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お菓子の家

男はしばらく黄色い道を進んでいたが、また道が途切れてしまっていた。


途切れた道の周辺をうろうろしていると地面に落ちているあるものを見つけた。


「クッキー。だな」


あまりに森とは不釣合いなクッキーの存在にしばらく思考を膨らませた。


クッキーの落ちていた方向を改めて見ると二枚目のクッキーが落ちていた。


その先にはキャンディー、タルト、チョコレートと一本の道になるようにしてお菓子が落ちていた。


「子供っぽい罠だな」


そう思いかけてふと考え直してみる。


まさか。


「誘導されている・・・?」


今までのことを総計して考えてみても道は一方通行だった。


ためしにお菓子の道をそれた方へ入ってみる。


深い森をしばらく歩くと見えてきたのは黄色い道、そしてお菓子の道しるべたちだった。


何度試してみても結果は同じだった。


「どうやら進まざるをえんようだな」


相変わらず肩の上で眠っている少女を軽々と肩からおろし、お姫様抱っこで抱えなおしてから男はお菓子の道しるべをたどった。


だんだんと森の奥深くまで進んでいくと妙に甘ったるい香りがして男は顔をしかめた。


そして終点に着くと男はぽかんと口を開けて何とも言えない複雑な顔をした。


「どうやって菓子で家をつくったんだ・・・?」


男は甘い香りを常に漂わせる家に、正直好感をもてなかった。


家の周りを一周し、怪しいところが無いかを確かめる。


マドレーヌで出来たドアノブをまわすと、どうやら鍵はかかっていないらしくごく簡単に扉は開いた。


そうして男が一本、足を踏み入れた瞬間、背後の扉は閉じられた。


鍵がかかった音がして、気づいたときには扉は壁に溶けてなくなった。


「戻るなってことか」


男は仕方なく家の中を見回した。


ビスケットやクッキーを主とした壁に、チョコレートで出来た棚。


あめ細工で出来た赤いシャンデリア、砂糖菓子で出来た椅子とテーブルは生クリームでところどころデコレーションされ、誰もが憧れる夢の世界になっていた。だが。


「甘ったるい」


男は眉間にシワを寄せた。


「誰じゃ」


唐突に声のした方を見る。


しゃがれた声の老婆だった。


「お前、どこからここへ入った」


老婆は全身黒のフードを被り、浅黒いシワだらけの肌とオウムのくちばしの形をした鼻をしている。


目元は激しくくぼんでその虹彩はくすんだ灰色をしていた。


「ここはお前のような大人がくるところじゃない!」


厳しく老婆は叱咤したが、シイに目を留めると急に目を細めた。


「そう言いたいところじゃが、そのままじゃあ疲れるじゃろ。奥のベッドへ案内しよう。その子をゆっくり休ませるといい」


そう言ってひとつ奥の部屋の寝室のベッドに少女を横たえる。


わたがしの詰まったベッドのシーツはふかふかで、ほんのりシナモンの香りがした。


「チョコレートでも飲むかえ?」


老婆が男を元のテーブルと椅子の部屋に呼び寄せた。


老婆はオレンジをくりぬいたカップに暖かいチョコレートを入れたものを二人分用意し、テーブルを挟んで向かい合った。


「ところで、どうやってここまで来たのか、とても興味があるんじゃ。聞かせてくれぬか」


男はどうしてそんなことが気になるのか、心底理解できなかったが、一抹の話をすると老婆はにんまりと笑った。


「それで、その壁に扉が消えたと」


男は無表情のまま老婆の反応を見守った。


「不思議じゃのう」


ふと老婆は何か気が向いたようにじっくり男の目を見て細めた。


「ところでお前、『ヘンゼルとグレーテル』という物語の結末を知っておるかえ?」




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