表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝福されぬ者たち ―Ungifted Heretics― 完全版  作者: 七鏡
思い通りにならないなんて諦めたくはないから
53/124

内部反乱

アルトリザリコン内部での対立はついに武力衝突にまで発展してしまった。それが起きたのは、早朝のことであった。

過激派が要塞内部の重要な個所を次々と襲撃したのである。当然、予想された動きであり、リクター率いる守備隊が鎮圧のために動いたのだが、結束の固いはずの守備隊の中から裏切り者が多数現れ、各所は瞬く間に制圧されてしまった。

リクターはクィルらに連絡を取りながら、なおも対処に追われていた。幸い、長老ハズメットのいる上層ブロックへの侵入はまだ赦しておらず、要塞の機能に関しても主導権を握られてはいない。

しかしながら、備蓄庫や居住ブロックの大部分が過激派に占領されており、無関係な民を人質にする可能性もないわけではない。クィルなどは、過激派を動かしている黒幕がいるのではないか、と考えており、その黒幕は平気で魔族を切り捨てることのできる存在だとみていた。

クィルは過激派との交渉を扉を挟んで行っている。その間に、リクターが部隊を再編していた。


「くそ、まさかこちらの戦力の切り崩しをされるとはな」


リクターはそう呟き、エノラやセラーナの治療を受ける。致命傷こそ負っていないが、多勢に無勢で全身に傷を負っている。

味方と信じたものからの背後よりの攻撃は、流石に彼といえども避けることはできなかったのだ。


「何とかクィルが交渉で押しとどめているけれども、たぶんあちらも動いているだろうね」


エノラが言い、アルトリザリコンの図面を指し示す。内部からの通路が使えないとなれば、当然外側から攻めてくるであろう。そちらにも守備隊が回っているが、備蓄は限られているし、数もあちらの方が多い。思った以上に魔族の怨みは強く、過激派の意見に皆流されているようであった。

過激派の中に、どうやら魔術や薬による洗脳が施された形跡のある物をクィルが見つけており、セラーナとエノラで調べたが、どうやらその予想はあたりであったようだ。


「正常な思考能力を失っている者もいるし、全員が全員自分の意志、というわけではなさそうね」


「とはいえ、見分けるのは難しいわね」


二人の言葉にリクターはただ無言で耳を傾ける。彼から少し離れた場所に立っていたセウスは、腰に下げたセアリエルを抜き、その刀身を確認するようにじっと見ていた。


「ハズメット様はどうしている?」


リクターが問うと、セウスは上で考え事をしている、と言う。曰く、大宗主国に行くべきかどうか、だ。

過激派をこのまま抱え続けるわけにはいかない。この機に彼らをアルトリザリコンから追放するつもりのようだ。同胞と言えども、このまま全員を破滅に導くわけにはいかない、と。

アルトリザリコンは移動を開始しており、ゆっくりとクライシュ大陸へと動き出していた。

過激派は要塞のコントロールを奪おうと、爆発を起こすなどの妨害を行っていたが、主要な操作機関は上層に固まっているため、支障はほとんどない。

大宗主国への連絡がないため、その途中で大宗主国の防衛軍に落とされる心配もあった。これはもはや賭けであった。大宗主が噂通りの人物ならば、早々に打ち落とすような真似はしないであろう、と。

そんなクィルたちを止めるべき、過激派は強烈な攻撃を繰り返した。交渉していたクィルに、焦りだし、交渉を一方的に終了させると、扉をこじ開けようとしてきた。クィルは扉から離れ、後ろのリクターたちに合図を送った。

リクターは槍を掴み、クィルのもとへと向かっていく。エノラも刀を構え、セラーナも杖を手に取り、戦闘の用意を始めた。

そして、ついに扉は打ち破られ、敵がなだれ込んできた。

両手を竜化させたクィルは、殺さないように力加減に気を付けながら襲いくる敵に向かって奔りだす。




魔術師はどうにか要塞のコントロールを奪おうとしたが、内も外もさすがに守りが固く、それは叶わなかった。このまま大宗主国に行かれても、アンセルムスの計画はいくつもある。だから別に、焦る必要はない。ないのだが、アンセルムスから信任されているのは自分であり、大宗主国にいるシャンクシーションクに手柄を取られたくはない、という思いが彼にはあった。

魔術師は北の魔族反乱に参加する意思のある者を少しずつ脱出させながらも、どうにかして要塞を乗っ取ろうと策を巡らせていた。

そんな魔術師は目の前で繰り広げられる戦闘を見る。不甲斐無いことに数人の敵相手に数十人が束でかかってもかなわない。相手は人間三人と魔族二人。何を手こずることがあるのか、と彼は思った。不甲斐無い彼らのために、仕方なく魔術師は秘策を使うことにした。

それは、数人の過激派に埋め込んだ特殊な因子である。魔族としての血を覚醒させ、魔物化させる特殊な薬である。禁じられた術式を解読し、アレンジしたものであり、アンセルムスからいざとなったら使うように、と持たせられていたものだ。

魔術師の言葉一つでそれは覚醒した。数人の魔族の身体が痙攣し、肉が膨張する。

クィルたちは何が起こったのかは理解できない様子であった。気を失っていた魔族が突如起き上がり、あり得ない変化をしていくのだから。

それが彼らのスキルによるものではないことをクィルは知った。クィルは四肢を竜化し、目の前の魔物とかしたかつての仲間を見る。その姿は、完全に竜化したクィルと似ていた。理性を放棄し、破壊に身をゆだねただけの姿。

ただ、クィルと違い、彼らが元に戻ることはもうない。


「なんだ、これは・・・・・・・・・・・・!?」


リクターが呟く。セラーナが魔物化した者たちを見て、言った。


「何かが彼らに埋め込まれていたみたいね。なんてむごいことを・・・・・・・・・・」


泣き叫ぶ魔物たちを見て、セラーナが言う。クィルは何とかして彼らを救えないのか、とセラーナを見るが、セラーナはゆっくりと首を振った。

体内の魔力のバランスは崩れ、その魂は安定していない。彼らがもう元の姿に戻ることはありえない。奇跡が起こらない限りは。

そんなもの、望んでも起きないことをクィルは知っている。


「く、ぅ・・・・・・・・・・・・!!」


魔物の一撃がクィルを襲う。竜化した腕で受け止めるが、片腕では足りず、両腕で受け止めねばならなかった。

クィルは歯を食いしばると、理性を失わないギリギリのラインまで力を振り絞り、魔物を押し離した。そして、容赦なくその爪を叩き込み、心臓を抉りつぶした。

心臓を破壊された魔物は、わずかにその瞳に理性を取り戻すと、クィルに「あ、りが・・・・・・と・・・・・・」と呟き、肉体ごと消滅した。過剰な魔力に耐えきれなくなった肉体は爆散した。

涙をこらえながら、クィルは仲間だったものを切り裂く。同じように、リクターやエノラも、哀れな魔物たちに向かって武器を振るう。

肉体的なダメージよりも、精神的なダメージをクィルたちに与えた魔物たちは、十数分後には皆倒され、その肉体は残りもしなかった。



クィルは怒りに燃える瞳で周囲を見る。どこかにこれを引き起こしたものがいるはずなのだ。許すことができるはずがない。

そのものの姿を求めて歩くクィルに、リクターが肩に手を置き、止めた。


「クィル。お前はハズメット様のもとに行け」


「リクター、これほどのことを下手気を許せるものか?俺の手で八つ裂きにしてやる!」


「クィル!」


リクターが叫び、友人の顔を覗き込む。


「お前は他にしなければいけないことがあるだろう。もうじき大宗主国だ。お前は人間たちとの対話の用意をしなければならない。それに、これ以上同胞の血で汚れる必要はない」


お前は十分やった。そう呟くと、リクターは槍を構え怒りに燃える瞳で扉の向こうを見る。


「この事態を招いた敵には、俺が引導を渡してやる。お前や多くの仲間が味わった痛みをな・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・わかった」


クィルはそう呟くと、両手足の竜化を解き、ハズメットのいる上層ブロックに急いだ。リクターは親友の背を見送ると、エノラとセラーナに頼む、と目くばせし、自分はまだいる敵を討つために下層へと降りていく。


「私も行こう」


セウスはそう言うと、魚人の青年について行く。リクターはセウスに礼を言うと、魔術師の影を追って進んでいく。



魔術師の秘策も、案外役には立たず、魔術師は焦っていた。かえってそれは彼らの怒りに火をつける結果となってしまったのだ。

見誤った。魔術師は呟く。此方の戦力ばかりいたずらに消耗してしまった結果に、魔術師は深く恥じ入った。アンセルムスに対し、申し訳が立たない、と。

こうなっては仕方ない、と魔術師は腹をくくった。北へ動員させる戦力はもう脱出させてある。アンセルムスの計画に少しばかり修正が必要ではあるが、被害はこれ以上出させはしない。

魔術師は最後の一本となった薬を衣の中から取り出した。魔物化させる禁断の秘薬。それを自分に使うのである。

勿論、恐怖はある。だが、そんなものも細事でしかない。


「アンセルムス様の望む未来のために・・・・・・・・・・・・!!」


そう言うと、魔術師は自身の口を開き、その薬を仰ぎ吞んだ。

魔術師の身体に変化が訪れるのはすぐであった。先ほどの者たちのそれよりも一段強いその薬の効力はすぐであり、魔術師の身体を異様な毛むくじゃらの蜘蛛の化け物に変えた。鋭い爪と牙、不気味な八つの目、八本の腕。蜘蛛は毒を撒き散らす。

人質としてとらえていた魔族を糸でからめ、捕食しながら蜘蛛は敵が来るのを待っていた。


リクターとセウスがそこにたどり着くと、民間人の多くが蜘蛛に捕食された後であった。無残な身体のパーツがそこかしこに散らばり、蜘蛛は無数の糸を張り巡らせ、静かに侵入者を見ていた。


「なんということを・・・・・・・・・・・・!!」


セウスは呟き、わなわなと震える。多くの子どももいたのに、と彼は呻いた。

リクターは表情一つ変えていなかった。だが、それは悲しくないわけでも、怒っていないわけでもない。ただ、怒りと悲しみが限界を振り切り、変に落ち着いていたのだ。身体はマヒしたかのように変わらず、ただただ槍を持つ手の感触だけが、妙にはっきりとしていた。

蜘蛛が口を開き、叫ぶ。不気味な咆哮を上げる口から零れだす、同胞たちの血と肉。それを見て、リクターはカッと目を見開き、蜘蛛に向かって突進していった。

セウスもそれに少し遅れたものの、奔りだし、蜘蛛の脚の一本を薙ぎ払う。だが、驚異的なスピードで新たな腕が生え、セウスを襲った。

リクターは蜘蛛の腕の腕、糸、毒液を躱しながらどうにかして蜘蛛を仕留めようとしていた。リクターが槍で切り払った部位は再生することはなく、蜘蛛は痛みに呻いた。

リクターのスキルは相手の再生能力を遅らせるものである。相手の魔力保有量によっては、再生することのできない傷すら負わせることができる。大蜘蛛の魔力はすでにバランスが崩れているために、再生能力が回復する見込みはほぼなかった。

セウスがリクターによって再生できなくなった個所への攻撃を行い、蜘蛛の気を逸らしている間にリクターは蜘蛛に止めを刺すために蜘蛛の真下に向かう。蜘蛛はそれを拒もうとするが、残った腕は数少なく、それもセウスに阻まれていた。糸や毒液を吐き出そうにも、体内で生成するのに時間がかかっていた。リクターは接敵すると、迷うことなく槍を突き出した。蜘蛛の大きな胴体を貫き、緑色の血を吹き出しながら、蜘蛛は呻いた。


『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』


蜘蛛は泣き叫びながら倒れる。倒れた蜘蛛の身体が、魔力に分解されていく。

八つの目から涙を溢し、何かを見ていた蜘蛛が口を動かした。


『ア、ン、セル・・・・・・・・・・・ス・・・・・・・・・・・・さ・・・・・・・・・・・』


その言葉は言葉にもならずに、消えた。蜘蛛の魂と肉体とともに。

リクターはやるせない気持ちで蜘蛛のいた場所を見る。周囲に飛び散った蜘蛛の血と、仲間たちの血肉。それだけが残っていた。

戦闘が終わり、ようやく麻痺していた感情が溶け出す。仁王立ちし、肩を震わすリクターを見て、セウスは静かに駆け寄り、その肩に手を置いた。




魔術師は死んだが、彼の遺した置き土産は未だ残っていた。最大級の術式が残されており、それは発動した。

順調に大宗主国に向かっていたアルトリザリコン要塞の下層部をそれは襲った。動力炉の一つを巻き込んだ爆発により、アルトリザリコンはそのコントロールを失いつつあった。


「ハズメット様!!」


クィルが言うと、ハズメットはその場に居る者たちに向けて叫んだ。


「全員、どこかに摑まるのだ!激突するぞ・・・・・・・・・・・!!」


ハズメットは叫び、自身はコントロールのために全神経を操舵に集中する。少しでもショックを和らげるために。

前方に見える大きな山。そこにこのままではぶつかってしまう。それを回避しようとハズメットはした。

その時、何か強い力が要塞を止めたように感じた。


「・・・・・・・・・・・!!?」


皆が驚く中、宙で動きを止めたアルトリザリコン最上階に、誰かが入り込んできた。外の壁を突き破り、その人物はゆっくりとハズメットらを見た。

白い長髪と、ローブの裾を引きずりながら歩く、年齢不詳の青年。その放つ力は、常人をはるかに超えている。

要塞の破壊された炉を肩代わりし、その人物はアルトリザリコンを安定させているのだ。

クィルはその人物が何者かを悟った。


「大宗主、ロイフォル・オーギュナント・・・・・・・・・・」


「いかにも」


大宗主と呼ばれた青年は、そう言うとニコリと笑い、ハズメットたちを見回した。


「ようこそ、グラウキエ大宗主国へ。魔族国の方々」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ