泥濘に照る黎明
人物紹介
藤島啓太:この物語の主人公、高校生で勉強とゲーム一辺倒で世間一般が言うような青春をしているかどうか疑問符が打たれるような生活を送ってきた。
小林ななみ:藤島啓太の隣の席のクラスメート。
田中健介:藤島啓太の数少ない友達の1人。
吉川雅史:藤島啓太のクラスメート。
前田康二:藤島啓太のクラスメート。吉川雅史と仲が良い。
藤島菜々:藤島啓太の妹、中学生。
佐藤幸乃:藤島啓太のクラスメート、前田と吉川と江嶋でよくつるんでいる。
江嶋沙耶香:藤島啓太のクラスメート。
中島敦:数学教師、ガタイが良い。
気ままに書いているので話が寄り道します。暖かい目で見守ってもらえたら幸いです。
僕に春が訪れた。
今までどうしてこんなに素晴らしいものに気づけなかったんだろうとつくづく思う。
女なんてただキャーキャーうるさいだけだと思っていたのに。
あいも変わらず一軍の女子たちはうるさい、それにまとわりつく男どももうるさい。だが、不思議とイライラしない。
執拗に教室を見渡す、今日彼女は来るのだろうか?
朝の会まであと10分、これからラッシュが来るのだが心が落ち着かない。
彼女は紫を基調としたヘッドフォンをつけている、漆黒のような髪に雪のような白い肌、そして寝不足なのかやや腫れぼったい目をしている。
少し背が低めだが、かなりイカついヘッドフォンと制服の上に紫のパーカーを羽織っているためわかりやすい。
不審さを隠すためにラノベを読んではいるが、全く内容が頭に入ってこない。そんなこんなで2ページしか進めていないうちに来た。
「お、おはよう、小林さん。」
「ん。」
そう言って小林さんは机に突っ伏す。実は隣の席なのだ。
小林さんは少しだらしない。バッグを無造作に置き倒れてしまったにも関わらず寝ている。僕は何も言わずにバッグを置き直す。
朝の会での点呼でやっと目を覚ました。寝癖が可愛い。
バッグの中から小林さんは教科書などを取り出すが、感謝の言葉はない。
今日は機嫌がいいわけではないようだ。
「今日も推しが尊いわ〜、東京でライブあるから今週行くんだよね。」
「そ、そうなんだ。いいね。オムレツさん最近僕も聴いてるんだ。」
「あ、そうなん?でさ、このグッズとか絶対買いたいんだよね。」
「そのアクリルバッジいいね、このお皿もよくない?」
「あ〜待って、やっぱこのバッジいいわ!絶対買う!」
「結構高いね…大丈夫なの?」
「多分、てかさ、この前の新曲よくない?めっちゃ刺さったわ〜」
「え?あ、ああ。確かに、すごい澄んだ曲でよかったよね。あ、そうだ!おすすめしたい曲があってさ、この陽だまりって曲なんだけど。」
「あーあとで聴いとく、でさこの曲のMVに出てくる男の子が本当にかっこよくて!」
いつものように他愛もない会話が続いていく。
小林さんはいつも好きなものについてひたすら語る。僕の話はあまり聞いていない気がするが、頬を紅潮させて目を輝かせながら言葉を連ねる姿に心がくすぐられる。
僕はかつて女子との関わりは皆無に等しかった。むしろ参考書やゲームに向き合っていた時間が、親を含め全人類と関わっていた時間を凌駕していたほどだ。
「この金髪の子すごいイケメンなのはもちろんだけど設定がetc・・・」
「おい!お前ら!いつまでくっちゃべってんだ!?」
はっと前を向くと筋骨隆々の中島先生がいた。
「すいません!」
あまり大きな声を出すことがないので少し声が裏返ってしまった。
「もう時間過ぎてたじゃん。しっかりしてよ」
僕が悪かったのか…。
「啓太!今回の模試どうだった?」
僕の肩を叩くのは田中だった。ほぼ一方的だがライバル関係として鎬を削りあっていると勝手に思われてる仲のクラスメートだ。
「ああ田中くん、数学と物理が良かったかな。国語は相変わらずさっぱりだったけど。」
パソコンに映る成績表を見せると、
「はぁ!?偏差値83!?2科目同じ偏差値とかバケモン…。」
「いやぁ、でもほら、国語とか偏差値45だし地理も負けた。」
「そうだけどさ、いや、それもう謙遜だって。」
「ご、ごめん。田中くん。」
「いやぁ、そんな気負わなくていいけどもうちょい自信持ったっていいと思うぜ。」
「そっか。」
俯いて下がってしまったメガネを直す。
すると目の前には田中の友達、前田と吉川が立っていた。
一軍の2人、僕には程遠い存在だ。田中も最近彼らとよくつるんでいて壁を感じるようになってしまった。ただでさえ交友関係が狭いのに。
「そろそろ勉強しなきゃな〜。流石に国語だけじゃシャばくなってきたわ。」
吉川は頭を掻きながら嘆く。
「吉川くんってそういえば理系だったよね。いいな、国語できるようになりたい。」
「うん?いや、藤島理系科目すごいできるじゃん。」
「あ、ごめん、いや、ただ、国語ってどうやって勉強すればいいかわからないから悩んでて。」
「え?東江大A判定じゃん。あそこならできなくてもいいでしょ。」
痛いところを突かれた。こちらとしては早くこの注目の嵐から抜け出したいだけなのに。
前田はずっと訝しげに自分を見つめている。気まずい。
しかしここで前田は口を開け、
「やっぱ、お前気に食わんわ。」
突拍子もない出来事に僕は頭が真っ白になった。
「え?前田くんどうして?なんで?」
「色々だ。色々。」
全く意味がわからない。
「おい前田。流石にそれは酷いぞ。」
「康二、ないぞそれは。」
しかし前田の目は少しおかしい。それは嫌悪はもちろん入っているだろうが、嫌悪だけでは説明できない何かが隠れているような気がした。
「ちっ。」
彼は虫の居所が悪そうに帰っていった。
「ごめんな啓太。前田は本当はいいやつなんだ。不器用なだけなんだ。本当にごめんね。」
「いいんだよ。」
全く意味がわからん。確かに一軍の人間からしたら僕はゴミに見えるだろう。
彼らのように顔は良くないし身長も高いとは言えない。髪だってセットなんかしたことがない。中学校からずっとこのままだ。
そんなことはどうだっていい。ずっとこのスタンスで17年間生きてきたんだ。
すると隣の席で座っている小林さんが声をかけてきた。
「ねぇ、啓太くんって勉強できるんでしょ?」
「いや、そんなことないよ。ちょっとだけだよ。」
「はぁ?まあいいや、ななみに勉強教えてよ。」
え?まじ?。
「放課後とかちょっと教えてほしいな〜。」
え?何?家に来るってこと?え?え?
「うち本当に数学無理でさ〜。助けてほしいな〜。」
千載一遇のチャンス、やるしかない。
放課後僕らが行ったのは喫茶店だった。
終始小林さんはスマホを手から離さなかった。3時間ほどテーブル席を占領していたのだが、進んだのは教科書で2ページだった。しかも復習で。
小林さんの提案がなければ絶対買うことがなかったであろうコーヒーは美味しくなかった。
「やっぱ数学って難しいね〜。全然進まなかった〜!」
「まあ、まあ、難しい単元だからね、しょうがないしょうがない。」
もうとっくにカラスたちは巣に帰り、街灯が申し訳程度に辺りの道を照らしていた。
国道を下り駅を越えお馴染みの神社を通り過ぎる。側から見たらカップルに見えるのだろうか。だが僕では釣り合わないのかもしれない。
実は小林さんとは家が近所なのだ。
「あ!私ここ左だから!」
どうやらここでお別れのよう。とてつもなく疲れたような、しかしどこか名残惜しい気持ちもある。
小林さんは僕に向き直ると、
「啓太くんありがとう!また教えてほしいな!すっごい助かった!」
暖かくなるような、浮き足立つような感覚が全身を走る。
「じゃあね!また明日!」
普段は見れない屈託のない笑顔だった。やっとの思いで手を振り彼女を送り出す。フラッシュバックのように別れの数十秒が意識に濁流のように流れ込む。
まるで今自分が家に向かっているのか分からないような、霧になってしまったのかもしれない。とてつもない反動をまともに食らっていた。
「けーちゃんさっき誰と一緒にいたの?」
玄関を開けた瞬間妹がいた。
「え?なんのこと?」
「普通に紫のパーカー着た女の人といたじゃん。」
見られてたのか。
「ついにけーちゃんにも彼女ができたんだ〜。やるじゃ〜ん」
「は?うるせえな」
バッグを持って菜々の横を通ろうとするが、
「女の子と一緒に歩くならもうちょっとおしゃれしたほうがいいんじゃない?」
「はあ!?だからうるさいって…」
「女の子だったら皆んな横を歩く男の子はかっこいい人がいいなって思ってるよ?
けーちゃん髪型変えれば絶対かっこよくなるよ!」
「いつになくノリノリだなお前。」
「どうするの?するの?しないの?」
人生で初めてワックスを買った。
近くのドラッグストアで売ってた600円ぐらいのもの。
ちょうど来週髪を切ろうと思っていたので少し遊ぶ程度には髪が残っていた。
ネットでメンズの髪型を調べるが、顔面の暴力。皆んなイケメンすぎる。自分がやっても似合わない気がしてきた。
「髪型なんて顔のいいやつが遊べばいいわけであって、俺がやったって別に…」
「勝手今更何言ってんの。とにかく、うちがやる気あるうちにやっちゃうよ!
この人の輪郭と似ているからこれにしてみよう。」
こうして万年無造作ヘアーの僕の頭に分け目というものができた
所謂七三分け。
「ちょっと髪の毛足りない気がするけど、かっこいいよ!」
鏡に映った自分をまじまじと見る。
まあ、ちょっとかっこいいかな?
明日も小林さんときっと教室で会う。その時彼女の心を動かせられるのだろうか。
淡い期待を胸にワックスが塗りたくられた手を洗面台で洗った。
初回どうでしたでしょうか。これから主人公がさらに変化していくので、みんなで見守りましょう!