小母
「さっきのあの光はなんだい!」
ギルドの中庭にはいってくるなり、そのおばさんはこちらに詰問してきた。そのおばさんは騎士団の重装歩兵が身につけるのと同じぐらい重そうな白い、どちらかというとパールホワイトの鎧を身につけ、背の高さはミカと同じくらいだが、胴回りはだいぶ奥行きのある人族のおばさんだ。あと20年ほど前に会っていたら綺麗だったであろうなぁ、と和維は思う。
そのおばさんは再度言った。次はブルーの瞳に強い力を込めて、ナディーンとアーストにである。
「さっきの、アノ、光はなんだい?」
おばさんは和維とミカを交互に見て、それぞれの指輪とブレスレットを確認した。おばさんは斜め下を見ながらかぶりを振って、やれやれと両手を広げた。
「まったく……。ただでさえ最近の魔物出現数と討伐依頼の多さに辟易してるんだよ、こっちは。これ以上あたしの仕事増やしたくないからね、アースト、騒ぎになったらあんたのところで、処理しといておくれ。やっちまったもんは仕方ない、さっ、こっちにおいで。詳しく聞かせてちょうだい、あんたたち」
中庭に通じる出入り口には冒険者たちが集まってきていたが、ギルドマスターと思わしきおばさんに「さ、どいた、どけっていってんだろ、じゃま」とか言われ、和維たちを引き寄せると、すぐそばにある階段から二階に上がり、その中の一室に押し込まれる。勿論アーストとナディーンも一緒だ。
そこには、冒険者の粗雑さなどない落ち着いた調度品とカーブの美しいソファーが一式とクリスタル製のテーブルがあった。おばさんは部屋につくなり、ナディーンに手伝いを命じ、スーツアーマーを脱ぎ始める。胴回りは鎧のせいだけでもないようだ。脱ぎ終わってチェニック姿になると、突っ立ってる和維たちに向かって、少し怪訝な顔をしている。
「なんだい? 座ってて良いんだよ。別にお前さんたちに怒ってる訳じゃないんだからね」
その言葉はすこぶる優しい、肝っ玉母さんのような感じだ。
「立たされ坊はそこの坊ちゃんとナディーンだけだよ。さぁ、こっちにおすわり」
おすわり。というところで和維たちには笑顔を見せ、ソファーの方へこっちこっちと手招きして、着席を促した。和維とミカが腰掛けると、自分も一番奥の一人掛けに腰を下ろす。アーストとナディーンは入り口のそばで立ったままだ。その表情は固い。
おばさんは優しく和維とミカに微笑むと自己紹介をする。
「あたしは、コンスタンツェ・ビッテンフェルト」
「コンスタンツェで良いからね。この国のギルドマスターをやってる。あなたたちの事はローゼンマイヤーの爺様から聞いてるよ。さぁ、ちょっとそのギルドカードを見せておくれ」
和維とミカはそれぞれ、その言葉に従って、指輪とブレスレットを外す。そして、ナディーンのやったときのように魔力を込め、カードへと戻しコンスタンツェに手渡した。
コンスタンツェはカードを受け取ると、ブツブツと何かを唱えた。ギルドカードが淡く蒼い光をたたえ、文字が浮かび上がった。彼らのステータス以外の情報だ。申込書に書いたものと同じような内容が列記されているだけだった。
水銀計の水銀を下げるかのようにカードを振って、蒼い光を振り払うと、再度同じように唱えて文字を浮かび上がらせる。やはりステータスの表示はされていないようだ。
「ナディーンが失敗するとも思えないね。さてどうしようかね……」
コンスタンツェはアーストとナディーンの二人の顔の間を目で行ったり来たりさせている。その時ようやくアーストが口を開く。
「すまん。俺が悪い。ちゃんと話しをするから。この子は開放してやってくれ」
アースト、それで良いのか? というくらい平身低頭でコンスタンツェに懇願した。そこをバッサリと言った。
「ダメだよ。この子たちの素性はうちの子も知っとかないとね。この子たちは特別なんだろう、王家としても。だったら尚更、ギルドの依頼はこの子の素性とかを知ってる人間を専属でつけた方が良いだろう」
そこで、和維がちょっと手を上げて、アーストを見て、次にコンスタンツェを見て言った。
「ローゼンマイヤー様からどこからどこまで、聞かれているかわかりませんが、覚悟はよろしいですか?」
「覚悟? あんたたちはここにいて、こうやってギルドカードも発行してるだろう。覚悟できてないってんだったら、この館には入ってくる事すら許可してないよ」
コンスタンツェのその言葉を聞いた和維は、アーストを見て、頷くのを確認する。
「……ミカエル(・・・・)。この部屋に結界を」
「はい。主様」
ミカはこの部屋を覆うように自分の魔力で満たし、窓に掛かった赤く厚いカーテンを閉じるように空中を指でなぞると、言葉を紡ぐ
『空間切断 虚空結界』
※すみません、キリ良くしたかったので、
※ちょっと今回短いです。
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