魔法
遅くなったが、谷では夕飯となった、すでにかがり火は移動され円形闘技場はない。兵士たちはめいめいテント近くで食事をとっている。食事と言っても元々途中の宿場などで宿泊予定だったのだろう、十分な食料を持って来ていないようで、大豆のようなものが入ったスープが一椀だ。和維とミカにも配られる。
和維がミカに聞いたところ、天使も神も何も食べなくても良いとのことだ、食べても別に害にはならないとのこと。基本的には、創造神(和維)が生きていれば、活動をし続けられるのだそうだ。
とはいえ、和維はじゃあ、どういうエネルギー交換をしているのか、と問おうとしたが、何となく、怖いのでやめた。人の命です。とか、言われかねない。
焚き火の明かりもあってカロリーナが頬を少し染めて、和維に聞いて来た。
「カズイ様は、そのような特殊な魔法をどちらで、空間魔法や、初めてお会いした時の飛翔魔法などは現在使う事が出来ない魔法まで。わたくしもカズイ様程ではありませんが、魔法を嗜んでおりまして」
「お嬢様は嗜むというレベルではないぞ、王国の宮廷魔術師に比肩する程じゃ。たしかに、先ほどの空間魔法はあせったわい……っと、失礼致しました」ローゼンマイヤーはカロリーナから、お話ししてるのにぃ。という、じと目で見られていうのをやめた。
「カズイ様は、その…どこで魔法を?」
「元の世界で本を読みあさりまして、それででしょう。ある程度の魔法ならば使う事が出来ると思いますよ」
カロリーナはちょっと熱っぽくなってきた。
「そ、そうなのですね。カズイ様はすごいです。この世界では四大精霊の加護を受けられるかの適正、試練があり、その他、回復魔法は信仰心によってもたらされますが、先ほどの空間魔法、天使様が使われた時空魔法などは特定の神様からの加護があるかどうかで。使える方が限られています。飛翔魔法に至っては古代魔法で、今は使える方もいらっしゃいません。それほどの魔法なのです」
一気に話しきったカロリーナは熱っぽい目に尊敬を込め和維を見つめている。和維はといえば、小説とか漫画からの知識です。とは言えない。知識を想いにして、魔法として発現するなど、そんじょそこらの神でも出来ない。できても契約した呪文名までは口にしなければ、発現出来ないというプロテクトがかかっていた。
熱を帯びたカロリーナを横目にアーストがミカに声をかける。
「ミカ殿も同じく魔法を使用されるのですか?」
「四大精霊の魔法は使用可能ですが、私は主様とは違い無詠唱というわけにはまいりません、それに私は剣の方が確実ですし」というと、ミカはアーストに剣を見せる。アーストはそう言えば、先ほど手合わせしておけばと若干後悔しつつ、老人介護優先だったからな。など思ってみていた。
また、横を見てみると、カロリーナが、何やらもじもじしている。うぶだなぁ。自分にもこんな時期があったかなど考えて。
「どうされました? 殿下」
「い、いえ、ギルドに入られて、落ち着かれたら、魔法について色々お話をお伺いしたいなとおもって」
「そうですね、ギルドへ紹介頂けるんですよね。そしたら、すぐお伺いできると思います」
ローゼンマイヤーがまだ、痛むのか左の脇腹を押さえて、和維に言った。
「勿論、ギルドへ紹介してやろうぞ、本来であれば、自警団などから推薦があってというのが普通じゃが。お前さんらの出自は、伏せておいた方が後々、よさそうじゃて、なあ、若造」
「そうですね。先ほども申し上げた通りですが、異世界からの転送というのはそうそう多くありませんし、そもそもこの異変の諸元が我々でも把握出来ていない以上、国として援護も出来ませんし、申し訳ありませんが、今はギルドにて遊撃して頂く方が良いかと。」
「アースト、それではカズイ様たちを王宮にお呼びすることは?」
「今は、ご自重下さい」
アーストはそう言って、何も言い返せませんよというような、厳しい顔でシュンとなる、カロリーナを見ている。
「我が国随意一の悪知恵がそう言っとるで、わしには文句の出しようもないが、ギルドへ指名依頼であれば呼ぶ事もできましょう」
ローゼンマイヤーのその言葉にカロリーナはぱっと目を上げ、ローゼンマイヤーにありがとうと小声で言った。まるで孫娘からの言葉のような、かわいいものだ。
そのとき、和維は口を開いた。
「その際にはアースト様にもローゼンマイヤー様にもお会いしたいですね。情報はいくらあっても困りませんし。どこで、どのように異変が起きているか、気になりますので。今度教えて下さい」
そこでカロリーナやアーストを見て、互いにうなずくと、ローゼンマイヤーのところに来て、続けた。
「まだ、痛みますか?」
「た、多少な。回復魔法でも完全な癒しはえられぬからな」
どうやらこの世界では完全回復魔法などはないことも確認しつつ、ちょっと、悪いことしちゃったなと和維は思って、「失礼」と言って、右手をローゼンマイヤーの脇腹にかざす。
骨の完全接合と炎症の鎮静を想う。
「たぶん、これで大丈夫だと」
ローゼンマイヤーは和維と自分の脇腹を何回か視線を往復させ、左肩を回し、脇腹をぐっと押さえると。
「奇跡か! 奇跡ではないか、全く痛みも何もなかったかのようだ」
「まさか、そんなことは高僧でない限り……」
アーストは中空を見ながら、今後この二人の使い方、接し方などを思案するのだった。
そうこうしていると、夜も更けていき、兵士たちは三交代で休憩をとりながら、和維はミカと同じ広めのテントを用意してもらうと、そこに入って、明かりを灯すのだった。
いや、最初は二人きりなのが嫌だったのだが、冒険者などは普通です。というミカの言葉に逆らえず、テントに入る。そして、和維は眠る事が出来ない為、毛布に包まることなく、次の思案を巡らすのだった。
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