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焚き火の周りには、カロリーナの横にローゼンマイヤーが座り、その隣にアーストが座っている。カロリーナの向かいには和維とミカだ。ミカからは先ほどの落ち込みようからは考えられぬ程、和維には表情があるように見える。考えられるのは、先ほどのクロス様からの言葉を起因として、精神力を本体である過去の創造神様から引き継がれたのではないかと思っている。
会話の中心はローゼンマイヤーとアーストだ、さすがは年長者と言うべきか、和維の先ほどの落ち込みようや、カロリーナの落ち込んだ表情を和らげようとしているのかもしれない。
「……ミカ殿? 大丈夫ですか」
アーストがこちらを見ていた。主様の事となると没頭してしまうという、かなり昔、創造時からの悪い癖だった。
「すみません。アースト様、少し考え事をしてしまっておりました」
「いやいや、お加減が悪ければ、テントへ案内させますが」
アーストは後ろを振り返り、待機している兵士を呼びつけようとする、だが、それはミカの言葉に遮られる。
「大丈夫です。少し考え事を」
カロリーナがその言葉を聞いて、ミカを心配そうに見て。
「本当にご無理はなさらないで下さいね。ミカ様」
「ありがとうございます。王女殿下、それと、どうぞ私の事はミカとお呼び下さい」
「大天使様の御使いを呼び捨てになど出来ません。うーん。では、このままでお願いします!」
カロリーナがぺろっと舌を出し、少し笑みを浮かべつつ、和維を見た。和維の方も、ちょっと恋する少女というのはこんな感じで、見るんだよね、かわいいよね、など思いつつ、微笑みを返した。
ローゼンマイヤーが「ゴホン」と咳をしていなければ、ずっと見続けていたかもしれない。ローゼンマイヤーが白い髭を軽くなでながら、アーストに視線を送る。アーストが少し頷き返すと話しを切り出した。
「ところで、カズイ殿、ミカ殿はこの後、どうされますか? 国元へお帰りになられますか?」
ミカは和維を見る。自分には何のアイデアもなかった。和維の言うテンプレに乗っかっただけなのだ。自分から主導権を持って話しが出来るはずもない。そんなミカのちゃんと答えて下さいね。の意図を感じ取った和維はアーストに向かって言った。
「実は、我々には帰る国がないのです。」
和維の向こう側にいる三人は一様に驚きの表情を浮かべ、カロリーナなどは口に手をやり「まぁ」というように云いそうになって止める、王女の嗜みが少し足りないらしい。かろうじてネタを振った参謀たるアーストが言葉をつなげる。
「ふむ。ここ最近で滅びた国はありません。また、大天使様の御使いということですので、どこかの国の魔法使いによる時空召喚という可能性もありましたが、現在、時空召喚が出来る者は現存しません。勿論、各国家において最大秘匿事項ではあるのですが」
アーストは自分の国ならいざ知らず。他、同盟諸国にも放っている間者の情報を思い返したが、時空魔法が使われた形跡などはなかったと言い切る。
「今、この世界で、すでに異変の前兆が出ているかもしれませんが、大天使様はそれを予知され、天使たちに命じ僕たちをこの世界へと送り込んだのです。言うなれば、異世界から僕たちはやって来ました。」
「ふむ」とローゼンマイヤーは言うと、アーストを促すように見た、アーストがうなずき、言葉を続ける。
「異変は起こり始めていると考えてよいでしょう。半年ほど前から魔物たちの動きが活発となり、都市部から郊外の騎士団や冒険者ギルドなどの影響範囲に入っていないところは、村ごと一夜で消え去ったなど、という状況も聞こえて来ております。今回は、隣国へご留学中であったカロリーナ様のベルン王都へ帰国に際する護衛として国王陛下より我々第二騎士団が出動しておりましたが、兵力が半数に満たないとは言え、正規軍をここまで追いやる程、魔物の増大や行動はより激しくなってきています」
和維はこの世界の状況を何となく、把握しながら、今後の為の方策・方針を模索した。考えられるのは、魔物たちの中心に魔神たちが居るであろう事、魔物の増大にも関与しているだろう。また、半年程前ということはタイムラグが存在しているかもしれないが、本体である創造神は気がつかなかった程、かなり周到に用意・計画されたかもしれない事など、だ。聞きながら、そのような事を考えられるのも、身体強化や先ほどの件で、副次的に精神が強化された為、思考力もあがったのではないだろうかと考え、今後どのようにするかを、焚き火の周りの人物たちに話しをするのだった。
「僕たちは、このため、このときにアースト様からこのお話をお伺いする為に、天使たちがこの場所に転移してくれたのだと、ようやく理解できました。僕たちはまだこの世界の事を知りませんが、出来る事があるはずです。大天使様の御心のままにこちらでこの世界のお助けをしたく思います」
ローゼンマイヤーが突如立ち上がり、大股に焚き火を回り込んで、和維の肩をドンっと叩き言った。ミカが肩を叩く直前に剣に手をやっていた事をアーストは見逃さなかった
「よくぞ、申した! さすがは大天使様からの御使いよ。その心意気や良し! 我が騎士団に入ると良い。魔物も倒し放題じゃ」
和維は肩と首に衝撃らしきものがあったが、それを痛いとも思えず、ローゼンマイヤーの目を見て言葉を返した。
「騎士団には入れません」
その言葉にローゼンマイヤーは和維の目を見つめたままだ。固まってしまっていた。周りに立っていた兵士たちも騎士団入隊の栄誉を断る若者にあぜんとしている。そこにカロリーナがローゼンマイヤー越しから覗き見るように和維へ聞き返した。
「あの……よろしければ、訳をお聞かせ頂けませんか?」
ローゼンマイヤーが和維の肩から手をゆっくり離す。
「魔物の増大などがこの国だけの事ではないということです。騎士団に入ったら国から離れるにも面倒そうですし、先ほど冒険者ギルドがあるということでしたので、ギルド登録して自由に世界を行き来できるようにしたいのです」
その言葉にローゼンマイヤーが若干悔しそうに目を閉じたが、すぐに目を大きく開けた。
「ならば、立ち会いじゃ! ミカ殿は強さをしかとこの目で見たが、お前さんの強さはまだ見ておらん。わしに一太刀でも入れられれば、ギルドへ紹介してやろう。負ければ……」
ローゼンマイヤーがニヤリとする。その気配を悟ったアーストが次の言葉を遮る。
「また、騎士団に入れとか言うんですよね。爺むさいからやめましょう、それ」
そして、ローゼンマイヤーが真っ赤な顔をしてアーストに詰め寄っていったのは言うまでもない。
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