心機一転!
「では、これより、総体のメンバーを発表する! まず、一〇〇m。佐久野!」
「はいっ!」
あまり引きずらないのが豊の持ち味。気付いてしまった、月島由実に対する気持ちを切り替え、気合の返事をした!
豊はこれで、一年の秋の新人大会から三大会連続のレギュラー入りとなった。
「~~ 以上でレギュラー発表を終わる! 今日の練習はこれで打ち上げるが、レギュラーから漏れた者もリザーブの可能性もあるから、気を入れて練習しとくように!」
『おつかれっした!!』
監督の挨拶の後、部員達が気合の号令で締めた! 大会が近くなると、恒例の風景。
「結局、二年でレギュラー入りしたのは佐久野と吉田の二人だけか…」
「落ち込むなよ、三年がいなくなる秋には絶対レギュラー入り出来るんだから」
同級の部員と部室へ引き上げる豊。
「あっ」
部室の前で待っていた柊を豊は見付けた。
「あれって、テニス部の柊だよな」
「先に入っててくれ」
言って豊は柊に駆け寄った。
「お前の方が早かったか」
「いや、まだ練習してるけど、練習着破れたから今日はもう切り上げた」
「なんだよそれ! そんなの手芸部行けば直してくれるのに」
「手芸部ってそんな事してくれんの?」
「なんだよお前知らなかったのか? うちの奴らなんかわざと破って、手芸部に行くのに」
「へ? なんで?」
「馬鹿、朝倉に会いに行くためだろうが!」
「朝倉って?」
「何言ってんだよ! 朝倉って言ったら一人だろう! 朝倉麻梨子! 学年、いやこの学校一の可愛い娘! お前同じクラスだろ!」
「あぁ、あの朝倉の事か…」
「なんだよ、同じクラスなのに興味無いのか?」
「まぁ…、可愛いとは思うけど…。ってか、早く着替えて来いよ、先に帰るぞ!」
朝倉の事を思い出し、何故か恥ずかしくなった柊。
「ちょっとまってくれよ! 即ぐ着替えてくるから、もうちょっと待ってろ」
言って豊は部室に入って行った。
(手芸部かぁ…)
残された柊はぼんやり思っていた。
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炎天下のグラウンド、周りの木々では長年待ち焦がれた夏を謳歌し、セミが鳴いている。
「まあ…出来れば優勝で締めくくりたかったんだが…、それは仕方ない。俺達三年が出来なかった事は、残されたお前らの使命と思って頑張ってくれ! こんなもんでキャプテンの挨拶とする!」
夏休み頭。陸上部専用のグラウンドで三年の引退式が行われた。キャプテンの大崎は前日から考えていた引退の台詞を部員の前で披露し、満足気な表情を浮かべる。
「あとは頼んだぞっ新キャプテン!」
豊の肩をポンッと一叩きして、大崎は言った。
「任せてください!」
それに対して、豊は力強く言った。
大崎はその豊に安堵感を感じ、中学陸上のグラウンドを後にした。
肩に残った感触に気持ちを引き締められた佐久野豊新キャプテンの新・光応学園中等部陸上部が動き出した。
「やっぱり豊がキャプテンかぁ…」
三年が居なくなったところで二年部員がぞろぞろと豊のところに集まる。
「ま、こうなったらこの一年、大崎先輩より厳しくやってやるよ」
「「え~!!」」
豊の言葉に一斉に反応したのは一年。
「「ははは」」
「さ、今日はもう上がるか」
「「「「賛成」」」」
「じゃ、解散!」
「「「おつかれっした!」」」
佐久野新キャプテンの最初の言葉が終わった。
キャプテンに任命された豊は一人決意を固めていた。