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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

強化人間(美少女)です。企業の犬として人型ロボットのパイロットやってます。

作者: 針坂時計

『DTR-000-NARへ、間もなく戦闘エリアに入ります』

「了解」

輸送ヘリのパイロットからの連絡を聞いて、私は端末を閉じた。終末戦争前の思想家の本らしいけど、割と面白かったな。実現不能なファンタジー思想を大真面目に語ってるとことかね。平和な時代だからこそ出てくる発想ってかんじだね。

さて、お仕事しますか。アビオニクス、機体、武装最終チェック。

アクチュエーター各部正常。ジェネレーター出力問題なし。

武装:右腕プラズマライフル、左腕レーザーブレード、背部連装ミサイルとグレネードランチャー、パルスシールド、動作確認。ウェポンオンライン。

ニューロリンク・マニュピレーター同調90。

ベクタースラスト、アンバウンドストライカー、インパクトベクター・スラスター問題なし。

コンディションオールグリーン。


『DTR-000-NARへ、目標地点到達。投下します。無事の帰還を』

「ありがとー。DTR-000-NAR ノアレいきまーす」

運び屋がこんな風に無事の帰還をとか言ってくれるのは珍しい。強化人間なんてただの道具とみなしてるやつが殆どだからね。やっぱ美少女は得だぜ。


輸送ヘリから機体がパージされた。自由落下のスピードを、バーニアとスラスターで軽減して着地。

10メートルサイズだしオートバランサーもあるとはいえ、人型ロボットであるフレームのバランス操作はやっぱり難しいよ。

ニューロリンクによる思考制御じゃなくて、レバーとペダルとボタンだけの完全マニュアル操作だったら、たぶんすっ転んでた。

ニューロリンクは、首の後ろにあるコネクタにシートから伸びたケーブルを直接ぶっ刺す方式。 自分が本当に“改造人間”になったんだなって実感させられるから、あんまり好きじゃないんだけどね。


さて、気を取り直してマップとルートを網膜投影開始。ベクタースラスト静音起動。システム索敵モード。気候おだやか、天候不順の兆候なし。

今回の作戦目標は、丘陵地帯にある旧軍事基地を企業に反抗する武装勢力が拠点化しており、これの撃滅だ。

…なんで企業に逆らうかなあ。国家なんて枠組みは終末戦争でとっくに崩壊してるんだから、少々気に食わなくても利用でも寄生でもなんでもしたらいいのにね。

まぁ企業が絶対正義、なんていうつもりもないし、私だって境遇のせいで強化人間なんてものにされて命がけのお仕事させられてるけどさ。でも終末戦争後の過酷な世界では、企業のお陰で生きていける人だって沢山いるのだ。そういう人たちの生活を暴力でもって破壊しようなんて許されざるよ。


まぁいいか。戦術データの示すルートに従って移動を開始する。基地は東は深い断崖で10メートル級のフレームでは降下も登攀も不可能、西は天然の高い岩山、北は遮蔽物もなにもない荒野が広がっているので敵に早期発見されて一方的に撃たれる恐れが高い。必然、崖側の道を通る南ルートしか侵入経路がないわけだ。

ヘリは発見されてただろうから、まぁ待ち伏せされてるだろうね…って、早速来たな。

敵影2。7メートルぐらいの中型フレーム。2脚タイプだけどガションガション歩いてるんじゃなくて滑るように移動してる。ベクタースラスト…じゃないな。普通のホバーだ。

先行機が右腕アサルトライフルに左腕チェーンガン、後続機が同じくアサルトライフルに…レーザーショットかな、あれは。

どっちも本体正面に凹型のシールドがついてて、へこみの部分にカメラアイとなんかの砲身がついている。なんだろ、本体直結だからエナジー系だと思うけど。

警告:ロックオン。あっちもこちらを捉えたらしい。システム戦闘モード起動。

先行機がライフルを撃ってきた。まだレンジ外だから当たらないけど、牽制と目くらましかな。後続機が回り込むように移動してるね。クロスファイア狙いか、挟み撃ちにする気かな。いいね、やり手っぽい。


ミサイルとライフルで適当に反撃しつつ距離を詰める。回り込んできたやつはそのまま後ろに回る機動だね。

じゃあ、こうだ。アンバウンドストライカー(ざっくり言うと蹴り出し補助装置)点火、インパクトベクタースラスター起動。フレームの脚に仕込まれたアンバウンドストライカーが地面を爆発するように蹴り、背中のインパクトベクタースラスターが猛烈な勢いで機体を加速させる。高速突撃で一気に距離を詰める。

回り込んできたやつは置いて行かれる形になって慌てて距離を詰めてくるけど、その前に前のやつを叩こう。

フェイントを混ぜながら更に加速。距離1200。

相手もこっちの狙いに気づいたのかアサルトとチェーンガンで迎撃してくる。っていうかマジでやり手だなこいつ。火線は巧みにこっちの逃げ道を潰してくるし、フェイントはパターン豊富でかなり読みづらい。ある程度はパルスシールドで防げるけど、それなりに装甲でも受ける必要があるかも。

堅実な戦術と立ち回りで相手を確実に自分のペースに引きずり込む──エースの戦い方だ。いいねいいね。

こっちもライフルで反撃、って硬ッ!何発かあたったけど、シールドで塞がれて全然有効打になってないな。こういうときは、あれだ。


更に加速して距離を詰める。700、500、まだ。400、300、パルスシールドオーバーヒート、弾丸を装甲で受けてまだ詰める。

相手が後退して距離を取ろうとし始めたけど、ベクタースラストがある分、こっちのほうがスピードは上だ。150、120、もうちょい、3、2、1、今。

アンバウンドストライカー点火。地面を蹴って機体を垂直にジャンプさせる。これだけ近距離で高速ジャンプすれば、相手からは視界から消えたように見えるだろう。目の良さが命取りだっ!ま、一瞬でも目くらましになればそれでいい。

上空から相手の頭に向かってグレネードランチャーロック、発射。ヒット。

轟音と爆炎を撒き散らして敵機が爆発した。

スラスターとバーニアでバランスを取りつつなんとか着地。やっぱりニューロリンクなしで出来る気がしないなーこの機動。

後ろに回ったやつがようやく追いついてきた。ライフル撃ってきたけど、そこだとまだ遠いぞい。っていうかこっちはあんまり腕よくないな。相棒が殺られて怒り狂って冷静さを失ってるのか、それとも元から大した腕もないのか。


『よくもヨシュアを!』

…オープン回線?わざとか、怒りで回線の種類すら見えなくなったか。どっちにしてもやっぱりブチギレてるね。

まーそういうのも分からなくもないけど、戦場でそれは命取りだぞっと。パイロットはつねにクールでなけりゃならねえのだ。仲間がやられてカッカ来てる時でも、即座に切り替えて氷のように冷静に戦況を見てなきゃいけねえ。

だから、あんたじゃ私には勝てないよ。


相手のライフルを適当に捌きつつ距離を詰める。プラズマライフルチャージ開始。

ほらほら、フェイントが単調だよ。こっちに行って、次はこう。んで次はここ、3、2、1、今。

プラズマが相手のアサルトライフルを腕ごと吹っ飛ばす。これで向かって左が死角になった。

ムキになったのか焦ったのか、敵が頭の砲をチャージし始めた。やっぱエナジー系か。

でもなー、本体直結型って本体の正面がそのまま射線になるから読みやすいのよね。大容量だとエネルギー食うから本体のパワーダウンにも繋がるしね。

その点、関節ひとつで射角つけられるアームは楽だね。

レーザーショットで牽制しようとしてくるけど、この距離じゃほぼ減衰してパルスシールドで十分防げる。そろそろあっちのチャージ終わるかな。距離もいい感じ。3、2、1、今。

相手のエナジーキャノン(仮)の発射に合わせてアンバウンドストライカー点火。ビームの横をすり抜けて右腕側から後ろにまわる。ターンスパイクで静止、回転。レーザーブレードで背中をぶった切り、ついでに蹴り飛ばしてグレネードランチャーロック、発射。ヒット。

敵機爆散、撃破。


『ヨシュア…!』

…まだオープン回線のままだったのか。相手のパイロットの断末魔が無線に乗ってきた。女性かな、まだ若そう。

悪いね、お姉さん。でも戦場で弱いとこ見せちゃ死ぬのよ。悲しいけどこれ戦争だからさ。

さて、基地に向かうか。まだ歯ごたえあるのが残ってるといいけど。


─────────────────────────────────────


結論から言うと、基地に残ってたのは雑魚ばっかだった。中型も何機かいたけど、ロクに回避機動もとれないのばっかり。戦いは数だよ兄貴っていうけど、案山子の数ばっか揃えても意味ないよね。

結局、エースクラスは最初のやつだけだった…っていうか、あいつが教官で部隊の教導でもしてたのかもだ。明らかに訓練足りてないやつばっかだったし。

動いてる機動兵器は全部潰したし、離脱しようとしてる車両も吹っ飛ばした。あとは施設周りをチェックして…警告:熱源1。資材倉庫?さっきまで反応なかったのに。


倉庫の壁を吹っ飛ばして姿を現したのは、多脚戦車だった。戦車のキャタピラの代わりに人型の脚が生えてるやつだ。なんだこれ、通常兵器じゃないぞ。

《警告:UTCを確認。撃破してください》

サポートAIが警告してきた。UTCがなんでテロリストの基地におるんじゃ。


UTC。正しくはUnverified Tactical Cluster。

人類に黄昏をもたらした終末戦争で、狂った大国が投入したAIによる完全自立型兵器。大国の滅亡により命令系統を失ったこいつらは、アルゴリズムを自己改造して独自の進化と自己増殖に踏み出した。

今は地上じゃこいつらが我が物顔でのし歩いており、人類は地下やコロニー都市でなんとか生きながらえてる始末だ。


死んでた個体を運び込んで研究でもしてたのかな、あるいはパーツ取りか。それが再起動した?…なんで?ありえるのか、そんなUTCが。

まぁいいや、食い足りなかったところだ。歓迎しよう、盛大にな。


…の前にまずスキャンモード起動。幸い、あっちはまだ私に気づいていない。

胴体中央上部に旋回式の大型砲塔1、多分これが主砲。胴体前後に副砲各2、あとはタレットが複数、ミサイル発射口ぽいのはない。砲は全部エナジー系かな。後部に尻尾みたいなフレキシブルアーム1。先端にビーム砲。

…装甲が1部なくなってるな。ひょっとして開幕で狩った2機のシールドってアレ?…材質98.4%一致。間違いないわ。大胆なことするね。

形状はまんま旧時代の戦車みたいなやつが胴体で、キャタピラが撤去されてその部分から人型の脚が4本生えてる。なんか脚が曲線多めの生足っぽい造形でちょっとキモいな。この辺の意味不明な進化の仕方もUTCの理解不能なところだ。


おっと、気づかれたかな。副砲と尻尾がこっちを捉えたっぽい。システム戦闘モード起動。なんか主砲はぼうっとしてるみたいに明後日の方向を見てるな。

さっきの感じだとチャージなしのプラズマライフルとミサイルじゃ装甲抜けないね。テロリストが抜いた装甲部分と砲口か、あとはやっぱ脚かな。関節は色々と便利な機構だけど、可動域確保のためにどうしても装甲が薄くなる。

挨拶がわりにミサイル発射。どうせあと2回ぐらいしか撃てないのだ。さくっと使っちゃおう。

垂直に打ち上げられたマイクロミサイル12発が誘導に従って目標に殺到する。タレットに何発か落とされたけど残りはヒット。ダメージ軽微。タレットはいくつか潰せた。もうちょい寄るか。ベクタースラスト戦闘機動、ライフルチャージ、接近。ロック、奥側の脚の膝裏──発射。…パルスシールド?くそ、防がれた。随伴歩兵なしの戦車だ、そりゃ防御機能ぐらいあるか。


フレキシブルアーム…尻尾が回り込むようにして撃ってくる。回避、回避、あんまり速くない、回避…あ、誘導されてるなこれ。回避した先に副砲が置き撃ちしてきた。アンバウンドストライカーで軌道変更──回避。こっちも狩られるだけのウサギさんじゃないのよ、2発目来る前に潰す。着地と同時に砲口をロック、ライフル3連射、ヒット。副砲破壊。まず1つ。

火線切れたし、ここから懐に飛び込んで脚をぶった斬ろう。インパクトベクタースラスター起動、加速、目標インレンジ、レーザーブレード起動、3、2──って、うわぁ!?退避退避!アンバウンドストライカー!


…あーびっくりした。飛んだよビジター。飛んだっていうかジャンプだけど。あのキモい脚の膝関節を器用に屈伸させてから足裏のバーニア使ってジャンプしよった。蹴っ飛ばされそうだったから退避したけど、そのせいで距離を振り出しに戻された。ついでに潰した副砲を奥側にされたし。思った以上に知能が高い。


そこからしばらく泥臭い撃ち合いが続いた。機動性はこっちが上だけど、敵の装甲とパルスシールド、弾幕の前に中々決定打に持っていけない。なんとかして装甲抜けてる箇所に回り込みたいんだけどなあ。あの尻尾が思った以上に厄介だ。あいつ自体は積極的に撃ってこなくて、こっちの回避ルートを潰したり、さっきみたいに他の砲の火線に誘導してきたりする。こっちが息をついたタイミングで撃ってくるのも邪魔くさい。相手の呼吸を読むとか、機械のくせにエースパイロットみたいなことしやがって。そのくせ、本体はヒョイヒョイ逃げるから鬱陶しい。


ただまぁ、大体動きは分かった。敵は想像以上に装甲の抜けを気にしてる。逆にいうと内部にダメージさえ与えられればそこから一気に崩せる算段が高い。つまり狙うは中央の砲塔、つまり主砲だ。本体との隙間に狭いけど接合部がある。そこを狙おう。

ライフル精密射モード、目標ロック───砲塔がいきなりこっち向いた緊急回避!ベクスラアンスト他バーニアスラスタブースト全部全力使用──敵主砲発射!!やっば!!!!

砲塔がグリンって動いたぞグリンって!今までの無反応なんだったんだよ!ホラー映画か!

んでなんだよこの極太ビーム!!予兆ゼロで撃っていい火力じゃない!砲口より何倍もデカいじゃんか!これ回避間に合──右腕爆装!ライフル消失!

あ、これほっとくと本体まで連鎖爆発するやつだ!右腕ユニットごとパージ!──そんな機能ないけどこの場でプログラム書き換え!!爆発の衝撃と慣性に潰されそうで腕動かしにくい!推定負荷11G!死ぬわ!!でもやるしかない!中和モジュールとシートベルト頑張って!あと同時に姿勢制御!すっ転んだら追撃で死ぬ!バランサースラスターバーニア全力使用!右腕パージ完了!姿勢安定!ニューロリンク最高!!




……はぁ、はぁ。なんとか立て直したぞ。さすが私。

おいおい西側の岩山に綺麗なクレーター空いてるぞ…完全に貫通して向こう側の景色が見えてるよ。直撃してたらチリ一つ残らず消滅させられてたな。

しかし、右腕とライフルロスト、諸々の蓄積ダメージが結構キツイな。勝てるか、これ。


《被害甚大です。ですが、退却は推奨されません。この場で撃破して下さい》

「ふざけんなぁ!!!」

思わず声出ちゃったよ!パイロットの私よりサポートAIのほうが殺意高いってどういうことだよ!無駄にいいボイスアクター使ってんのが余計腹立つわ!!選んだのは私だが!!!


…ハァ、落ち着け。私はクールな美少女パイロット。いついかなるときも冷静な女。すぅ、はぁ、すぅ、はぁ、ふぅ。

よし、切り替え完了。

とはいえ、AIも見当外れなことを言ってるわけではない。あんなエネルギードカ食い大好き大出力ビーム撃ったんだ、しばらくまともに動けないでしょ。実際沈黙してるし。なんなら砲塔もちょっと下向いてて疲れてるように見えるし。

うっし、やるか。フレーム、もってくれよ──尻尾、お前は元気なのか。

余裕そうに体揺らしやがって。なんかセンサーアイも心なしか笑ってるように見えるな。

まぁ、お前の動きはもう分かった。ライフルはないけど、弾速の遅いグレネードランチャーでも十分だ。

アンバウンドストライカー点火、加速。グレネードランチャー残弾6。

尻尾が動いた──見えてるっての。お前は必ず正面から撃ち合おうとせず、こっちの死角に回り込んだり、他の砲塔と連携するような動きをするからな。でも今動いてんのはお前だけ。つまりこっちの死角に回り込む動き──グレネードランチャー、ノーロック、3、2,1、今。発射──命中。爆発。

ビーム砲に当ててやるつもりだったけどちょっとズレたな。爆発で本体から千切れて地面に落ちた。なんか殺虫剤かけられた虫みたいにビチビチしてる。キモッ!

今度こそビーム砲にグレネードランチャーかましてトドメをさした。あーキモかった。


んじゃ本命だあ!レーザーブレード起動!タレットが健気に迎撃してくるけど無視!

ターゲットインレンジ、左前足(?)膝裏を斬りつける。切断!

支えを失った敵が崩れ始める。もう一発、左後ろ足の膝裏を切断!

戦車野郎が地響きを立てて倒れた。本体上面が丸見えだ。距離を取って砲塔天板にむけてグレネードランチャー全弾発射。ヒット。内部貫通。大爆発。完全破壊!

っしゃあ!


《UTC完全破壊を確認。お疲れ様でした》

ホントに疲れたよ。UTCいるとか聞いてないし。おかわりにしちゃ大ボリュームすぎるよ。

武装勢力どもはどうやってこれ手に入れて、今まで抑え込んでたんだか。人間が制御できるもんじゃないぞ。人間殺すのが目的の自律兵器なんだし。

イヤな予感するなあ。

まぁそのへんは偉い人に任せて、私は帰還しようかね。想定以上の大戦果だし、ボーナスとか出るといいなあ。


─────────────────────────────────────

記録中───





「──以上が、本作戦の戦闘記録になります」




戦術課主任が資料を読み上げる声が静かに室内に響いていた。


投影された映像には、廃墟と化した軍事基地、その中央で大破した多脚型UTCの残骸、そしてその前に立つひとりの少女兵の姿が映し出されている。


「武装勢力の抵抗は予想よりも薄く、抵抗らしい抵抗を見せたのは初動の2機と、その後に現れたUTCのみ。


どうやら敵は、廃棄されたUTCの残骸を回収・解析していたようです。少なくとも、短時間ながら外部からの制御を試みた痕跡が確認されています」


「制御に成功していたとは思えんがな」


幹部のひとりが、やや皮肉めいた口調で言った。


画面には、正面からエネルギー砲を受け、右腕を吹き飛ばされながらも即時にプログラムを書き換え、機体を制御して態勢を立て直す少女の姿。


その動きは、荒削りで、直感的で、だが異様に洗練されていた。


「……パイロットはDTR-000-NAR。ノアレ」


「単独で撃破か。凄いものだな」


「はい。事前想定を大幅に上回る戦果です。


ただし、戦術AIとの連携を一部逸脱しており、プライオリティ設定を無視した行動が複数。指揮系統への即応性にも変動があります」


「映像のほうはどうかね?」


「順調に伸びています。戦闘のダイナミックさが生み出す迫力と、やはり本人のビジュアルが大きいですね」


パイロットとしてだけではなく、プロパガンダとしても優秀らしい。


会議室の空気が、わずかに緩んだ。


画面の中、ノアレは片腕を失った機体を背に、大きく伸びをしている。


軽く乱れた白金の髪、パイロットスーツ越しでも分かる均整の取れた身体。


戦闘終了後に思わず息をついた、その一瞬だけ垣間見えた素の表情。


年齢よりも幼く見えるその顔には、どこか拍子抜けしたような、それでいて満足げな笑みすら浮かんでいた。


「……パイロットしても優秀。イメージ戦略にも貢献し、忠誠心もある。いい人材じゃないか」


「映像人気も上々ですし、若い層にもアイドルのような人気があるようです。いっそ歌でも歌わせますか」


戦術課主任の大真面目な提案に、幹部は肩を竦めた。


投影された映像の一時停止。ノアレが、自分の頬をぺちぺち叩いて気合いを入れている場面だった。



「美少女としての価値しか無くなったら、そうするさ」





──記録終了。

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