田中健介の憂鬱
人物紹介
藤島啓太:この物語の主人公、高校生で勉強とゲーム一辺倒で世間一般が言うような青春をしているかどうか疑問符が打たれるような生活を送ってきた。
小林ななみ:藤島啓太の隣の席のクラスメート。
田中健介:藤島啓太の数少ない友達の1人。
吉川雅史:藤島啓太のクラスメート。
前田康二:藤島啓太のクラスメート。吉川雅史と仲が良い。
藤島菜々:藤島啓太の妹、中学生。
佐藤幸乃:藤島啓太のクラスメート、前田と吉川と江嶋でよくつるんでいる。
江嶋沙耶香:藤島啓太のクラスメート。
中島敦:数学教師、ガタイが良い。
俺はこのままでいいのか?
俺はずっとここにいるのか?いや、ここにいれるのだろうか?
そう思い垢抜けをし、会話を磨き、考え方も変え付き合う人間を変えた。
昔とは違って女の子とも話すようになった。前にも話すことはあったが、いつも趣味ばかりの話でお互いの人間性に目を向けることはほとんどなかった。あっても感情的なコミュニケーションはとってこなかった。
同じ人間でもここまで違うのか。もちろん趣味だのいろんな話をするが、特に自分の人間性も見られる。なんだか値踏みをされるようで最初は怖かったが、相手に認めてもらえるとやはり嬉しいものだ。
気になる人だってできた。江嶋沙耶香だ。
沙耶香はおとなしめだが、嬉しいや楽しいなどの感情表現が豊かで、笑顔がとても愛らしい。気配りも本当に上手でとても魅力的な人だ。
俺は前より幸せだと思う。だが、これでいいのだろうか?
俺には置いてきぼりにした人がいる。藤島啓太、かつて1番仲が良かった人物だ。
「啓太!今回の模試どうだった?」
彼の肩を揺さぶる。数秒の間を置き、
「ああ田中くん、数学と物理が良かったかな。国語は相変わらずさっぱりだったけど。」
苗字で呼ばれていることに違和感を覚える。相変わらず君付けだが、とても壁を感じる。
パソコンに映る成績表を見ると、
「はぁ!?偏差値83!?2科目同じ偏差値とかバケモン…。」
相変わらず彼はすごい。性格は優しくて頭もいい。嘘も悪口も言わない誠実な人だ。小っ恥ずかしくて言えないが、尊敬している。
「いやぁ、でもほら、国語とか偏差値45だし地理も負けた。」
彼は国語が苦手だ。これは性格というよりも経験のせいだと僕は考える。今回の国語では小説が出題された。しかも心理描写を読み取ることに重きを置いた問題だ。
彼は現実でも相手の心理を探ることはあまり得意ではない。
「そうだけどさ、いや、それもう謙遜だって。」
「ご、ごめん。田中くん。」
「いやぁ、そんな気負わなくていいけどもうちょい自信持ったっていいと思うぜ。」
全く傲慢と言っても差し支えないが、なるべくやんわり、だが伝わるようにコミュニケーションをする相手として感じたことを伝え、ちょっとでも彼のためになってほしい。勝手な罪の意識かもしれない。きっと誰が見たって独りよがりだ。
でも俺にはこれしか思いつかない。
「康二、俺流石に昼休みにやつはやりすぎだと思う。」
放課後俺は康二と一緒に帰った。
今日は週に1度の部活のオフなのだ。前田はバドミントン、俺は卓球部だが偶然重なっている。
「…気に食わないんだよ。いろいろ。」
電車と踏切の騒音が過ぎ去った後、ポツリとつぶやいた。
「別に気に食わない奴なんていっぱいいるでしょ?どうしてそんなムキになるのさ?」
これには絶対訳がある。だが、彼は何も語ることはなかった。
「康二くん?ああ、啓太くんのことちょっと苦手そうだよね。」
少し息苦しそうに言葉を紡ぐのは沙耶香だ。
康二や幸乃らとつるんではいるが、その反面繊細な心の持ち主だ。
そのためか彼女は人のことをよく観察する癖があり、康二はもちろん啓太のことさえも人となりを掴んでいる。
「でも不思議だよね。2人とも頑張り屋さんでちょっと不器用なところも似てると思うんだけどね。私にはちょっと分からないかな…ごめんね。」
髪の毛先を摘みながら申し訳なさそうに視線を外す。
「いやいや!ありがとう!にしても沙耶香すごいな。啓太とあまり関わってる印象ないけどこんなに知ってるのにびっくりした。」
「中学の頃書道教室に通ってたんだけど、啓太くんと同じとこでさ。初めて書く文字はなんだかすごい荒削りって感じなんだけど、頑張って、頑張って最後はすごい上手に書いてたんだ。だからそんな印象を持ってる。」
ちょっと聞いてて燻るものがある。まさか啓太に勉強以外で嫉妬するなんて。
ふと啓太と仲良くしていた時期、啓太と帰っていると沙耶香がずっと前を歩いていたことを思い出した。
すると、
「何話してるの〜?」
幸乃が会話の輪に入ってきた。
「あ、いや、なんでもないよ。えっと。」
「なんで康二って啓太に当たりきついのかなっていう話。」
沙耶香にがっかりだという表情をされた。
「大丈夫だよさや、そんな顔しなくて。うちもなんとなく気づいてたし。」
まだ何か言いたげな視線をこちらに送るが、口をつぐむ。
「トイレ行ってくる…!」
不満げに口を尖らせて行ってしまった。
「あ〜あ、行っちゃた。」
ここで幸乃の目つきが変わる。
「で?さやとどうなの?」
なぜ気づかれているんだろう?
よもやよもやだ。
読んでくださりありがとうございます。
まさか第2話で語り部変わるなんて僕も予想外でした。恐らく第1話でタコ殴りにされた藤島に同情したんだと思います。急な展開でびっくりされたかもしれませんがここまで読んでいただけて嬉しいです。では、次回でまた会いましょう。