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「おはよう」
少しして如月信くんがいつものように久美子とさゆりのいるところにやってきた。
「おはよう、信くん」久美子が言う。
「……おはよう」と本を読みながらさゆりが言う。
「おう。おはよう」信くんはそう言ってから、「ふぁ〜」と背伸びをしながら大きなあくびをした。
信くんはいつも通りの信くんだった。
背中に黒いランドセルを背負い、青色と白色のストライプのシャツを着て、黒のハーフパンツにスニーカー。ランドセルにはサッカーボールを網に入れて下げるようにして持ち歩いている。
……うん。間違いなくいつもの信くんだ。
「ねえ、信くん信くん」と久美子は言って、信くんに今朝の自分の身に起きた『違和感』の話をした。
すると信くんは「家に誰もいない? うーん。そんなのたまたま留守にしてたんじゃないの? 俺は別に、今朝変な感じがしたってことはなかったけどな」と髪の毛をかきながら、そう言った。
「関谷はどうなんだよ。なにか変なことでもあったのか?」信くんがいう。
「……ない」さゆりは答える。
「じゃあ、三島の勘違いだろ? 今日帰ったら誰かに聞いてみなよ。今朝どうして誰も家にいなかったのってさ」と言って信くんはバス停(という名前の小屋)の中にある久美子とさゆりが座っている木のベンチに腰を下ろした。
「うーん。そうなのかな? 絶対変だと思ったんだけどな〜」久美子は言う。
そんなことをしていると、遠くから土煙をあげて、古い一台のバスが三人の待っているバス停の前までやってきた。
この田舎にある〇〇町に小学生は三人しかいない。
つまり、三島久美子と関谷さゆりと如月信くんの三人だけということだ。
この今、バス停に近づいてくる古いオンボロバスも、この三人のためだけに毎朝、走ってくれている。もちろん、帰りも同じだ。(ただ、朝、夕一回しかバスはこないけど)自分たちのためだけに毎朝バスを運転してくれるバスの運転手さんに(すごく優しい顔をしたおじさんだった)久美子はすごく感謝をしていた。
バスがブレーキ音を立ててバス停の前に止まる。
三人はいつものように「おはようございます」と運転手さんに挨拶をしながら、そのオンボロバスに順番に乗り込んでいく。
そこで、三人目にバスに乗り込んだ久美子は、その『違和感』に気がついた。