは「そりゃそうだね」と言いながら、カウンターの中に入る。


「どれどれ……これは結構な量だね。全部をギルドで両替しなくても良いんじゃないかい? とりあえず、当座のお金があれば良いんだろ?」


「うん、そうだね。宿屋とか、ランク上げないと別の国にいけないっていうし、宿泊代とかかな」


「支度金も必要だね、ナディーン。金貨100枚分を測って換金してやんな、あたしは寝るよ。はやくかえんなよ」


 コンスタンツェは階段をまた上っていき、ナディーンは「はい」と言って、麻袋を預かりナディーンはカウンター内の事務スペースにある大きな机(一応、死角無く冒険者が見える位置)で、天秤の片方におもりを付け、もう片方に麻袋から金の小粒を少しずつ取り出していった。麻袋から金の小粒が出てきたのを見てギルドホールにいた目敏い連中は、仲間内でコクリとやっている者たちが数人いた。


 ナディーンは量り終わると、カウンターに戻ってくると、こちらが金貨100枚で、こちらは手数料を頂いて残った分です。と麻袋と金貨をカウンターに置いた。それをミカがバックパックへと仕舞い込んでいく。


「それで、どんな宿が良いですか? 王都ですからお好みに応じたところを多分ご紹介できると思いますよ」


 ナディーンは地図を広げながら言った。和維もミカもそれを覗き込む。


「王都初日だし、ちょっとゆっくりしたいな。昨日はテントだったし。うーん、悩むね」


「でしたら、わたしがお世話になったところでも良いですか? ちょっとここから歩きますけど」


 そう言って、地図の真ん中からやや左下にある冒険者ギルドと書かれた箇所から指をずーっと右になぞっていき、ほとんど、王都の真東の城壁のそばで止めた。


「ここです。価格もリーズナブルですし、優良冒険者の方も結構泊まられている事が多いです。」


「んーっと、ホテル・コンラッドで良いのかな?」


「ですです。ご主人と女将さんが元々冒険者で、とても良いところだと思いますよ」


 和維はミカを見ると、頷きかえしたので。


「んじゃ、そこにするわ、ありがとうナディーン」


 ナディーンはいえいえと云うと、地図に丸で印をして渡してくれた。そしてまた明日お会いしましょうと、和維とミカに深く一礼した。それをみると、和維も深く一礼を返す。施設で礼には厳しく育った和維らしいと云えばそういえなくもないが、自然と礼を返したところをみると、ミカもちょっと意外そうに和維を見てからナディーンに礼をした。


 和維たちは、カウンターを後にすると、ギルドホールのテーブルを横切って、ギルドを後にする。外はすっかり夜だ。月も結構高い位置にある。地図をみると、ここら辺は大通りに面しているので、店が多いのもあり、店からの灯りが結構あって存外に明るい。焚き火よりはましか、と和維は思いつつ、大通りをミカと一緒に歩いていく。


主様(マスター)、ギルドからついてくる連中が居ます —

−うん。気付いた。お約束だね。ちょっと、金の小粒はやり過ぎかな。本当はアーストのツケにしたかったのに。あそこで金貨100枚とか金の小粒とか、ないよね —

−すみません。主様(マスター) —

−とにかく、殺しちゃダメだよ —

−盗賊はどこでも極刑ですが —

−んー。それ反対。殺せば悔い改めるのかな。って思うんだよね —

−しかし、そ —


 その時、和維の背中めがけて黒い漆のようなものでつや消しされたナイフが飛んできた。和維は飛んできたというのは察知できていたが、身体能力が追いつかず、避けきれない。ミカはナイフを和維に背中に突き刺さる前に手刀で叩き落とす。


「つっ……」


 和維はようやくナイフが投げられた方向を振り向くと、ミカの手から赤い血が滴っているのが月明かりで見えた。ミカは手を押さえながら、「即効性の毒のようです……」と言ってガクリっと膝を落とす。


 ミカが膝を落とすと同時に和維たちを取り囲むようにして6人、降ってきた。月明かりとは逆になっているが、シルエットは小さく耳が少し尖っている。


「あタ〜りー。お前さんたちとは初対面だったからな、一応麻痺毒にしてやったぜ」


「どーせ、あんた殺すんでしょ、麻痺毒とかじゃなくっても良かったんじゃない?」


「コロさね〜よぉ」


 小さい影はニヤリと笑い、隣にいる少し背の高い女がそう言う。小さい方の男は和維の顔の前に、今度は月明かりが銀色に反射するナイフを突きつけた。


「装備一式と金ダ。出しゃァ、命はたすけてやらぁ、ギルドのくそばばぁにチクったらコロスケドなぁ」


 和維は左目の下にうずくまっているミカを見て、小さな男を視野にいれ、その言葉を聞いた時、血が沸騰し、足下から血の気が引き、頭に血が集中していくのを感じた。


「あら怖い顔しちゃってぼーや。よく見たら良い男だから、あんたは殺さないようにおねぇさん……」


 女の言葉がそこで途切れた。口は動かしているが、声になっていない。和維が彼ら周辺に空間停止を想ったからだ。彼らの身体は動かない。


「僕をどうするって? ……いや、僕らか」和維は空間魔法を彼らの身体に固定し、言葉を伝える。


 そして、後ろを確認し横にずれてナイフをかわすと、小さい男の横に立つ。やはり、冒険者ギルドで会ったホビット族の男だった。他の5人もそのテーブルにいた仲間たちだろう。


 和維はこのホビットからナイフをゆっくりと引きはなすと、自分の手に持ち、和維自身にやられたように、ナイフを目の直前に突きつける。

 男は身体が動かないが冷や汗は出るようで、顔の表情は優越感に浸っているのにも関わらず、顔の横をつつっと汗が流れ落ちていった。


「……ま、主様(マスター)、私は大丈夫です、解毒も終わりました」ミカがゆっくりと立ち上がるのが見える。


「良かった。うん、良かった。 さっきは殺さないって言ったけど、殺してしまうんじゃないかと考えてた。命拾いしたよね。さて、さっき言った通りにしようか。罪は一生償っていくように」


 和維は地図の余白を細長く6枚切りとると、その一枚の細長い紙をホビットの腕に乗せて、一気に引いた。紙は腕の皮膚を切り裂き、傷口からは透明な液体がポツポツと出て、直後真っ赤な血が出始める。男の額にはうっすらと脂汗が沸き、目からは涙を流している。


「殺すっていってた顔から涙が出てくるってのも、おかしなもんだね、ちょっと解いてあげる」


 ホビットの男や他5人の首から上がそれぞれ動くようになり、ホビットの男などは苦悶の表情となり、それを見させられていた者たちは逃げようと、首を逃げたい方向に向けたり、呪文を口にしようとしている。和維は手に持った紙を盗賊たちに見せると、目を細めて言った。


「さて、これの答えね、紙はこんな感じで、剣にもなるんだ。もう一回やってみようか?」


 和維はホビットの隣の女に声をかけた、と同時に紙を二の腕の部分に当てて、鋭く引き裂いた。

少し引く力が弱かったのか、紙が二の腕に残ってしまった。女は涙を浮かべて、助けてと口にしているような動きをしている。


「命は奪わない。ただし、この紙はあなたたちと共にあるように、そして、同じような事をすれば、肉を裂き続ける刃となるよう、魔法をかける。良いね。大事に扱ってね」


 和維はその紙を一人一人の手首に巻き付け、女は腕に入ったまま巻き付けて、そのように、そうなるように想った。きっと一生呪いのように紙は彼らから離れることはないだろう。和維はそのままミカと彼らのもとを離れていこうと歩みをすすめた時、クルりと振り返る。


「あ、忘れてた。空間魔法はすぐに解くよ。あと、ここであった話しをどこかでしても、紙が肉を裂くから。覚えておいてね」


 この後、5分ほどしたあとだろうか、ここ一体に張られていた空間結界は和維の言った通り、消え去る。そして、彼ら6人はこのあと、ギルドにも帰らず、王都でも姿を見る事はなかったという。


いつも読んで頂きまして、

ありがとうございます。


皆様の感想やご評価が、

 とても励みになっています。

お気に入り登録頂けますと幸いです。


今後とも

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ