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地下世界オードヴェル

セラーナ、ミランダが神器を手に入れたように、他の面々も順調に神器を発見していた。

クロヴェイルはオリュン山の頂上にて彼の神器『太陽シャイアギエテ』を見つけた。朝日が昇る瞬間、一瞬だけ見える輝き。その輝きを掴むことで、太陽の剣の封印は解かれるのだ。

同じく、霧の山脈のかつての自身が葬られた墓標でクローリエは『ゼルガの盾』という白き衣を手にしていた。途中、魔神ハザの妨害もあったが、タムズとともに魔神を退け、無事手に入れることに成功した。

クオンタの神槍は、北西の外海に浮かぶ小島の下にある水の宮殿に存在した。複数の『喪失者』の手から逃れ、神槍『ガフラース』を手にし、リクターは無事帰還を果たした。

ゼレファフの指輪『ニーベルンゲン』は、西のファムファートに存在するグルガッハ活火山にて見つけた。クィルが竜化し、火口に入り、灼熱の溶岩の中を掻き分けて見つけたのだ。

リナリーは大宗主らの協力を得て、アウラ海を隅々まで探し、七つの魔石を集め、それを使い水晶のある隠し場所へと入り込んだ。そこで彼女は神器『テンペスト』を入手した。

キアラはドラッヘらを引き連れて、アンセルムスの神器『神殺しの刃』が封印されていた場所を再び探索し、隠し通路を見つけた。その先で多くの知恵試しを通過し、神器『マキノの涙』を手にした。

ユグルタはイーリオンとともにアルガモンの街に向かい、そこから『存在しない街』古代アルガモンに飛ばされた。そこで不思議な一週間を過ごし、その末に彼の神器『ホークアイ』を入手した。

『神』の妨害や罠を乗り越え、着々と皆が神器を手に入れる中、未だゼル・マックールは神器を探す旅を続けていた。


彼が目指す場所は、地下世界オードヴェルである。地下世界、と言うだけあり、その世界は地上世界の下、遥かな地下である。

地下世界は主にドワーフの住む世界である。何度かの戦争の末、地上に嫌気がさしたドワーフは地下世界に引きこもり、以後、地上世界とは交友を断っている。遥かな神々の時代は、彼らも地上に棲み、人やエルフとの共生をしていた。しかし、『神』によって壊された世界では、彼らの居場所は地上になかったのだ。

地下世界にはいくつかのドワーフの王国があり、その王国は互いに協定を結び、平和を保っているという。この地下世界までは未だ『喪失者』は現れてはいないらしい。だが、いずれここも滅ぼされるだろう、このまま地上世界が壊されたならば。

ゼルはこの地下世界にいるであろう『強欲』の魔神のもとへと向かっている。魔神の持つ神器を手に入れるために。

ゼルのこの旅には、ミアベルとレイーネの二人が同行していた。ゼル独りで広大な地下世界を旅するのは非常に難しい。それに、友人となったエレナからゼルのことを頼まれていた。レイーネのいるファーレンハイトの一族は古代の失われた知識の一部を継承しており、地下世界に関しての知識もあり、案内役としてはちょうどよかったのだ。

地下世界の魔物たちは、『喪失者』がいないせいか、地上の侵入者である三人を追ってくる。ゼルも次第に力を取り戻しつつあるが、一人ではさすがに太刀打ちできず、連れがいて助かった、と今になって実感していた。


途中、ドワーフの街や村に立ち寄り、『強欲』の魔神について聞くと、ドワーフたちはすぐに顔をしかめ、何をしに行く、と聞く。ゼルは魔神からある物を取り戻したい、と言うと、やめておけ、と彼らは言う。


「ドワーフの宝と言う宝を奴は奪った。誰もあの魔神には敵わん。地上から何をしに来たのか知らんが、帰りなさい」


そう言い、結局教えはしない。仕方なしに、ドワーフたちの記録や文書を見て、その魔神の城を目指している。

ドワーフの世界は平和、と言うが、それは魔神の支配のもと、という言葉が前につく。恐怖による支配である。ゼルは、そう言った力に屈服するドワーフに苛立ちを感じる。革命家であるゼルは、そう言った高圧的な存在がたいそう嫌いである。かつてのバーティマの支配者然り、『神』然り。


「どの道、そのアウグノールの王は神器を手放すまいよ。なら、倒して奪うまでさ」


自分の物なのだから、とさも当然のように言うゼルに呆れる二人だが、確かにこのまま魔神を放っておくのも後味が悪かった。

三人は荒野を進みながら、他の者たちはどうしているだろう、と思う。



地下世界、と言うのだから、普通月や太陽はないと思うだろう。だが、この世界にもちゃんと太陽と月はある。それがどういう原理なのかは知らない。だが、ゼル曰く、13人の神々でそうやって世界を作った、ということであり、神々自身もどうやって作ったか覚えていないという。元々は太陽はなかったのかもしれないが、地上にすむ生物を哀れに感じた神々の誰かが作ったのかもな、とゼルは言った。



先に寝る、と言ったゼルを見て、ミアベルはため息をつく。


「本当、いやなやつね」


「・・・・・・わざとああやって憎まれ役をやっているのよ。たぶん、私たちがくじけないように」


ミアベルの言葉にレイーネが返す。そういうもの、と聞くとレイーネが頷く。白髪の呪われし民の少女は焚火を見つめる。


「あの人、アンセルムス様に似ている。口ではああいっているけど、本当は優しい人」


「・・・・・・そういうものかしら」


ミアベルの言葉に、そうよ、とレイーネは言う。法と富を司る神、アポクリフ。他者に厳しく、自分にも厳しい神だ。だが、本来その人が持つべき宝や財産が奪われた時、彼はそれをあるべきものに必ず返すために力を尽くす。そのことからもわかるように、決して厳しいだけの神ではないのだ。

ただ少し、不器用なだけだ、と。

もっとも、これは押し売りだけれど、とレイーネは言う。今言ったことは、ゼルの恋人であるエレナの言葉を借りただけだ、と。


「好きな人のことは、良く見ているのね」


「そうね」


「ねえ、レイーネは人を好きになったことって、ある?」


突然の言葉に、レイーネはえ、と言い、戸惑う。


「私は、まだ、そういうのは」


「そっか。私も」


そう笑ってミアベルは火をくべる。


「戦いが終わったら、どうなるかはわからないけれど、きっと平和になる。ううん、平和にしてみせる。誰も傷つかない、優しい世界を。父さんや母さんや、皆と一緒に」


そうしたらさ、私たちもきっと、誰かを愛するようになるよ。ミアベルの言葉に、レイーネはそうだね、と答えた。

死んだ兄の分まで、お前は幸せにならねばならない。アンセルムスはそう言った。それが、俺にできる君への償いだ、と。

久しぶりに兄を思い出し、涙を流すレイーネに休むようにミアベルは言う。寝ずの番はまずは私がやるから、と。レイーネはその言葉に甘え、睡眠をとることにした。

ミアベルは地下世界に広がる、夜空を見る。地下でも、星は輝いている。空に手を伸ばした、その星がつかめないかな、とまるで子供がするように。


「はは、とれるはずないじゃない」


けれど、とミアベルは思う。必ず掴んでみせる。未来を、希望を、夢を。

見ている、母さん、師匠。私は、ここまで来たよ。あと少し、あと少しだよ。

虹色の髪の少女は、母を思い出し、泣いた。けれど、すぐにその涙を拭うと、火をくべ、番をした。



少女たちの会話を聞いていたゼルは、目を閉じ、眠りに落ちた。





地下世界を旅し、地下世界の果て、と言われるアウグノールに彼らが辿りついたのは、神器さがしを初めて一週間以上が過ぎてからであった。

アウグノールは地下世界でもひときわ荒廃し、あちこちで毒の沼や溶岩、それにガスが噴き出す危険地帯である。そして、そのはるか向こうに、大きな城が見える。レス=グラウキエ・コンクードには及ばないが、巨大だ。


「あれが、目的の場所、か」


地下世界の支配者だけあって、いい場所に住んでいやがる、とゼルが言う。三人はその城に向かって歩き出す。

道なき道は危険で溢れている。足場の少ない溶岩地帯や、底なしの毒沼など、行く手には多くの困難が待っていた。三人は力を合わせてどうにか道半分までたどり着くことができた。だが、それもこれから待つ困難の始まりに過ぎなかった。

魔物の群れを避けながら、崩れ落ちそうな岩山を注意しながら歩き、闇ドワーフの狩人たちを倒しながら進む。闇ドワーフの崇拝する王は強大無比であり、地上の生命ではかなわぬ、と言う闇ドワーフ首領を黙らせ、ゼルは進む。


やっとのことで三人が魔神の居城につく。魔神の城の名は特になく、闇ドワーフは地下世界の王の城と呼び、ドワーフは強欲者の居城と呼んでいるそうだ。


「罠があるかもしれません。慎重に」


レイーネの言葉にさしものゼルも何も言わない。魔神の城から漂う気配は並大抵なものではない。油断すれば、命を落とす。それがわかっていた。

ミアベルは剣聖剣を引き抜き、ゼルも剣を抜いた。レイーネは苦無や小刀をいつでも取り出せるように準備をする。


「じゃあ、行くとするか」


重い扉を開き、三人は魔の巣窟へと入っていく。




ミスリル銀、ダマスクス鋼、魔力結晶。そう言った希少金属をこれでもか、と壁に張っていて、奪った財宝をそこらかしこに飾ってある、まさにコレクターの城、といった様子の城を三人は見回す。


「すごいな」


これだけのミスリル銀や希少金属があれば、軽く一国家の財政問題は解決してしまう、と国の責任者としてつい考えてしまう。だが、問題はまずは、魔神と神器である。ゼルは気を引き締め、城を探索する。侵入者を想定していないのか、上への階段はすぐ見つかった。それを上る三人だが、何分城は高い。階段も長かった。

大物を気取る奴はたいてい高い場所を好む。それはかつての自分然り、『神』然り、魔神然り。そう考えるゼルたちの前に、石像が待ち受けていた。ガーゴイルの石像。それを見て、ゼルは厭な予感がした。

引き返そう、とゼルが言おうとした瞬間、後ろにあった階段が消えた。三人は退路を断たれた。


「しまった」


そう言うゼルたちに、声が聞こえる。


『人間どもが何用で我が城におる』


重い声が響く。ゼルはその声に向かって言う。


「あんたの持つ宝に用があってな。それとついでに、あんたを倒しに来た。どうやらあんた、この世界を支配しているようだからな。そう言うやつが俺は大っ嫌いでね」


そう言ったゼルに、声の主は面白い、と笑う。だが、言葉の節々に怒りの色がうかがえた。


『愚かな人間め、我のもとへとこれたならば相手をしてやろう』


ただし、我がコレクションたちは手ごわいぞ、そう言った魔神。パチン、と音がし、ガーゴイルどもが動き出す。ゼルたちは武器を構え、動き出した魔物たちと闘いを始める。



魔神の所有するガーゴイルは手ごわかった。だが、何とか全部倒すことができた。ガーゴイルを倒すと、先へ行く階段が現れる。しかし、退路はない。

進むしかないな、と三人は顔を見合わせ、進む。そして、次なる敵と戦うのであった。




闇ドワーフの作ったゴゥレム、ミスリル銀で作られた古代兵器、バンダースナッチ、キメイラ、オールドドラゴン。希少な魔物や遺物が次々と行く手に現れ、それを倒しながら三人は上へと向かっていく。時には三人バラバラになり、試練を乗り越えねばならない局面もあったが、どうにか全員無事に合流した。


「まったく、いやになるな、ここは」


ゼルの言葉にミアベルとレイーネは息を切らしながら同意した。




とある階層での戦闘後、人間に近い外見を持つ機械人形の残骸を越え次の階へと向かおうとした時、レイーネが何かを見つける。それは、人間に見えた。茶髪の、若い青年。眠るように目を閉じている。


「何している、早くいくぞ」


そう言うゼルに少し待って、と言い、彼女はその青年の方に向かう。罠かもしれない、と言うゼルに対し、なんとなく大丈夫だとレイーネは関していた。レイーネが近づき、青年の顔を見つめている。まるで、作り物のように美しい顔だった。すると、彼が目を開く。そして、レイーネを見る。澄み切った水色の眼にレイーネが映る。


「ここ、は?」


「目が覚めたの?」


レイーネの問いに、青年は周囲を見る。そして倒れる機械人形を見る。彼は悲しそうに目を伏せる。


「あれは、あなたたちが?」


青年の問いに、レイーネは頷く。そう、と青年は悲しそうに目を伏せたまま頷く。


「彼らは、本当は戦いたくなかったんだね、泣いているよ」


「・・・・・・泣いている?」


「うん」


青年はそう言い、立ち上がる。そして、ゼルやミアベルも見る。


「あなたたちはこれからどうするの?」


「これを操っている奴を倒しに行くのさ」


ゼルが言う。


「ならば、僕もつれていってほしい」


「はぁ?」


ゼルが目を剥き、青年にふざけるな、と言う。ミアベルも同意見であった。青年はどう見ても戦える身体づくりではない。見たところ武器も持っていないし、魔力も感じられない。足手まといになるだけだ。


「お前が誰か知らないが、俺はお前のお守りはできないぜ、もちろん、他の奴もな」


ゼルの言葉にミアベルも頷く。レイーネだけは青年を心配そうに見ている。


「構わないよ。自分の身は、自分で守るから」


そう言う青年に、ほう、とゼルは返す。


「なら、勝手にしろ」


そう言い、ゼルは上への階段を上る。青年はよろけながらレイーネの助けを借りて階段の前まで来る。


「あなた、名前は?」


レイーネの問いに、青年は答える。


「BhWL-95607、適応式第七世代量産型バイオ=ヒューマン後期生産ver7、型式番号09・・・・・・」


「待って、まだ続くの?あなたの愛称とかは?」


ミアベルがうんざりして遮る。青年の言う理解できない言葉をとても最後まで聞いていたら訳が分からなくなる。青年はうぅん、と唸ると「仲間内での呼び名はレノックス」と答えた。


「そう、レノックスね。私はミアベル、それでこっちはレイーネ。あと、さっきのがゼル。まあ、よろしくね」


そう言い、ミアベルは逝くわよ、とレイーネとレノックスに言う。レイーネはまだふらつくレノックスを支えながら進む。


「大丈夫?」


レイーネの言葉に、もう少しシステムが回復するまで時間がかかる、と言った。何のことか、レイーネにはわからないが、それまでは支えてあげる、と言うと、彼はありがとう、と言う。


「優しいね、あなたは」


「そんな」


「見ず知らずの人を、それも人間ですらないバイオ=ヒューマンにやさしくしてくれるなんてね」


「バイオ=ヒューマン?」


「さっきの倒れていた、あなたたちの言う機械人形のことさ」


そう言われ、レイーネは目の前の青年もそうなのだと悟った。


「機械人形にも、魂はあるの?」


「さあ、この意識が魂、という概念かどうかは僕にはわからない」


けれど、僕たちにも意識がある。それはつまり、魂があるってことかな、と彼は言う。レイーネは倒してしまった機械人形たちへの罪悪感を憶えるが、彼は気にしないで、と言う。


「きっと彼らも、救われたから」


「・・・・・・そう、ならいいけど」


そう言い、目を伏せるレイーネに「君は優しいね」と彼は言った。

レイーネは彼の住んだ眼を見て、そんなことはない、と言った。

ただ単に、あなたたちに自分たちを重ねているだけだから、と言い。

それは決して、優しさではなく、ただの憐れみでしかない。


「私は、優しくなんてないよ」


もう一度、彼女はそう言った。



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