飛角
「ぼー」
四畳半、部屋の角、何が見える
何も無い
時を刻む秒針が脳に届く
再び、散らかった机へ目線を戻した。
・・・・
【角】 とがった所。部屋の隅。
とがる?は、違う気がする。凹む?いや、谷折り..
‘‘我ながらバカなことを‘‘
あれは、板と板の終着点。それ以外に何があると言うのだ⁉
「ハアッ」
単色の板を映した瞳は漆黒に染まる
・・・寝たか。
うん。落ちた、暗い、立つ?いつ立ち上がった?座って…
考え、考え、考えたが、色も道も自分の身体さえも認識できてない。
よし。取り敢えず歩みを進めてみよう
「コツコツ」
一瞬の出来事だった。
”地と空は景を成す”
青雲の空。辺り一面が桜草の花片が蒼海へと生る。
これは夢ではない
この空は記憶にない、この花片は見た事がない
美しい景観ではあるが、何故か気分が悪い
「コツコツ」
膝下まである花片を蹴り飛ばしながら歩く。
「コッ」⁈
足元の花片を踏む感覚が消えると同時に、身体は蒼海へ落下する。
気が付くと、万緑の中で手を太陽に伸ばす、可笑しな姿勢で硬直していた。
落とし穴って意外と浅いみたいだ
身体を落ち着かせ、辺りを見渡す。
万緑の中と表現していたが、緑しかない空間が正しいかもしれない
木々の、枝は草色、幹は木賊色、繊細な色使いで生えている。
周囲には、日々草や下野草、紅葉葵が緑一色で咲いていた。
心地良い景観ではあるが、緑は飽きた
取り敢えず歩く、歩くか~
「コツコツコツ」
万緑の空間に歪みが生じる。
辺りが暗くなり、また暗闇の中かと思い天を仰ぐと、
視界に黄雲の空と無数の月が輝いていた。
形が違えば、色も違う、月の光に照らされた、咲き乱れる檜扇が顔を出す。
「シュバ、シュバ」
有り余る月の輝きに目線を逸らすことが出来ず、
‘‘目が死ぬ‘‘
そう感じた時、景色が一変していた。
どうやら、歩く行為が必要ではないらしい
考察を続ける目の前を、黒雪がホワリと落下した。
暁の空の光が届いてはいるが、黒雪によって手の届く範囲しか見えない。
「コツコツ」「コツコツ」
黒雪の降り積もる、平坦な地面を右か、左か、歩き続ける。
夢の中、異世界、平行世界、此処が何処かなんてどうでもいい
”暗闇の中銀花の福寿草”
「コツコツ」「コツコツ」「コツコツ」
気が付けば、福寿草の前に立っていた。
触れるわけでもなく、見つめるわけでもなく、唯、立っていた
雪が白雪に化わり、背景と成り固まる
所々、白が剝がれ漆黒がちらついている。
足元は、地面があるのかどうか分からない程、白く不安定である。
・・・その場で大きく息を吸い深呼吸
一回、二回、三回目は、いらないかな…
・・・・
「ぼー」
四畳半の部屋の角を見る
少し背を伸ばし、腕をゆっくりとまわし、目線を机に戻す
...やるか。