悪の組織より悪の組織してるの辞めてくれない?
うーむ……俺は確か、親友と別れてそのままデパートで親友の妹である文華ちゃんの誕プレを買いに寄ったら……あっ!あのクソタコ怪人に殺されかけてそれで………そうだ!俺賭けに勝って怪人になってアイツをぶっ飛ばしたんだった!
それでぇ……え~と……あっ!気を失ったんだ!ヤッベ!今すぐ起きよ!
「俺、生きてますっ!……ん?何処だここ?」
「おっ、やっと起きた様ね」
「あらヤダ美人さん」
俺は《《見慣れた》》美人さんが目の前にいた事に少し驚きつつも場を茶化した。
「ふふっ、起きて早々褒めてくれてありがとう。それで体に不調は無い?それと精神は?一応キミは殺されかけた身だからね」
「うーむ………特に不調って不調はありませんよー……で、なんでうちの学校の保健室の先生がここに?」
「ふふ…それはね。私が悪の組織の博士だからって言ったら驚くかな?」
「……マジで」
「マジマジ」
「じゃあ悪の組織の博士が俺に何の用なんだ?」
「それは……」
先生はその後の言葉を溜めた為、俺は我慢ならずに聞き返した。
「それは?」
「それは君には私の観察対象になってもらいたいのよ」
「観察対象ぉ?」
「そうよ。ただし観察対象と言っても私は君の戦闘データが見たいの。後、定期的に身体検査さえさせて貰えれば私はそれで満足よ」
「……成る程、つまる所俺に悪の組織の手伝いをしろって事か」
「まぁ確かに、戦闘データを摂るついでに我が組織の為に働いて貰いたいわ……で、どう?」
……そんなの最初から決まってる!
「いいね!俺、結構前から悪役に成りたいと思ってたんだ!だから願ったり叶ったりだ。こっちこそよろしく、博士!」
「……私が言うのもなんだけど、ご家族は良いの?」
「家族かぁ……うーん……それは親友に全部丸投げでいいや」
「そんな適当な……」
「適当なんかじゃ無い。俺は親友を信頼してる。だから妹は親友に……一輝に丸投げしとくよ」
……それに、アイツが一輝の事好きなの知ってるし、あぁ見えてもしたたかだからなぁ……アイツ。
「そんな事より俺何時まで素っ裸で過ごしてればいいの?」
そう、こんな会話をしてる最中俺はずっと素っ裸だったのである。
故に博士にはずっと俺の恥ずかしい所を見せている状態なのだ。
「あぁ、すっかり忘れてたわ。それじゃあこれを着てちょうだい」
そう言って渡されたのは白のレースの下着一式と白色の踝まで覆うタイプの靴下と太ももまで覆う黒色の組み上げ式のブーツと黒の長ズボンと黒色の長袖のワイシャツだった。
俺はそれを言われるがまま着て博士にこれでいいか確認する為に見せた。
「博士〜これでいいー?」
「うん〜?……おっ、私が見込んだ通り、似合っているわね。それとこれも着けてちょうだい」
博士はそう言って、黒縁の眼鏡を渡された。
「それは通信機兼データ送信機の役割を果たしてるの。あぁ、安心してちょうだい。度は入っていない伊達メガネだから」
「ほぇ~…そうなんだ。……どう?似合う?」
「うん、とても良く似合っているわ」
「けど、派手さが無いなぁ……そうだ!」
俺はある事を思いつき、怪衣の着物のデザインを上着にした物を顕現させそれを羽織った。
「どう?これで完ぺきでしょ」
「私はあまりお洒落に詳しくないけど少し派手過ぎじゃない?一応私達は悪の組織の一員なんだけど……」
「だからこそこれぐらいいいんだろ?悪役は目立ってなんぼなんだからな!」
「そう、君がそう思うなら好きにすればいいわ」
ふぅ~まぁ色々あったが少し落ち着くか………そう言えば腹減ってたんだった。
「博士ー…腹減ったー」
「ん?あぁ、そうだったわね。君は能力を酷使していたわね。まだまだ話たい事はあるけど……これを食べながらでも聞いてちょうだい」
そう言って博士が渡したのはマグルナルドのバーガーセットだった。
「おっ、マグドじゃん!サンキュー博士。じゃ、いっただきまーす」
俺はそう言ってバーガーに齧り付いた。うん!美味い!
「で、話って何?」
「まず、君の現状についてよ」
「現状?そんなの怪人になったけどなんでか女の子にもなった。だろ?」
「まぁ大体合っているわね。けど君の怪人の成り方は大分特殊なのよ。まさか《《天然物》》がこのご時世に二人も生まれるなんて思わなかったわ」
「天然物?二人?何それ?」
「あぁ…まずはそこからだったわね。この世界では怪獣を取り込む事で人は常軌を逸した力を手に入れた存在、怪人になるの。だけど、今のご時世本当の意味で怪獣を取り込んだ人間はいないの。その殆どが疑似怪獣の因子を取り込む事で怪人となっているのよ」
「……成る程、理解した。つまり俺とそのもう一人は怪獣の一部を齧り付いて怪人になったって事か」
「……うーん、それは少し違うわ。本来は怪獣に認められて力を託される事で怪人に成れるの。心当たりはあるでしょう?」
心当たり心当たり……
「う〜ん……何となく覚えてる様な覚えてない様な……」
「ふむ、そう。これはもう一人にも聞いて確かめたくなったわね」
「そう言えばそのもう一人って誰なんだ?」
「君もよく知ってる子よ。名前は……雷光一輝君よ」
「えっ!?マジで!?」
「マジマジ、大マジよ」
えぇ~…よりにもよって親友かよ……流石は主人公と言ったところかな?
「じゃあ俺が聞きに行けばいいって事だな」
「ううん、そうとも限らないわ」
「えっ?なんで?」
「今の君、麗姫くんじゃなくて麗姫ちゃんよ」
「……あっ」
そうだった、今の俺女の子だった。これじゃあ俺が重軽麗姫って分かんねぇよなぁ……って今改めて考えると麗姫って名前、女の子過ぎないか?
麗しい姫って完全に女の子なのよ……男にこの名前付けるってやっぱうちの親は変わってんなぁ……まぁこの名前が結構気に入ってる俺も俺だけどね
「んじゃあ、どうすんの?これじゃあ聞きたくても聞けないよ?」
「そうね。だから君には改めて学校に通ってもらうわ」
「……まさか、また一輝と仲良くなれと?この体で?ムリムリ」
「どうして?」
博士は知らないのか?一輝の周りにはいつも一輝大好き同盟の女子4人が目を光らせてる事を……
「博士知らないの?一輝はいつも一輝の事が好きな女子4人組に囲まれてんだよね。だからこの体だとぜっっったいに阻まれるよ」
「そんなの君がどうにかしてちょうだい」
「えぇ~…ヤダよ。あの娘達めっっちゃ怖いもん」
一回怒らせた事あるけど三途の川3回くらい見たからなぁ……
「そっかぁ……ならこの話は一旦白紙にしましょう。他に聞きたい事はある?」
「ご馳走様でした。他に聞きたい事かぁ…うーん……」
俺はハンバーガーを食べ終わり、考えた。聞きたい事聞きたい事……あっ!そうだ!
「博士の他に組織に所属してるのって何人くらいいんの?」
悪の組織なんだし下っ端も含めて最低でもうん百人くらいはいると思うし人数くらいは把握しとかないとな。
「私と私の目の前にいる子の二人よ」
「………………ん?」
……………ん?聞き間違いかな?もしかして俺の後ろにいるのかな?俺はそう思って周りを見たが誰もいない為、嫌な予感しながら自分を指差した。
博士は「うん、そうだよ」と頷き肯定した。
……マジかぁ
「マジかぁ……ちなみに理由は?」
「実は即席で今創ったって言ったら怒る?」
「怒りはしないけどショック受けるわ」
悪の組織なんてロマンの塊みたいな組織が今即席で創られたなんて結構ショックだなぁ……
「なんて冗談よ。本当は私以外全員消されたわ」
「そっちの方が冗談であってほしいんだけどぉ……今度はホントっぽいね」
「えぇ……私達の組織はある宗教団体に壊滅させられたわ。その宗教団体の名前は『怪獣信仰団体 黄昏の園』」
「怪獣信仰団体ぃ〜?」
「そうよ。怪獣を神の様に崇めてその怪獣を穢す存在である怪人を悪として完全懲悪を目指す団体よ」
「……やっばぁ〜…何その組織、マジで気味悪ぃな」
「けど、その実力は本物よ。なにせ悪の組織は手も足も出ずに壊滅させられたんだから……」
「マジかぁ……じゃあ、どうやって対抗するん?」
「それも考え中……はぁ~…やりたい事があり過ぎて困っちゃうわねぇ〜」
「そっかぁ……まぁがんば〜…俺は適当に外をほっつき歩いてくるわ」
「あっ、なら丁度いいわ。ちょっと仕事してきてちょうだい」
「仕事?」
「えぇ、捜那区にある焼肉エンペラーの路地裏に犬型の怪獣の巣があるのよ。それを殲滅してきてちょうだい」
「悪の組織のくせに慈善事業みたいな事するんだな」
「悪の組織なんて黄昏の園をぶっ潰す為に付けた名前よ。それにあの巣は黄昏の園が密かに飼育してる怪獣達のものよ」
「えっ、悪の組織より悪の組織してんじゃん。………ん?って言うか『悪の組織』が組織名だったの!?」
「えぇ、そうよ」
……ダ、ダセェ…これ以上ないくらいにダサい!博士ってネーミング皆無なんだ。
また1つ学びを得たな……
「分かった。そんじゃ初任務行ってきまーす」
「えぇ、詳しい情報は現地に着いたらその眼鏡に送るから」
「りょうかーい」
「部屋出たら右に曲がって真っ直ぐ行ったらエレベーターがあるからそれに乗ってちょうだい。上に着いたらそのまま真っ直ぐ進めば外に出られるわ」
「分かったー!」
そう言って俺は言われた通り部屋を出て右に曲がってエレベーターに乗って上に上がるボタンを押し、エレベーターが上がりきって扉を開けて出るとそこには……
「ここは……古本屋でいいの……か?」
そこには大量の本が本棚にみっちり入っていたり、入りきらなかったのか机に大量に積まれていたりしていた。
そして暖簾を潜ると更に見渡す限りの本棚があった。
「ほぇ~まさかあのラボっぽい場所からこんな所に繋がってたなんて不思議なもんだなぁ……」
なんて辺りを見回しながら暖簾から真っ直ぐ行くとある引き戸の扉を開けて外に出た。
そして扉を閉じる為に後ろを向いて扉を閉じて横に掛けられている看板に目が入った。
「立花書店……へぇ~この古本屋ってそんな名前なんだ」
なんて下らない事を喋りながら俺は目的地に向かう為に歩き始めるのだった。
立花書店…悪の組織の拠点の隠れ蓑。前までは土日祝に開いていたが最近は悪の組織が博士一人になってしまった為営業していない。
博士…本名 立花春花。一人になるまで悪の組織のリーダーをしていた。今では麗姫をサポートする博士として活動している。