表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/42

出身

 幕舎の中には大きなテーブルが真ん中に設置され、そこにはスープとパン、あとは何かの飲み物だろうか、ガラスの瓶が密封状態で何本か配膳されていた。


 テーブルには奥中央にローゼンマイヤー、その左にはアースト、ミカ、右にはカロリーナとセーラが並んで座っている。和維はテーブルを挟んでローゼンマイヤーの対面が開いていたのでそこに座る。


 パンはかなり固く、ローゼンマイヤーとアーストは軍人らしく、パンを一口大に切ってスープに浸しながら食べている、セーラなどはそれを見て、苦い顔をしている。やはり、マナーとしてはよろしくないのであろう、ただ、このテーブルも特殊な取り合わせであるらしく、口には出していないというところだろう。

 昨日まで戦場であり、かつ、幕舎の中だ、マナーを口にしても仕方なかった。


 和維もミカも食事をする必要がないが、体裁だけでもカロリーナたちと同じようにパンを小さくちぎって食べ、スープで飲み込むという作業を行う。パンはベルンではブロートと言うらしい、結構ずっしりとしていて、食パンから比べると酸味がある感じだ、野菜の入った塩味のスープと良くあう。


 アーストが自分の食事をし終わると、軽く左手をあげて、話しをはじめる。


「通常の行軍速度であれば、王都まで一日でつく距離ですが、兵数も少なくなってしまった事で、今から出ても夕方には到着の見込みです、出来れば、カズイ殿とミカ殿には、王都までの護衛をお願いしたいと考えております。勿論、後ほどギルドでの功績になるように取りはからいます」


「わしからも先ほど早馬をうっておいたので、ギルドに行けばすぐに手続きはできるじゃろう」


 アーストがそこで少しうなずいて、言葉を続ける。


「副団長は陛下への報告がありますので、ギルドへは私が同行いたしますので、ご安心下さい、朝食が終わり次第出立とします」


 最後の言葉は全員に向けて言った。そして、それぞれ、朝食が終わると、カロリーナは一人、両手を組み、目を閉じテーブルで祈りを始めた。口を開いているが、周りには聞こえないので、よほど小さな声なのか、魔法で音の壁を作り出しているのかもしれない。


 カロリーヌの目が開き、祈りが終わったのを確認すると、和維とミカ以外がテーブルを立ち上がる、それにならって、彼らも立ち上がると、幕舎を出て、カロリーナとセーラはテントへ、ローゼンマイヤーは谷の西側へ、アーストは幕舎をでたところで兵士に声をかけられて、指示を出している。


 和維とミカはとりとめて、出立の準備らしきことがない。和維は昨夜焚き火のあったところに立って、練習していた『遠目』で、左目の視線を谷の西側へと進めていく。谷を出たところで、オークやトロルの破片らしきものが散らばっている、が、今回はそのような凄惨な現場を見ても、特に嗚咽などはない。右目に見えるミカは少し心配そうにしている、和維の心は読心することができないとかいっていたが。なんとなくわかるのだろうか。さらに左目を森の方向にすすめていく。

 魔物たちが大勢通って来たのだろう、木々はなぎ倒され、獣道よりすこし広い程度の細さだっただろう街道までの道筋が、かなり拡張工事されている。ところどころ、半円形に木がなぎ倒されているのは、ミカの剣圧によるものだろうな、とあたりをつける。しかし、それにしても魔物の破片が多すぎた。死体本体は見当たらないが、手や足、腰から下とか、そのようなモノが無造作に散っている、内蔵系が見当たらないのは夜行性の動物が持っていったのだろう、十分な蓄えが出来たなとか腹を壊さないようにな。とか和維はおもっている。

 最初は燃やしておこうかと考えたが、それも生物の理と考え、このままにしておく事にする。右目でこの広場に隊列が組み上がってくるのが見え、左目の視線を自分に戻した。


 和維とミカはアーストの指示に従って、カロリーナとセーラの乗る馬車の横に行く。それを確認したローゼンマイヤーは「出発!」と号令する。特になんの話しもなかったのはアーストの指示、運用の賜物なのだろう。重装歩兵が先導して、谷を出る。ローゼンマイヤーは馬に乗り、アーストは馬から降り、手綱をひきながら、和維たちの横で一緒に歩いている。


 先ほど和維が見た光景を地面に足をついて、行軍していく第二騎士団たちであったが、特に魔物などと出会う事も無く、(本来はゴブリンなどの巣が点在するところだそうだ。)森を抜けて、ある程度整地された地面で出来た街道に入る。


 街道にきたところでアーストが緊張を解いたのだろう、話しかけて来た。


「カズイ殿とミカ殿の出自についてですが……」


「異世界というのは御法度なんでしょ?」


「そうですね、過去、異世界から召喚された人々や迷い込まれた人の多くは相当な『力』を持って来られていましたので、どの国からも目をつけられやすいのですよ。異世界からの来訪者を誘拐するというのも文献ではありましたし、それがもとで、戦争に発展したこともあります」


「すると、出来る事なら国に入れたくないけれども、魔物が異常発生している現状もあり、戦力になる者は手元に置いておきたい。なので、なんとかごまかしたいって本音ですか?」


 和維は、隣にいるアーストにそういって、ちょっと首をかしげる。アーストは苦笑いしていた。


「そうですね。それが本音です。ただ、カズイ殿もミカ殿もこの世界には疎い、私の考えたごまかし方ですが、遥か東の島国に日本という国がありまして……」


 和維は日本という言葉に反応した。


「日本ですか、ありますか。追々こちらの日本のことを聞かせて下さい。いや、異世界でも日本にいたんですよ」


「お二方の顔立ちから東方のご出身だとは思いましたが。とにかく、日本から武者修行の旅の途中、我々が魔物に襲撃を受けたところを助けて頂いたと、そういう筋で、あとはアドリブでいきませんか、もちろん、細かいフォローは入都時やギルドへの説明時に私が行いますので」


 とりあえず、大筋だけ話しを合わせろということだと、和維も認識し、ミカを見やるとうなずき返したので、アーストにそれで良い旨を伝える。アーストはそれを聞くと馬にまたがり、「では、よろしく!」というと前方にいるローゼンマイヤーのもとへと走っていった。


 行軍はその後、高台で小休止をとり、配られた軽食を兵士たちがそれぞれとっている。和維たちにも渡されたが、少し口に含むとミカに渡し、ミカはバックパックに軽食を納めた。


 そのとき、カロリーナが馬車から和維へ話しかけて来た、行軍の最中もアーストが離れてから、ちょくちょく和維に話しかけている。


「あの地平線にぼんやりと城壁がみえますでしょう? あれが王都ベルンです」


 カロリーナは馬車の窓から上半身を乗り出すと、窓に小さな胸が当たり、ぽよん。とさせながら、指を高台から下に広がる平野の地平線に向かって示した。和維は、ぽよんに気がつかないフリをして、地平に目を凝らす。確かに城壁とそれに少し高い塔が3本程かろうじて見えた。ただ、城壁の長さが、かなり長く、その手前には川も流れているようだ。北側には木々に覆われた高い山もあり、北と東からの防衛となっているのだろう。


 小休止も終わり、騎士団は行軍を再開する。今回はローゼンマイヤーの号令ではなく、アーストが「行くぞ」と手を前に出しただけだった。


 そして、日も地平線に近づき空が赤くなり始めた頃、彼らは川を渡り城壁へとたどり着いた。


いつも読んで頂きまして、

ありがとうございます。


皆様の感想やご評価が、

 とても励みになっています。

お気に入り登録頂けますと幸いです。

 追伸、感想開放しました。


今後とも

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ