増殖する鵺
『ぬえー』
高校の隣のクラスの神社生まれの寺内くんと一緒に帰宅していたら、なんかいた。神社生まれだと、そういうこともあるのだろう。
「なにこれ」
「鵺だ」
「鵺って、鳴き声由来の名前だったんだ」
原点の鵺って確か、頭がサル、胴体はタヌキ、手足はトラ、尾はヘビとかそういうキメラじゃなかったっけ。
ぬえーって鳴く謎生物は、寺内くんの足元にまとわりついていた。寺内くんはポケットから猫じゃらし(植物)を取り出して、謎生物の頭のうえでフリフリし始める。
なんてそんなものを常備してるんだ。神社生まれだからなのか。
『ぬえ、ぬえ!』
ぴょんぴょん飛び跳ねる謎生物。
「人懐っこいんだ……」
「適者生存って知ってるか。こいつは、令和のこの世に生存するために、"犬の性格、猫の高貴さ、ウリ坊の愛らしさ、たぬきの性格、チンチロの愛らしさ"を併存している。いわば、新時代の鵺だな」
どっちかというと、インターネットに対応しているだけじゃなかろうか。それに、1個だけ賭博が混じっているが、それは間違ってないのか。愛らしいんだ、賭博。
あと、もうひとつの問題があった。
「見た目は、どう考えてもSAN値削ってきそうなんだけど……」
「中身で勝負する。現代の価値観に適しているだろう?」
分かりやすくいえば、言葉にできないのだ。でも声は、いわゆる萌え声でぬえぬえ鳴く。
ラブクラフトなら、今くらいで謎の色彩を見いだして、発狂したかもしれない。
『ぬえーーーー』
「名状しがたすぎて、見た目を言語化できないのは致命的じゃん」
『ぬえ?』
たぶん目っぽい部分で、わたしを見上げているはず。上目遣いかもしれない。断言は全くできないけど。なんていうか、その形が、私に目であると断言することを拒否させるのだ。
ただ、この形を表現できてしまうと、それはもう、私は私から外れてしまう。そんなカタチだった。
「言語化するかどうかは、人間側の都合でしかないからな。ついでに、見つめすぎると発狂するなら気をつけろよ」
「もっと早くに止めてほしかったなあ」
やっぱり名状しがたい存在なんじゃないか。
「なんせ、現代の鵺は宇宙からやってきたらしいし」
「もうそれ、適者生存とか関係ない外来種じゃん」
『ぬええええええ』
とりあえず、写真に撮ってみた。
『『ぬえ〜〜〜〜〜〜!』』
カメラフォルダから謎生物が出てきて、数が増えた。
「えぇ……」
「デジタルネイティブなんだ」
そういう問題じゃないと思う。
そして翌朝、世界は鵺にまみれていた。増えたらしい。
どうしたもんかなこれ。




