入都
石造りの城壁は一つ一つの石が白く、多少表面がでこぼこしているものもあるが、見える部分は1メートル四方のものを積み上げられ高さはビルの5階程度20メートル行かないくらいだと思われた。川を超えて少ししたところに五角形の紋章の掘られた鋭角なアーチを持つ門が見えてくる。その脇には衛兵小屋があり、王都にやって来た人々はここで検閲を受け門の横の小さな入り口から王都へ入場するようだ。
第二騎士団の面々は団を象徴するのだろう、川を超えてから各自緋色のマントを鎧の肩当てから装着する。
そのマントを見た入都待ちをしている人々はその中程に居るローゼンマイヤーに恭しく礼をしたり、兵士たちは子供たちからの羨望のまなざしを受けている。
門の衛兵は、第二騎士団が見えてくると同時に検疫を一旦、中断して、幅5メートルはあろうかという大門を門の内側から鎖で少しずつ吊り上げていく。動滑車からキャリキャリと音がして、第二騎士団が門前にたどり着いたときには門は開ききっていた。
そして、門の上に立った歩哨がラッパを吹き高らかに宣言をする。
「カロリーナ王女殿下、ご帰還!」
王都内ではまだ見えないが歓声があがっている。先頭に居る重装歩兵たちは緋色のマントを翻し、右に曲がっていき、二列縦隊で大門をくぐり抜けていく。
カロリーナの乗った馬車の横で和維はその出迎えの光景を早く見たいと思っていた隣へアーストが手綱を引き戻して、やって来る。アーストは馬上から降りて、近くに居た兵士に馬の手綱を預ける。
「大門を超えたところで、我々はギルドへ向かいましょう」
その言葉を聞いたカロリーナが和維に言った。
「カズイ様はギルドへ行かれるのですね、道中をお助け頂いてありがとうございました。貴方方に来て頂けなければ、この命なかったものと思っています、本当にありがとうございました。落ち着かれたら王宮にも顔を出して下さいね」
「必ず、お伺いします」
和維はそういうとカロリーナに軽く礼をする。彼女も少し嬉しそうだ。
「ところで、アースト様は? ギルドへ? 王宮への報告は?」
ふとした疑問を口にするカロリーナだったが、アーストはカロリーナと馬車の中のセーラから目線を逸らした。
「国王陛下へのご報告は副団長へお任せしたほうが、円滑にすすむものと。私は死んでいった部下たちの家族などへの報告などを行う事にします。」
「そうですか、それならば、良いのですが。陛下も寂しがっておいでですので、たまには……」
アーストは、まだ目を逸らしながら「ウホンっ」と咳払いすると、大門をくぐるところであった、アーストは緋色のマントをはためかせ。ベルン王都に向かって手を向ける。
「さぁ、カズイ殿、ベルンへようこそ。歓迎致します」
大門をくぐると城まで一直線に伸びた道、その両側に立ち並ぶ白い石造りの町並みが見えた。城は後ろの高い山の深い緑に白く映えている。人の往来も、町の中心部に行くにつれて多くなり、カロリーナを乗せた馬車が横切る際には、人々から帰還のお祝いの言葉が投げかけられている。
城まで長く続く道には川からひいてきたであろう水堀りがあり、一つ目の橋を超えたところで、カロリーナたちとは分かれた。別れ際、カロリーナが馬車の窓から乗り出そうとするのをセーラが必死で止めていたのは、和維たちからだけ見えたのではないようだった。
和維はその辻の所で立ち止まって、カロリーナの馬車に向かって、肘の高さまで手を上げてちょっと手を振った。ガラスの反射で見えないが、カロリーナから見えていれば、舞い上がっていた事だろう。
「ん、んー」
ミカがのどを鳴らして和維の注意をこちらに引き戻した。アーストが腕を組みながら、ちょっと冷たい視線を和維に向けている。和維は、ごめんなさいと小さく言うと、ソレを聞いたアーストは、行きますよと言って、左へ曲がり、水堀りの脇を暫くすすんでいった。沿道の人からはたまに「アースト様」とか声がかかってくる。
アーストは右側にある一際大きな5階立ての建物の前に着くと立ち止まって、和維たちの方に向き直って言った。
「ここが王都の冒険者ギルドです。」
目の前には、小説に出てくるような両開きの自在扉ある。中は夕暮れも暗くなって来て、ランプの灯りが漏れていた。
アーストに促されて、和維も自在扉を押し通る、一階はホールになっていて、入り口の方にはテーブルが置いてあり、それぞれのテーブルにはグループごと?に仲間たちと話しをしたり、となりのグループへ今日の収穫などを見せ合っているものたちが大勢居る。アーストと和維、ミカが入ったとき、一斉に目線を入り口に注目されたが、アーストの顔をみると、ほとんどは顔を仲間たちのもとに引き戻し話しを続けた。和維がちょっと見た感じでは、眼光の鋭い人族の男やら、ナイフを片手にした軽装で背の小さいホビット族の男、魔法使いらしき黒いローブを身につけた者など、小説のまんまの冒険者たちがいたので、少しわくわくして、キョロキョロとしてしまった。後ろからミカにはしたないですよ。と言われる程だ。
アーストは奥にある受付らしきテーブルの前にくると、そこで書類に向かっている女性に声をかけた。
「早馬で伝えてたのだが。大丈夫かな」
受付の女性は、その言葉に眼鏡をかけ直し、アーストだとわかると、いきなり立ち上がって、いすがガコッとなるとホールに居る全員が、こちらを振り向いた。
「…あ、アースト様、お待ちしておりました。手続きについては準備してあります。が…」
「大丈夫、落ち着いて、どうしたのかな、えーっと」
アーストは受付にある名札を見た「ナディーン、落ち着いて。大丈夫」というと、ナディーンと呼ばれた眼鏡の子はハっとして、お辞儀した。やわらかそうな肩まで伸びた金髪でアーモンド色の瞳を持つ和維より少し年上の人族の女の子だ。
「すいません! えっと、ギルドマスターは近隣の魔物調査に同行していまして、まだ帰還しておらずにですね。そのっ! もう戻る予定なのですが! お話は伝わっていますので…」
「あぁ、わかった、大丈夫、とりあえず、彼らの手続きだけ、先にね。いいかな?」
ナディーンはまだ慌てた様子で、紙を二枚取り出した。
「は、はい! えっと、こちらにお名前、お名前はファーストネームだけでも結構です。あと性別、種族、ご出身地と、最後の欄に親方もしくは身元引受人の署名をお願いします。」
アーストに促された和維とミカの前に二枚の紙とペンが渡された。説明を聞いていて、思わず和維が声を出してしまう。
「親方か身元引受人ですか?」
ここはいつもと違う。身元引受人だったらわかるが、親方ってのはなんだ? これはちょっと聞いた事が無かった。ナディーンがちょっと意外そうに和維をみると、アーストの目を気にしてか、丁寧に説明を始めた。
「冒険者ギルドは村や都市ごとにある自警団とは違い、各国でのコミュニティを広くもっておりますので、ギルド登録も信頼・信用が必要です。一般的には、ある一定のクラスにある冒険者に弟子入りしてクラスアップしていき、親方株をギルドから購入すれば他国へのギルドの仕事も引き受けられるようになります。この制度を親方制度と言います。冒険者育成の学校を卒業した場合にはその時のギルドマスターが親方となりますね。親方が居ない場合、これは貴族の方などが多いのですが、そのような方には一代貴族以上の方を身元引受人として頂きます」
ナディーンはさすがに自分の職分を全うし、言い切った。和維は、それを聞いて不安そうにアーストに紙を見せる。アーストはその説明を聞いて、ちょっと「しまった」という顔をしている、この人コレが多い気がするが。「うーん」と腕を組んで考えている。
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