ならまず訂正して下さい
「愛するつもりはない」
初夜で夫になったアーロン・イルベア公爵家の当主は言い放った。
ルーシアは内心やっぱりね、と思う。
自分に舞い込んできた縁談。地獄のような実家から抜け出せて、もしかしたら受け入れられるかもしれないという淡い期待を持った。
だがそれは崩れた。音を立てながら。
白い結婚しお飾りの妻となると思いきや、アーロンにベッドの上に押し倒された。
あれ? とルーシアは思う。
白い結婚のはずでは、と思っているうちに、アーロンにキスをされるのだった。
白い結婚と思いきや、深く愛されたルーシアはベッドから動けなかった。
それを甲斐甲斐しくアーロンが食事の世話をする。
スプーンでスープをすくい、息を吹きかけて冷ますとルーシアの口元に運ぶ。
「ルーシア。あーん」
ルーシアは混乱する。
口を開けて食べさせてもらう。
「うまいか?」
「え、あ、はい」
「それはよかった」
アーロンの溺愛はそれだけではなかった。
沢山のドレスのプレゼント。
美しいアクセサリーも惜しげなく贈られてくる。
ルーシアはますます混乱した。
まるで愛されているかのような錯覚をしてしまう。
だがアーロンは初夜で言い放ったのだ。
愛するつもりはないと。
なのにアーロンは夜がくる度に深く愛される。
「どういうこと?」
聞けばいい。だが聞けない。
今夜もアーロンは仕事を終えて部屋にやってくるだろう。
扉が開き、アーロンが入ってきた。
ベッドにいるルーシアにアーロンは愛おしそうな顔をして歩み寄ってくる。
隣に座り、ルーシアをベッドの上に押し倒した。
近づいてくるアーロンから顔を逸らすと、アーロンがショックを受けた顔をするので、ルーシアは思い切って言ってみた。
「私のこと愛してないですよね?」
「え?」
アーロンは間抜けな顔をする。
ルーシアは涙を流す。
「愛して、ない、ですよね?」
アーロンは何とか体を動かして、ルーシアの涙を手で拭う。
「何故、そう思うんだ? こんなにも愛しているのに」
「だって、愛するつもりはないって。心に決めた人がいるんですよね?」
驚くアーロンは首を振り、体を起こす。
「それは違う。俺はただ、幸せにしたいだけだ。小説にもあるだろう? 有名で人気な恋愛小説が。愛するつもりはないと言われて溺愛を受けて幸せになる有名な話が」
ルーシアも体を起こして、眉を下げた。
確かにある。そういう有名な恋愛小説が。義妹も読んでいた。
ルーシアは溜息をついた。心の底から。
そして困った顔で、言うのだった。
「ならまず訂正して下さい」




