2.物理学者は出会う
次に目を覚ました時、外は暗かった。真夜中のようだが、すでにたくさん寝てしまっているからもう一度寝ようとしても体が寝てくれない。
「ふむ…」
とりあえず寝れないのなら現状を整理しようと寝起きの頭を働かせる。
前世…、日本にいた時のことは死因以外を完璧に思い出すことができる。俺に嫁がいたことも思い出せる。吉田美穂、名前も忘れることなく覚えている。うぅ…嫁にもう一度会いたくなってきたが、今は既に不可能なことだ。現状を受け入れつつ、ベットの横にある電球をつける。
「すごいな…」
電球をつけただけで何が凄いのかと疑問に思うかもしれない。俺が今電球をつけるためにした動作はスイッチをオンにするのではなく、体にある魔力を電球に渡したのだ。
理解しただろうか?この世界は物理ではなく、魔法で全てが成り立っている世界なのだ。物理が魔法を否定するのであれば、魔法で成り立つこの世界は物理を否定する…のかもしれない。前世の記憶を持った今の俺は好奇心旺盛なただの男児だ。既に魔法について詳しく知りたい、物理とどう同じでどう違うのかを事細かに理解したい衝動に駆られている。
「ん…」
と、ここで隣から声が聞こえてきた。
「誰…?」
「あー」
寝起きで頭が回っていなかったり、魔法のことしか考えていなかったせいで周りをよく見ていなかった。前世の記憶を引き継いだせいで、考え事をしていると物理的視野が狭くなる癖も引き継ぐとは…。隣に俺と同じくらいの歳であろう女の子が寝ていた。
「僕はルイス・パーカー、起こしちゃったね…。ごめんね」
「ううん、大丈夫。私もいっぱい寝ちゃってて、普通に起きちゃったの」
「それならよかった」
「えへへ。私はメティス・ポインセチア、ママとパパにメティって呼ばれてるの」
メティスは綺麗な水色の髪を持つ可愛らしい少女だった。顔もかなり整っているように見えるし、5歳からこうなら将来はもっと綺麗になるだろうな…。そう思うほどには可愛い少女だった。
「えっと…そんなに見つめられると照れちゃう…」
「あ、ごめんね」
「ふふ、そんな謝んなくてもいいよ。あ…」
「どうしたの?」
急に何かを思い出したのか、顎に人差し指を当て何かを考える素振りをした。
「私初めて会う人にはスミレって名乗ってたのに…寝起きだからって忘れてた…」
「…大丈夫、うん。大丈夫」
メティスはお茶目な子なのだろう。ポインセチアという花絡みでスミレと名乗るとはセンスもあるようだ。
「ふふ。ねね、私のことメティって呼んでいいからルイって呼んでもいい?」
「え、まぁいいけど…」
「やった!嬉しい!私の最初のお友達だ!」
ニコニコ顔で喜んでくれているので俺も嬉しくなってしまう。
そうか、俺たちの住んでいるヨヨイ村は子供が少ないから同い年の友達というのは特別なのか。そもそも学校も通わない、公園という子供が決まって集まるような場所もないとなると必然的に親と外で遊ぶことになる。とはいえ、友達が作れない環境には問題があるとは思うが。
「ねぇねぇ、ルイはなんの食べ物が好き?」
「食べ物?」
「うん、私はお肉が好きなの!一緒?」
「一緒だよ、お肉美味しいよね」
「やった!じゃあ、じゃあ、お花は何が好き?」
「うーん…」
「私はね、全部好き!」
「綺麗だもんね」
「えへへ〜、あとね!私花の魔法使えるんだよ!」
「花の魔法?」
「えっとね、見てて」
そう言うとメティは近くにあった花瓶の花を持って俺の方に向けてきた。小さく綺麗な黄色の花だったが茎が萎れ、少し元気がなく枯れそうだった。
「これをね!えいっ!」
掛け声を出した瞬間に花は元気を戻し、先程とは打って変わって茎がピンっと天井に向かって垂直になった。
「すごい!何やったの?」
「花に魔法をかけたの、元気になれーって」
「すごいね、僕もできるかな?」
「できるよ、私ママに教えてもらってすぐできたもん」
「やってみるね!」
枯れそうな花がそう何本もあるわけではないので、少しだけ他より元気のなさそうな花を花瓶から取る。そして元気になるように念じる。
「できてるよ!」
「本当だ…」
電球に魔力を渡すように、花に魔力を渡したのだろう。憶測だが、この世界の生命力というものは魔力とイコールで繋がっているのかもしれない。いや、調べていないしこの3年間魔法ではなく剣技についてばっかりやっていたのだ。なんとなく剣ってかっこいいと思っていたからだけど、今は前世の自分も混ざっているため魔法が魅力的だ。明日から魔法について学ぼうかな…。
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