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6/6

読む側から、生きる側へ

急ぎ足ですがこれで終わりです。

個人的に気に入った世界なのでもっと上手に小説を書けるようになったら長編でリライトしたいですね

 それから世界は、綺麗には壊れなかったし、綺麗にも戻らなかった。


 後に“境界改定”と呼ばれるその日を境に、超常現象は完全に消えず、新しい現実の一部として固定された。


 都市には管理危険区域。

 各地の異常構造物は封鎖、研究、資源採取。

 人類は被害を受け続けたが、一方で、対応技術も制度も知識も整えていった。


 恐怖は残った。

 だが、ただ怯えるだけの段階は終わった。


 もちは公には姿を消した。

 死んだという噂もある。

 生きているという噂もある。

 真相を知る者は、ほとんどいない。


 奏多は大学を休学した。


 安全な進路を捨てた、と言う者もいた。

 馬鹿だ、と言う者もいた。

 その評価は、別に間違っていない。


 だが、奏多はもう、自分の人生を、評価の平均点だけで決める気にはなれなかった。


 危険区域の調査補助員として登録。

 現場を回る仕事を始める。


 最初は雑用ばかりだ。


 記録。

 搬送。

 避難誘導。

 地図の更新。


 怪物退治の英雄には程遠い。

 だが、それでよかった。


 主人公というのは、派手な役割のことではない。


 自分の人生から逃げない人間のことだ。


 ある早朝。

 旧市街の外れで、新たな“開口部”が見つかった。


 石畳の路地の先。

 昨日まで存在しなかった階段が、下へと続いている。

 立入禁止テープの向こうから、冷たい風が吹き上がっていた。


 無線が入る。


「遠野さん、先行班、行けますか」


 以前の自分なら、ためらっていた。

 危険を避け、責任を避け、また読む側の席に逃げ込む道を探しただろう。


 今も怖い。

 死にたくない。

 痛いのも嫌だ。


 だが、それは、生きている実感と矛盾しない。


 奏多は短く返した。


「行きます」


 装備を確かめ、階段の縁に立つ。


 その時、スマホのメモに残っていた、昔の一文が目に入った。


『こんな世界に生きてみたい』


 昔の自分が書いた、身勝手で、甘くて、無責任な願望。


 奏多は、それを静かに消した。


 違う。


 もう、願望ではない。


 彼は顔を上げ、未知の下層へ続く暗がりを見た。


 そして、自分の足で、降りていった。


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