表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

追放されたのは誰だ?

作者: 篠崎圭介

 俺の名はゼルス。王国の勇者パーティの一員として、長年戦いに身を投じてきた。


「ゼルス、お前はもう俺たちの仲間じゃない」


 パーティのリーダーである勇者ローウェンが、冷たく言い放つ。


「……そうか。俺が足手まといってことか?」


「いや、そういうわけじゃない。お前は強いし、実力もある。だけど……これ以上は一緒にいられない」


「理由は?」


「お前がいると、俺たちが“主役”でいられないんだ」


 ローウェンの言葉に、俺は思わず苦笑した。


「そうか。なら、仕方ないな」


 俺はあっさりと頷いた。勇者たちは驚いた顔をしたが、それでも俺をパーティから追放する決断を変えるつもりはなさそうだ。


 だが――彼らは気づいていない。


 俺が、この状況を作り出した張本人だということに。


 ーーーー。


 俺は王国直属の「隠密部隊」に所属していた。役割は「国を護るために必要な処理をすること」。つまり、不要になった勇者パーティの“整理”も仕事の一つだった。


 勇者ローウェンのパーティは、かつて魔王軍と戦うために組織された。しかし、魔王が滅びた今、彼らは国にとって厄介な存在になっていた。


 ──名声を得すぎた英雄たちは、時に国の安定を脅かす。


 王は彼らを処理することを決めた。だが、暗殺するのは難しい。勇者たちは強く、正義の味方として国民の支持も厚い。ならば、どうすればいいのか。


 答えは簡単だった。彼らの関係を崩壊させ、自滅させればいい。


 俺は少しずつ、しかし確実に、勇者パーティの内部に亀裂を生じさせた。


 まず、俺の能力を意図的に抑え、彼らを助けることをやめた。戦闘ではわざと攻撃を受け、傷つきやすい存在を演じた。


 次に、勇者ローウェンを“主役”でいさせるために、彼の活躍を引き立てるような動きをした。すると、ローウェンは次第に自分の実力を過信し、俺を不要と考え始めた。


 そして決定的だったのは、仲間の心を操作することだ。


 俺は戦闘後に疲弊した仲間たちに、ほんの少しの「不信感」を植え付ける言葉を囁いた。


「最近、ローウェンは少し変わったな」


「リエナ、お前ばかり回復を求められてるが、大丈夫か?」


「クレイル、お前の戦術、勇者が指示を無視してることが増えてるな」


 たったそれだけの言葉が、時間をかけて不信感を膨らませていった。


 そして今日、彼らは俺を追放する決断をした。


 ーーーー。


「ゼルス、本当に行くのか?」


 パーティの魔導士リエナが、少し不安そうに尋ねた。俺は微笑んで頷いた。


「ああ。お前たちの未来のためにな」


「……そうか」


 リエナは何かを言いたそうだったが、結局口を閉ざした。


 俺が去った後、勇者パーティは崩壊するだろう。すでにお互いへの不信感は強まっている。勇者ローウェンは俺を追放したことで増長し、リーダーとしての資質を失っていく。


 そして、やがて王国は彼らを処分する。


 勇者パーティの解散、それが俺の任務だったのだから。


 俺は一人、王都へ戻る。


 報告を終えたら、次の任務が待っている。今度は、どんな英雄を消せばいいのか。


 俺はただ、それを淡々と遂行するだけだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ