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見方

 和維たちにあてがわれたテントは二人で使うにはいささか大きく、大人であれば10人程度が雑魚寝してまだ余裕のありそうな大きさだ。天井部分に煙を抜けていくようにだろうか、直径50センチメートル程度の穴がぽかんと開いている。風雨のときには塞ぐのだそうだ。


 ミカは瞑想だろうか、目を閉じたまま座禅を組んで動かない。大天使って座禅くむの?とか和維は思ったが、現在のミカはどこからどうみてもかわいい日本人の女の子だ。心の違和感はありながら文化としての違和感がないため、スルーすることにする。もちろん、少女が座禅というところでもいわかんありありなのだから。とにかくスルーを決め込み、魔法の練習をすることにした。


 先ほど左目を通して上空から全体を俯瞰して見た際に若干の使いづらさを覚えたためだ、和維は右目を閉じ、左目の視界をどんどん上からの視点へと変更するようにイメージする。

 左目の視界は徐々に上がっていき、自分の身体も下に見える、この位置で固定した。上を見るとテントの開放部が眼前にある。3メートルか4メートル程度だろうか。ここで、視点を停止して、最大の違和感であった右目をすこしずつあける……。


「……視点が合わない」


 その声でミカは、はっ!っと目を覚まし、(寝てたのか?)和維の足下に飛びよって来る。


「どうされましたか?」


 この子こそテンプレだよな、とか和維は思いながら、右目を閉じてミカへ言った。


「いや、大丈夫。距離感がつかめないのと、何か、二カ所別々に見ると気持ち悪い」

「比較するようで申し訳ありません、過去の主様(マスター)は同時に何個もの世界をみていらっしゃいました。」


 和維は左目の視点だけでミカを見下ろす。真上から見ているせいで、ミカの胸元が少し見えたがすぐに目を真上の天井の開放部に向け直す。


「…! っと、なんかコツとかないの?」

「慣れもありますが、主様(マスター)は自分の限界と感じておられませんか? 先ほどの魔法を使用されたときのように、出来ると想うことこそ主様(マスター)のお力の源にございます。イメージを強くすることができれば、自ずとそれも出来るようになりますよ。」


 和維は右目を開ける。少し気持ち悪いが、自分の中で、気持ちを整理していく、左目と右目が別に見えていても良いのだと。落ち着いて、モニターが何個もあるかのように……。


「そうか……見方を変えれば、うん。処理できなくもないな」

「見方と言えばそうですが、まぁ、いいでしょう。そのうち目を閉じていたとしても、他の場所を見る事もできましょう。ただし、主様(マスター)はそれが限界ではありません。そもそも限界などないのです」


 ミカはそういうと、再度、目を閉じる。きっと瞑想のフリをして眠るのだろう。和維は限界(リミッター)解除しているため眠る事が出来ない。眠れば、夢で起こった事が現実世界でも、起こってしまうからだ。なんとかする方法を思いつけば、なんとかなるんじゃないかとか考えつつ、練習がてら右目も開けた状態で左目をテントの開放部からもっと位置を上昇させていった。


 和維たちのテントの隣には、素材としてはテントと同様の圧重ねの布を使用した深緑色の幕舎があり、そこからは光が漏れ、中にはアーストとローゼンマイヤーが居るはずだ。幕舎を挟んで小さな二人用くらいか、のテントにはカロリーナが入っていったのを先ほど見ている。光も漏れていないのできっと就寝していることだろう。


 幕舎からさらに離れた箇所には兵士用と想われる和維たちのテントと同じ大きさのテントが6個程立っていた。こちらは完全に兵士用だろう。ここも光は漏れていないので、見張りを除く兵士たちが眠っているはずだ。


 谷の西側と東側にはそれぞれ兵士たちが20人ずつだろうか、見張りについていた。それぞれ、仲間たちと小声ながら話しをしつつ、焚き火が絶えぬように材木をくべながらだ。中には新人教育をしているような感じの先輩、後輩の組み合わせも見てとれた。後輩の方は……と目をこらした瞬間、和維の左目に文字が浮かび上がる。


—シグル・ザートン

15歳

人族

騎士


 和維はその文字にびっくりしたが、驚きを覚えたところで、その文字は消えてしまった。どうやら、どんな人だろうと想ったことで情報が球体ディスプレイに表示されただけのようである。ちょっと驚いたが、そこそこ便利な機能なので、それ以降、色々なものを鑑定して遊んでいった。


 ちょっとミカの座禅姿を鑑定したのは内緒だろう、やろうと想えばサイズ表示までされたからだ。ここは一般的な高校生の思考を持つ和維だ、やってはいけないとおもいつつ、やってしまうのはしょうがない。カロリーナにしなかっただけましと考えておこう。と自分自身を納得させるだけさせて、日が昇り始めるまで、心行くまでこの遠目と鑑定で遊ぶ。


 鑑定は見える限りのものであれば、何でも情報を読み出す事が出来るようだった、さすがに、谷の向こうにある森を見て、鑑定をしたところ、木の文字が左目一面に細かく表示されたのは、面食らったが、本当に使い方しだいだなとか、和維は考えるのだった。


 太陽が東から上ってくると、暗かった谷に少しずつ日が入ってきはじめる。それを合図にしたかのように、見張りの兵士たちはテントに戻り、仲間を起こしていく。幕舎からはアーストが出て来て、眠そうな目をこすり、鎧姿のまま伸びをする。鎧の合わせ部分から音がガッシャと聞こえてくる。


 それを合図にしてミカが座禅という眠りから目を覚ますと、和維を見た。


「おはようございます。主様(マスター)、慣れたようですね、ソレ。なによりです」


 なぜか、言葉がキツい気がするのは若干若気の至りとかってやつだよ。とか思いつつ、和維は左目を元の視点に戻す。


「お、おはよう。ま、まぁ、だいぶ慣れたかな。うん、大丈夫だよ」


 和維は何が大丈夫なのか自分でもわからなくなっているのも気のせいだと考え、ミカから視線を引きはがし、立ち上がって、テントから出た。逃げなければ。と。







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