追放されたのは誰だ?
俺の名はゼルス。王国の勇者パーティの一員として、長年戦いに身を投じてきた。
「ゼルス、お前はもう俺たちの仲間じゃない」
パーティのリーダーである勇者ローウェンが、冷たく言い放つ。
「……そうか。俺が足手まといってことか?」
「いや、そういうわけじゃない。お前は強いし、実力もある。だけど……これ以上は一緒にいられない」
「理由は?」
「お前がいると、俺たちが“主役”でいられないんだ」
ローウェンの言葉に、俺は思わず苦笑した。
「そうか。なら、仕方ないな」
俺はあっさりと頷いた。勇者たちは驚いた顔をしたが、それでも俺をパーティから追放する決断を変えるつもりはなさそうだ。
だが――彼らは気づいていない。
俺が、この状況を作り出した張本人だということに。
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俺は王国直属の「隠密部隊」に所属していた。役割は「国を護るために必要な処理をすること」。つまり、不要になった勇者パーティの“整理”も仕事の一つだった。
勇者ローウェンのパーティは、かつて魔王軍と戦うために組織された。しかし、魔王が滅びた今、彼らは国にとって厄介な存在になっていた。
──名声を得すぎた英雄たちは、時に国の安定を脅かす。
王は彼らを処理することを決めた。だが、暗殺するのは難しい。勇者たちは強く、正義の味方として国民の支持も厚い。ならば、どうすればいいのか。
答えは簡単だった。彼らの関係を崩壊させ、自滅させればいい。
俺は少しずつ、しかし確実に、勇者パーティの内部に亀裂を生じさせた。
まず、俺の能力を意図的に抑え、彼らを助けることをやめた。戦闘ではわざと攻撃を受け、傷つきやすい存在を演じた。
次に、勇者ローウェンを“主役”でいさせるために、彼の活躍を引き立てるような動きをした。すると、ローウェンは次第に自分の実力を過信し、俺を不要と考え始めた。
そして決定的だったのは、仲間の心を操作することだ。
俺は戦闘後に疲弊した仲間たちに、ほんの少しの「不信感」を植え付ける言葉を囁いた。
「最近、ローウェンは少し変わったな」
「リエナ、お前ばかり回復を求められてるが、大丈夫か?」
「クレイル、お前の戦術、勇者が指示を無視してることが増えてるな」
たったそれだけの言葉が、時間をかけて不信感を膨らませていった。
そして今日、彼らは俺を追放する決断をした。
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「ゼルス、本当に行くのか?」
パーティの魔導士リエナが、少し不安そうに尋ねた。俺は微笑んで頷いた。
「ああ。お前たちの未来のためにな」
「……そうか」
リエナは何かを言いたそうだったが、結局口を閉ざした。
俺が去った後、勇者パーティは崩壊するだろう。すでにお互いへの不信感は強まっている。勇者ローウェンは俺を追放したことで増長し、リーダーとしての資質を失っていく。
そして、やがて王国は彼らを処分する。
勇者パーティの解散、それが俺の任務だったのだから。
俺は一人、王都へ戻る。
報告を終えたら、次の任務が待っている。今度は、どんな英雄を消せばいいのか。
俺はただ、それを淡々と遂行するだけだった。