調律
白昼夢としか思えない光景。
あたかも天使が翼をもがれ、地に落ちて行くかのように、それらは降り注ぐ。まず一番手前のメガネの奴。次に丸々と太った奴。
醜態が晒される。「やめろ! 助けてくれー!」
臨終に相応しくない、醜い懇願の叫びが響いた後、肉の潰れる音に骨の折れる音が辺り一面に広がった。
俺はジッとその様子を見急ぎ、眼球に突き刺さる超ド級にグロテスクな映像を、逐一見逃さず脳裏に焼き付けようと無心になっていた。
「そう、これが私の力だ」
そう言って、マイルズはゆっくり掌を振りかざし、墜落に怯える人間達を空中で静止させた。
とてもじゃないが、俺には敵いそうにない。スプーンを曲げたり、電球を割ったりするのが関の山だ。マイルズはとんでもない化け物だと改めて感じた。
「この力を天より授かったのは、何も私だけではない。ジェム、君も……」
俺は唾を飲んだ。冷や汗が滝のように流れてくる。体が震えている。体全体が心臓みたいに鼓動を打つのがわかる。
「マイルズ、俺にこんな凄い力があるのか?」
マイルズは不気味に笑う。また一人、鼠顔の男を落とした。
落ちる間際の絶叫。心地の良い響きだ。
いくら抵抗したところで、重力に逆らえない人間は落下する。だがこいつ等は何故こんなにも恐怖に怯えているのだろう? 自殺系サイトで集団自殺を呼びかけ、それに応じ集まってきたクズ共はずなのに、抗えぬ力で死に至ることがわかると恐れ慄き助けを請う。
「ジェム、君も覚醒すれば私と同じくらい、いや、私以上の力を発揮できることだろう」
俺は息を整え、目を瞑った。
(爆発しろ爆発しろ爆発しろバクハツしろ)
頭蓋内の脳味噌が湿った音を立て、高速回転を始めた。視覚と聴覚が別次元へ跳躍し、これまで俺の体を構築してきた細胞の一つ一つが沸騰を始めた。そして俺は声を聞いた。
『शिव』
体を取り巻く空気の密度が、目視できるほど濃くなり渦巻いた。
マイルズが言った。「おめでとう、これで君も立派に覚醒したよ」
俺は空中に浮いている人間達に念じた。
花火のように、かつ水風船が破裂するかのように、残り三人の体が木端微塵となった。
肉、骨、内臓、血液、ありとあらゆるものが飛散し、異臭が漂う。
俺はマイルズに笑いかけ、間髪入れず念じた。
(縮め縮め縮めチヂメチヂメちぢめ)
何重もの骨折音が調律された。空き缶を縦に、おもいっきり踏ん付けた時のようにマイルズの身長は五センチほどにまで縮んだ。俺は何も感じなかった。育ての親でもある、マイルズを殺しても……。
そして悟った。この世には滅ぼすべきモノがあることに……。俺は念じた。
俺の精神と肉体は暗闇に溶け込んだ。
滅ぼすべき[人類]を淘汰すべく、手始めに世界を闇で包み込んだ。
2008/4




