2
赤い傘を手にとって実家を出て、暗い曇り空の下を歩きながら久美子は考える。
それはこの不思議な違和感の正体だった。
……でも、いくら考えてもその違和感の正体を突き止めることはやっぱりできなかった。(なんだかここが自分のよく知っている町であるようで、ないようなそんな奇妙で不思議な感じがするだけだった)
みんなとの待ち合わせの場所についと(そこは赤い頭巾をかぶったお地蔵さんのある木造のバス停だった)そこには関谷さゆりちゃんがいた。
「さゆりちゃん。おはよう」久美子は言う。
「……おはよう」いつものように、小さな声でぶっきらぼうな態度でさゆりは言った。
関谷さゆりはなにかの本を読んでいた。(さゆりちゃんは本が大好きなのだ)
さゆりは本から顔を上げて、久美子を見る。
そのとき、かすかにさゆりのツインテールの髪が空中で揺れた。
その美しい動きに、久美子はいつものように、その目を奪われた。(久美子はさゆりの美しい髪に憧れを抱いていた。久美子の髪も綺麗だけど、さゆりの髪はもっともっとさらさらしていて綺麗だった)
「でもよかった。ほっとした」久美子は言った。
「どうして?」さゆりが言う。
「うん。あのね、なんだか今朝すごく変な感じだったの。家に誰もいないし、町にも誰もいないし、なんだかこの場所は私の知っているいつもの町じゃないような気がして、すごく不安だったの」
「不安?」
「うん。不安。でも、ちゃんとさゆりちゃんがいてくれて、安心した。ここはやっぱり私のよく知ってる〇〇県『〇〇町』の中だよね」と久美子は言った。
でも、なぜかさゆりはそんな久美子に「そうだよ」と返事をしなかった。さゆりは久美子の言葉を聞いて、本を読むことをやめて、なにかをじっと考え始めた。
「……さゆりちゃん? どうかしたの?」
そんな久美子の言葉にも関谷さゆりは、反応を返さなかった。