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出会い

目を開いて、男は辺りの眩しさに目をしばたたかせた。


「ここは・・・」


夢だろうなと直感した。


辺りは雑木林ですぐ近くに川が流れている。


夢でなければ牢屋にいるはずの自分が一本の杉の木の根元に座っているはずがない。


「俺は・・・」


声が、耳障りなくらいにしわがれている。


ゆっくりと己の喉もとに手を当て、ちらりと視界に入ったその手を見、改めて己の姿を見おろした。


川に近づき、清らかな水に映る己の顔を見る。


・・・醜い。


鼻はそげ落とされたかのように低く、目もとは激しく窪んで眼球なのかもわからない虚無の闇がはめこまれていた。


口はつぎはぎのように縫い合わされ、くすんだ灰色の髪も長さが不規則でところどころ長かったり短かったりしている。


おまけに肌はどす黒く、手は化け物のように大きく、足の指は切り落とされたか焼け落ちたかしたかのように退化していた。


少なくとも、まともな人の姿ではなかった。


男は大して絶望もせずに、ただ諦めたように深いため息をついた。


よろよろとした歩調でもう一度木にもたれかけた。


目を閉じる。


三秒。


男は再び目を開いた。


「うわっ!」


「きゃあ!」


二人して驚いた。


三秒前までは確かにいなかったのだが。


「こんにちは!」


目の前にいつの間にかいた女の子は男の闇色の眼球を覗き込んで言った。


「はじめまして!おじさん」


「おじさん・・・?」


聞き慣れない響きに男は思わず聞き返した。


「おじさんのことだよ」


「お前は・・・?」


「シイだよ!」


「・・・」


しかし男は興味が失せたとばかりに再び目を閉じた。


「おじさん」


目を閉じているおかげで視界が真っ暗になって心地いい。


「おじさん!おじさん!おーじーさーん!」


 だがこの子どもが五月蠅い。


「おじさぁん!」


 肩を揺すられて、男は目を開いた。


「うるさい」


 また女の子と目が合った。


女の子の目はまんまるで、まるでハチミツのような甘い茶色の虹彩がきらきらしていた。


「見て、見て!」


 “シイ”と名乗った女の子はふいに男の視界から退いた。


 辺り一面、花で埋めつくされていた。


「きれいだねぇ!」


 それはそれは見事な花畑が視界の奥まで広がっていた。


「おじさんは何の花が好きなの?えっとねぇ、シイはひまわりが一番すきだよぉ!」


「・・・おじさんはやめろ」


「じゃあなんて呼べばいーのぉ?名前おしえてよ」


「・・・何故お前に教えなければならない」


「なんでってうーん・・・」


「・・・・・・」


「まぁいいや。おじさんがお名前ヒミツにしてるならシイはもう聞かない」


男は再び目を閉じた。


今度はやけに静かだった。


妙だなと思って目を開こうとしたとき、突然何かが頭の上に乗った。


 男は再び目を開いて、頭上のものを手で取って目の前に持っていく。


「シロツメクサがね、咲いてたんよー。きれいだったから冠にしようと思ってね」


 男は器用につくってあるシロツメクサの花冠をシイの頭の上に置いた。


「俺に花は似合わん」


それに一言付け加えた。


「だいいち、俺は醜い」


「みにくいー?」


シイはきょとんとした。


「みにくいーって?」


男はだんだんとイライラしてきた。


「俺の姿を見て分からんのか!?」


「うん」


シイはにっこり笑った。


「おじさんはいい人に見えるけど、それをみにくいって言うのー?」


男は肩を落とした。


まるで白痴と話をしている気分だ。


よく見れば女の子は男の下半身ほどしか身長がない。


いくら幼いといえど外見からして学校に通っている年頃だ。


学校は一体何を教えている。


「俺の姿はお前とは違うだろう?」


「うーん。ちょっと変わってるなーとか思うけどね。世界はとっても大きくて、いろんな人たちがいるってゆうから、おじさんみたいな人もいるんだぁ、って思っとったんよ」


男は唖然とした顔でシイを見てつぶやいた。


「だからおじさんはやめろ」


思わず口をついて出てしまった言葉に男は困惑の表情を見せた。


その顔が、シイには男が微かに笑っているように見えた。


「あ、おじさん。向こう見て!」


シイは花畑の奥を指差した。


「黄色い道があるよ!」


甲高い声で少女は言った。男の腕を無遠慮に引っ張る。


さっきまでは無かったはずの道が。確かに存在していた。


「おじさん、行こう!」


男はため息をついて立ち上がった。


するとシイの倍ほどもある身長で、小さな少女は首が痛くなるほど見上げなければならなかった。


男はシイを一瞬見おろして、それから前を向いた。


男は歩き始めた。


シイはその後ろを楽しげな様子で小走りに追うのだった。


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