立会
谷の野営地には半径5メートル程の円形を囲むようにかがり火が焚かれ、西側にはローゼンマイヤーが鎧と兜をとって、右腕に丸太から削りだした急拵えの木剣と盾を構えている。ミカは鎧と兜をつけた方が良いと言ったのだが。「剣術も何も武術の修練をした事がありません」という和維の言葉を鵜呑みにした結果、上半身に鎖帷子を着て、下半身は長ズボン姿の老人が木剣と盾を構えている。という状況だ。
対する和維は、といえば、高校の選択教科で剣道をやったことがあるので、ミカに木刀を二本削りだしてもらっていた。カッコいいという理由だけで二刀流をやってみることにする。いかにもここら辺は厨二的な発想だが、この立ち会いで他者には迷惑がかからないならとミカも同意して造った。ただ、ミカも二刀流の場合、大小で持つという剣術での常識を知らない為、二本とも太刀の長さだ。丸太からナイフ一本で、スルスルっとこしらえると、和維に手渡す。その際にミカは和維との回線を開いた。
— 主様、身体強化を外しましょう —
— えっ、それだと、負けちゃうけど? —
— 時間制限を設けていませんので、負ける事はありません。いずれ勝てます。どちらかというと、基礎パラメータの向上とお考え下さい。 —
— 基礎パラメータって何? —
— 主様の数値はパラメータで現すことが難しいですが、例えば反応速度や、回避能力などをご自身の想い通りの早さにすることが、可能なはずです。先ほどの魔法を打ち出すようにイメージすることが重要ですが、武術面では、一瞬の判断力が重要になりますので、その部分を慣れるためにも、身体強化は外しておきましょう —
和維は、うーんと考えながら、とりあえず、身体強化を外した。そもそも、身体強化自体、一般的に長時間持続する魔法ではないが、和維は自然とそれを使用し続ける事が出来ていた。朝まで居た世界には魔法がなかったため、基本的な魔法の概念が通用しない、知らないことによる弊害ではあるが。そして、急に両手に持つ木刀二本が重く感じられる。
「うわっ、重いな。扱えなかったら放り投げるか」
ここで和維は気がついていないが、この重く感じるということなど、無理をすることで基礎パラメータが上がっていっている。いわゆる努力をすれば個体値が上昇し、強い相手と戦えば、戦っている最中にその相手と同じか、それを上回るパラメータを取得するという、神チートが和維=創造神のそもそもの能力である。ミカはそこまでは言わないであえて経験してもらおうという、どちらかと言えば軽い意趣返しに近い。もちろん、返す相手は過去の創造主に、ではあるが。
和維は木刀を片手ずつ素振りしてみて、木刀が振り抜けるかなど、確かめてみる。竹刀とは違うので最初は大振りだったものの手になじみ、パラメータも上昇したのだろう、振り抜く速度も上がっていく。そこそこ確かめ終わった後、かがり火で出来た円形闘技場の中に進み、ローゼンマイヤーと向き合う。
かがり火の周りには手の空いた騎士団員たちが集まって来ていた。アーストがローゼンマイヤーと和維の横に立ち、それぞれの顔をみる。
「双方準備はよろしいですね。致死性の高い魔法の使用は禁止です。」
アーストは一歩下がって、手を上にあげる。
「では、はじめ!」
かけ声と同時に和維は後ろへ飛び退き、今まで自分が居たところに左右2メートルほどの炎の壁を出現させる。
ローゼンマイヤーは炎を超えてこようとするが、あまりの熱さに「ちっ」と舌打ち右から回り込む、和維からの攻撃を盾で受けられるよう、にじり寄る。
和維は炎から出てくるローゼンマイヤーに向かって、右手を上げて一気に距離を詰め盾に打ち込む、盾を少し押上げて木刀が当たる瞬間に小手を外側に返して、盾で木刀ごと和維を外側に転ばせてしまう。
和維は受け身をとると、左手の木刀を支えに起き上がると再度、ローゼンマイヤーに対峙する。
「その意気じゃ、今度はこちらからじゃ!」
ローゼンマイヤーは木剣を上段から打ち抜きに払った。
和維は二刀をクロスさせて受ける。受けるのを待ってましたとばかりに、ローゼンマイヤーは右足を出して和維を蹴りつける。
もろに蹴りを受けた和維は後ろに倒れ込む。
「倒れても、命さえあれば、次の一手に繋がる、立ち向かってこい!」
和維は、炎の壁をイメージして消すと、立ち上がり、右手を上段に構える。
ローゼンマイヤーは動かない、が剣先は和維を捉えて離さない。
和維がどうやって攻めようかと考えを巡らし、正攻法は無理! と考えがおよぶ。そして、まだ、互いの距離が3メートル程度あるにも関わらず、右手の木刀を振り下ろす。
振り下ろされた木刀がどんどんと伸びていき、ローゼンマイヤーの直上に届く、ギリギリ盾で受け止める。が、盾で受け流そうとするも外側にも受け流せない。盾がその空間に張り付いてしまったかのように動かなくなってしまう。
和維は木刀と盾をその空間に置き去りにして離し、左手の木刀を両手で持って、ローゼンマイヤーへと直進する。
ローゼンマイヤーは盾を離そうとしているが、左手が盾から離れない。
迫ってくる和維は体勢を低く、最後の一歩の踏み込みでローゼンマイヤーを逆袈裟に盾から離れぬ左下から右上に切り上げた。
ローゼンマイヤーは木剣を出すが左腕が動かず、もろに脇腹に入ってしまう。
「うぐっ」若干鈍い音とともにローゼンマイヤーは打撃を受け、和維は、当てた直後に、寸止めの方法を知らなかったと反省するのだった。
「カズイ殿の腕はわかった、と、とりあえず、左腕を解放してくれ」
「すみません!」
和維は慌てて空間固定を解除すると伸びた木刀がカランと落ち、ローゼンマイヤーは左腕を下げると、脇腹を押さえて、若干額に汗を流している、相当痛かったのだろう。
「年考えなさいって、もう。約束通り、ギルドに紹介してあげて下さいね」
「……わかっとるわい」
「衛生兵! ここの無茶した爺様を回復してやってくれ! あばらが何本かいっちまったみたいだ」
「爺ではない! 痛っ」
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