案山子
花畑が終わり、黄色い道を歩いていると、今度は農家が見えてきた。
とうもろこしの畑が黄色い道の両側を壁のように埋めている。
「ねぇおじさん。あれはなぁに?」
シイは麦わらで出来たトンガリ帽子をかぶったかかしを指した。
「何だ?かかしも知らないのか」
男は当然のことを当然のようにそっけなく言った。
「あれが!?あれがかかし!?」
シイは半ば悲鳴のように叫んだ。
「本物!?すごいねぇ、絵本と一緒よ!」
シイは目をきらきら輝かせた。
「まるでオズの魔法使いみたい!」
すると不思議なことにかかしは一回ぴょんと飛び跳ねた。
ペコリとおじぎをする。
シイもペコリと頭を下げた。
「こんにちは。はじめまして、かかしさん。今日もいい天気ね!」
コクリとかかしは頷いた。
「シイたちねぇー。この黄色い道をもっとずっと行かなきゃいけんのよ。かかしさんも一緒に行く?」
かかしはぴょんぴょんはねて同意を示した。
「やったぁ!お友達ね!」
シイは栗色のおさげ髪をぴょんぴょんはずませてスキップをした。
男とかかしは大またにシイの後を追う。
畑を抜けるとそこは原っぱだった。
黄色い道もどうやら終わりらしく、ぷっつり糸が切れたように途切れている。
「かかしさん?」
原っぱへ歩み出すとかかしだけが黄色い道の端っこでぴょんぴょん跳ねている。
「こっちに来れないの?」
シイが困ったように男の方に振り向いた。
「どうしよう・・・」
男は相変わらず無口でどうとでもなれといった様子だ。
かかしは相変わらずぴょんぴょん跳ねている。
シイはかかしのところに駆け寄った。
「一回戻ろ。他の道を探そう!」
かかしの手を引いて道を戻ろうとしたシイの腕を大きな手がつかんで引き戻した。
「ここまで一本道だった」
「だって置いてけないよ」
かかしはとんがり帽子をかりかり掻いてしばらくすると身振り手振りで何かを伝え始めた。
(ぼくは、きっと、あなたたちに、追いつきますから、先に行ってて、ください)
「でもっ」
シイは断固として手を離そうとはしなかった。
(ぼくは、大丈夫、です。さあ、行って)
かかしはシイの手を離させるとぴょんぴょん跳ねて一度深くお辞儀をした。
そしてバイバイと手を振ると黄色い道を戻っていってしまった。
「かかしさん・・・」
心底寂しそうな目でかかしを見送ったシイの腕から男の手が離れた。