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第2話 狂い出した歯車

 大まかな行動方針が決まった俺は、すぐに動き出した。

 まずは友達作りからだ。


 ただの陰キャでは、パシリやいじめの標的となってしまう。幸い、俺は人見知りをせず、コミュニケーションにも支障はない。この点については、それなりにうまくいったと思う。


 学習発表会でのピアノ演奏や、転生者としての学力を隠さず披露することで、クラス内での立ち位置を早々に確保した。


 高校生としての経験を活かした余裕を見せつけ、周囲の相談に乗ったり、調停役をこなしたりしていれば、自然と中心人物の座が手に入る。


 元オタクとしての知識が、意外なほど幅広い層との共通言語になった。この時までは、理想的で退屈な学校生活を送れると確信していた。

 だが、小学五年生の時にすべてが狂った。両親が交通事故で死んだのだ。


  両親がこの世を去り、天涯孤独となったというのに、俺は泣けなかった。いや、泣けなかった。


 理由は明白だった。両親は俺を虐待していたからだ。流すべき涙は、とうの昔に枯れ果てていた。

 転生直後、突然聞き分けの良い子供になり、初めて触るピアノを指導者以上に弾きこなす。

 高校生レベルの学力を遺憾なく発揮し、小学生レベル程度のテストでは満点を連発する。


 大人であれば、急激な変貌に恐怖を覚えるのは無理もない。


 彼らにとっての息子は、ある日突然、得体の知れない何かにすり替わったのだ。


 彼らは親戚中に俺の異質さを言いふらした。だから、両親が死に、親戚の家に行くことになった俺は、その日から親戚の間をたらい回しにされ、日々心が削られていくのを肌で感じた。


 せっかく環境を整え、安定した生活を送れていた学校からも転校を余儀なくされ、転校先を転々とする日々。何度も同じ過程を繰り返すうちに、人間として扱われない生活に馴染み、俺は卑屈さを深めていった。


 治安の悪いこの世界において、卑屈な転校生など、格好の獲物に過ぎない。行く先々で、当然のようにいじめは続いた。


 だからだろうか。ふと、心の中に明確な殺意が芽生えたのは。


「……全部、ぶち壊してやる」


 * * *


 気づいた時には、俺を追い詰めていた加害者たちと、見て見ぬ振りを決め込んでいた担任は、全員床に沈んで動かなくなっていた。廊下には野次馬ルビでゴミどもが群がり、教師たちが怒鳴り声を上げながら駆けつけてくる。 これが契機となり、俺は他県の孤児院へ送られることになった。


 孤児院での俺の扱いは、腫れ物に触れるようなものだった。子供たちは自分とは違う空気を纏う新入りに怯え、事情を知る大人たちは軽蔑の眼差しを向けてくる。


 だが、かつてとは決定的に違う点が一つある。誰も俺に手を出さないということだ。 目は口ほどに物を言うが、直接的な暴力に比べれば、視線や噂話など取るに足らない。


 ここでは、誰かの拳に怯える必要も、冬の公園で寒さに震えることも、空腹に耐えかねて雑草を食べる必要もない。


 その事実だけが、今の俺にとって唯一の救いであり、荒んだ心を維持させるための最低限の安息だった。


 * * *


 6年生となってから転入した新しい学校は、他区と比べて弱小ヤンキーしかいない地区だった。それでも、クラスの中には必ず不良がいる。


 孤児院に入り、少しは回復したとはいえ、俺は相変わらず卑屈なままだ。だから当然、今回もいじめられた。


「おい新入り!あそこのコンビニからポテチ盗ってこい!金なんて払うなよ!もし持って来なかったら殴るからな!」「あははは!さっすが翔太!悪だねぇ」「何ぼさっとしてる!翔太さんの命令だぞ!」


 くだらない。実にくだらない。散々大人たちに殴られ、蹴られ、斬られ、刺され、焼かれてきた今となっては、こんなガキどもの攻撃などでは痛みなど感じない


 それでも、俺は黙って従う。あの日以来、俺は絶対に手を出さないと誓った。


 気に入らない人間をぶち殺すのは、存外に気持ちがいいものだ。それでも、その快楽に身を委ねれば、俺はこの世界に染まってしまう。『俺』が『俺』で無くなってしまう。それだけは、嫌だった


 店の人には、事前に話は通してある。もともといじめられっ子だったらしく、協力してくれていた


「………これでいい?」「おお、さっすが新入り!俺たちには到底できないぜ、何せ俺たちは、法律を守る優等生だからなぁ!」「ギャハハ!そうだぞ犯罪者!犯罪者は犯罪者らしく、俺たちに黙って従ってればいいんだ!」


 耐える


「……じゃあ、俺はこれで」「待てよ、ブツをとってきたから殴りはしねえ。でもお前、おせーんだよ!おらっ!そこに立て!」


 鳩尾に踵が食い込む


「……っ」「まだまだ!てめえが遅いせいで、こっちの時間が無駄に使われちまったじゃねえか!どう責任とってくれんだ!」「そうだぞ!翔太さんの時間は貴重なんだ!」


 耐える


「………殴らないって、言ってなかった?」「ああん?頭おかしくなっちまったのか?殴りはしないとは言ったが、蹴らないとは言ってねえだろ!さっすが犯罪者、そんなこともわかんねえのか!」


 耐える


「……ちっ、相変わらず無反応かよ。つまんねーの。じゃあ、また明日も頼むぜ!遅れんなよ、明日は柳さんも来るんだ。遅れたら柳さんに殴られるぜ?」「まぁじぃ?柳さんってぇ、あの西中の番張ってる柳さんっしょ?」「ギャハハハ!さっすが翔太さん!あんな凄い人とも親交があるなんて!」


 耐え切った


 彼らがいなくなったのを見て、コンビニの店員さんが駆けつけてくる。病院につれて行ってくれるそうだが、それを断って、協力してくれたことへの礼を言って孤児院に帰る。どうせ病院に行ったところで、あいつらの暴力がマシになることはない。むしろ悪化する可能性しかない。


 ………そうなれば、俺は止まれなくなる。この世界の一員として、ことわりの中に明確に組み込まれてしまう。


 だから。


 たとえこの身がボロボロになろうと、どれだけ『俺』が壊れようと、絶対に、手を出すことはない。『俺』が『俺』であるために、絶対に、守らねばならない


 孤児院に戻った後は、みんなが俺も避けていく。大人たちは相変わらず俺を蔑んだ目で見て、子供達は遠巻きに俺の悪口を言う。


 今となってはこれが当たり前であり、もはやなんとも感じなくなってしまった。やはり『俺』は、すでに壊れてしまったのだろうか。それとも、すでにこの世界に染まってしまっただけなのだろうか


 なんて意味のないことを考えつつ、俺は眠りに着く


 こうして、また一日がすぎていく


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