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最後の戦い

ハザの接近以後、魔法陣に敵を近づけることを連合軍は許さなかった。

いよいよ、その時が訪れた。魔法陣発動の時が。


魔術師カリカルチュアやアテナも心なしか緊張している。ここまで来て、失敗はできないのだ。


「皆の希望を、全てをあなた方に託しましょう」


老魔術師の言葉に、かつてこの世界を生み出した神々の転生者たちは力強く頷く。

『喪失者』がそれを阻むため、その動きを激しくする。魔法陣近くまで敵が押し寄せる。


「・・・・・・時間です」


カリカルチュアが言う。クロヴェイルは「死ぬな」とカリカルチュアに言った。カリカルチュアは笑う。


「今更この生命は惜しくはありませんが、そうですな。新たな世界を見て見たくは思います。・・・・・・どうか、あなたがもご無事で」


オリュン山山頂に施された大魔法陣の中心に13人の神々が立つ。そして、円の外苑に魔術師たちが立つ。巨大な魔法陣が光り輝き、廻り出す。『神』が作った結界を破壊し、『焦がれの聖域』への道を切り裂いた。

魔法陣の中、光に包まれながら、神々は互いを見た。


「ついに、この時はきた」


アンセルムスは言う。


「さあ、俺たちの世界を取り戻そう」


その言葉に、強く頷き、そして神々は光の中に消え、遠く、空へと消えた。


それを見送ったエデナ=アルバに生きる者たち。神々は無事、『神』のもとへ行くだろう。ならば、自分たちは彼らの勝利を信じ、戦うだけだ。


カリカルチュアたち魔術師も魔法陣を展開する任務を終えたため、ようやく戦闘に参加できる。魔女アテナやイーリオンがその強大な魔力を使用し、敵を蹂躙する。カリカルチュアも老骨に鞭を討ち、『喪失者』に向かっていく。

カリカルチュアは指輪を取り出し、それをはめる。土の指輪、と呼ばれるそれをはめた瞬間、彼の背後に巨大なゴゥレムが現れる。軽く『喪失者』の巨人型、ドラゴン型を超えるそれは、突進してきた戦車型をいとも簡単に掴み、叩きつけた。

カリカルチュアの生命力を魔力に変換し、最強のゴゥレムを作り出す、という秘宝の一つである。彼の師、ゾドークが生み出したその魔術具を、彼は初めて使用した。禁断の魔術具として忌避してきたが、今、この指輪が使われる時だと考えていた。


「この戦いが終わった後、おそらく武器や兵器は消えてなくなるだろう」


カリカルチュアはそう呟き、魔術師たちを率いて戦場に進む。




空で戦闘を繰り広げるハーイアとアミテリア。壮絶な空中戦を繰り広げる二者は血塗れであった。

アミテリアを奪われて以後、そのことを忘れたことはないハーイアに対し、もはやアミテリアはハーイアのことを認識できていなかった。どの道、アミテリアが再び自分のもとに戻ってくるとは思ってはいない。

復讐の相手である『神』も、もう間もなく消滅するだろう。ならば、もはやこの地上にも空にも何の未練もなかった。


ハーイアは翼を広げる。そして、風を切る。アミテリアに肉薄し、その刃が音色の翼を振るい、アミテリアの無数の羽をもぎ取る。アミテリアは悲鳴を上げ、無事な翼でハーイアを突き刺す。ハーイアの核を貫き、首を貫いた鋭い羽根は、血で濡れていた。ハーイアは静かに彼女を抱きしめると、そのまま自分の翼で貫いた。二人の核を、鋭い刃が貫いた。


「あ、あ、あ・・・・・・」


「これで、もう離れない。もう、二度と失わない。我が、妻・・・・・・我が、片翼イカロスよ」


穏やかに笑い、ハーイアは落ちる。彼の前で、アミテリアは呆然としていたが、ふと彼を見て、笑ったように思えた。

ハーイアは落ち行く中、空を見た。広大な空で、神々は戦っているのだろう。ハーイアもアミテリアも、この空を自由には飛べなかった。けれど。

きっと、次にこの世界に生まれ変わる時には、きっと。


抱きしめる手に力を入れる。

生まれ変わっても、離しはしない。

二人の身体が、光となって消えていく。眩い光が、戦場で戦う『喪失者』たちに言いようもない痛みを与えた。二人の魔神の消える際の膨大な光のエネルギーが『喪失者』たちの身体を縛り、弱体化させた。連合軍はその隙を逃さず、敵を切り倒すと再び勢いに乗り、勝利を重ねていった。



ハーイアとアミテリアの光は、ケルビムにも影響を及ぼしていた。ケルビムの動きは急に緩慢になった。それは圧倒的な動きと強さを誇るケルビムが初めて見せた隙であり、それを戦士たちは見逃さない。


「はぁぁぁぁ!!」


ミアベルとレヴィアが唸り、剣聖剣を叩きつける。ケルビムが両腕で反撃をしようとするのを、ヌッとでてきたハウシュマリアの巨大な腕が抑える。背中の三本の腕を動かそうとするが、その背中の腕に向かってセウスが剣を振り上げる。セアリエルが輝きを増し、ケルビムの背中の腕を一つ、切り落とした。


『ッ!!』


驚愕したケルビム。そんな彼の懐に潜り込んだ大宗主が拳を叩き込み、聖なる力を討ち放つ。ケルビムの体内を聖なる波動が奔り、身体を軋ませる。


『ご、ほ・・・・・・』


ケルビムは膝をつき、叫ぶ。その力を弾きながら、レヴィアたちは距離を取る。


『なんだ、これは。なんなのだ、これは』


今まで圧倒的な力で圧倒してきた自分がなぜ、と。

ケルビムの視線の中で、次々と『喪失者』は駆逐されていく。あれほど群れていた『喪失者』は、もう数少ない。魔神や英雄などの例外はあるが、ニンゲンや魔族、エルフなど、一個体の力では遥かに『喪失者』の方が高い。そして、数もこちらが上回っていた。

何故だ。ケルビムは問う。誰でもなく、自分に。だが、答えは出ない。


ケルビムと戦う英雄たちの方に、戦いを終えた戦士たちが集ってくる。魔術師アテナやイーリオン、ネフェリエ、ドラッヘ、カリカルチュア、黎帝、カッシート。その他多くの、生き残った戦士たちが。

彼らの顔には、絶望はない。漲る闘気。折れない覚悟。明日への希望。それが彼らを突き動かすのだ。


『理解できない』


「だろうな」


セウスはケルビムを見て言う。


「お前たち『喪失者』は、その強さの代わりに、大切なものを失くしているのだ。それは我らが愛と呼ぶものであったり、信念と呼ぶもの。そして、それが理解できない貴様に、私も、この世界も倒せない」


セウスはセアリエルを構える。


「来るがいい、ケルビム。私の後ろには、何万もの戦士がいるぞ。たとえ、お前が一騎当千、一騎当万の猛者であろうとも、我らは最後の一人になるまで挫けぬ。そして、お前を倒すであろう」


ケルビムは、言いようもない敗北感を味わっていた。不快、不快、不快だった。ただただ、虫唾が走る。


『ならば、殺しつくしてやろう!!』


膨れ上がる邪気。ケルビムは失った背中の腕を再生すると、邪悪な身体をより膨らませ、歩き出す。


『すべてを壊す、壊す、壊す、壊す』


ケルビムに、魔術が降り注ぐ。容赦のない魔法。

剣を構えた騎士が立ち阻み、彼を斬りつける。どれほど彼がふり払い、殺そうとも、彼らは引き下がらず、立ち向かう。死すらも怖れぬその姿に、初めてケルビムは恐怖を感じた。

ケルビムは消耗し、英雄たちの前に立つ。


「ケルビム」


ミアベルが、剣聖剣を構えて言う。


「お前に、希望は壊させない」


『絶望に溺れろォ!』


黒い泥がケルビムの身体から放出される。ミアベルはそれを切り払い、進む。彼女の隣に並ぶように、レヴィア=ツィリアが並ぶ。


「ケルビム。終わりだ」


『終わりはしない、終わりは・・・・・・・・・!!』


叫ぶケルビム。彼は腕を突き出し、ミアベルとレヴィアを殺さんとしてくる。二人の剣聖は、その攻撃をかわし、切り払い、そしてケルビムに肉薄した。

ケルビムはミアベルの心臓目がけて腕を突き出そうとし、その腕の「時」が止まる。レヴィア=ツィリアが笑う。


「油断したな、ケルビム」


「はあああああああああああああああ!!!」


ミアベルが叫びながら剣を振る。レヴィアも、逆方向から剣を振り、ケルビムの首目がける。

そして、二本の剣聖剣がほぼ同時にケルビムの首を切り裂き、胴から引き離した。ケルビムはその醜悪な黒い顔を苦痛に歪めていた。『喪失者』の首領ケルビムが、このような他愛もない連中に倒され、このような他愛のない世界に死すなどと、あってはならないはずなのだ。

ケルビムは永い絶叫を上げた。その悲鳴は、長いこと戦士たちの耳から離れなかったが、空の雲間から指す光を見た瞬間、その叫びは意識の中から消えた。


彼らは勝利したのだ。多くの犠牲を出しながらも、あの『喪失者』を相手に戦い、勝ったのだ。

後に残すは、『神』のみ。

人々は空を見る。

何も言わない『神』。おそらく、あの空の向こうでは今、戦いが繰り広げられているのだ。

勝利を信じ、彼らは待つ。





『焦がれの聖域』に降り立った神々。かつてそこに住んでいた彼らは、悠久の時を経てここに戻ってきた。すべての決着をつけるため。


「奴は、中か」


リクターが呟く。


「中でまだ『神』を気取ってふんぞり返っているんだろうな」


ゼルが気に入らねえ、と言う。


「取り戻そう。私たちの世界を」


「ああ」


エノラの言葉に、クィルが頷き、手を合わせた。各々の神器を持ち、この場に立つ神々。その先頭に立ち、アンセルムスは強い輝きを放つ黒曜の瞳で、闇の奥を覗き込む。


「行こう」


首から下げた指輪を握りしめ、アンセルムスは歩き出す。その後を、12人の神々が追う。



聖域の奥。そこで、『神』は待っていた。

『神』の真の姿。それは、『喪失者』とも、それ以外のこの世界の生物や物質とは異なっていた。それまでアンセルムスたちが見ていた姿すらも、偽りであったのだと彼らは知った。

機械仕掛けの大広間の中で、玉座に腰掛ける『機械仕掛けの神』。それこそが、異界よりこのエデナ=アルバに迷い込んだプログラムであった。

十本の腕を持ち、黄金に輝く金属の肉体。人を模しているその巨人は、アンセルムスたちを見る。


『ついに、ここまでたどり着いたか』


「ああ」


短くアンセルムスは返し、『神殺し』を抜く。


「お前が何者であろうとも、俺のこの剣で殺してやる」


アンセルムスが『神』を倒すために作り出したソレ。神の血肉で作られたそれには、流石の『神』も敵わない。


『何故、抗う?何故、戦う?貴様たちはただ、幸せな夢を見て入ればよかったのだ。そうだ、アンセルムス、貴様さえ、何も知らなければ』


「そうやって安穏と暮らせっていうのか。御免だね」


アンセルムスはそう言い、『神』を見る。


「そうやって人を見下す。てめえは何様なんだ」


『神だ、そのように作られた』


そう言ったプログラムは、立ち上がる。そして、巨体がアンセルムスたちに近づいてくる。


「なら、よその世界に行け。ここではないどこかで。そこで一人、神様ごっこでもしてろ」


『神の命令は絶対。我こそは、絶対の存在。障害を排除する・・・・・・神をも畏れぬ異端者よ』


『神』の十本の腕にはいつの間にか武器が握られている。

異端者、か。アンセルムスはニヤリと笑う。異端者。いい響きだ。


『神』か、それとも人か。どちらがこの世界を統べるにふさわしいか。それを決める、戦いが始まる。

壮大なる神話の、最終章。神々は躍り、偽りの神に反旗を翻す。

偽りの『神』の祝福しはいなど、もはやいらない。祝福など、人には必要ない。時に他人を頼り、時に傷つけ、挫折して。時に謝り。それでも、人は自分の足で歩いて行ける。そして、自分で歩いていく強さがある。誰かに言われたからではない、自分がそうしたいと願えば、道は開かれるのだ。

神など、必要ない。心の中の、自分の中のこえに従え。


仲間たちの顔を見回し、アンセルムスは剣を構えて『神』を見る。


「俺たちは、祝福されぬ者たちだ」



用意されたシナリオを超え、今こそ、未来を。


「さあ、始めようぜ。最後の戦いを」






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