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誰か付いて来ているなとは思っていたが、それが行動に移されるとは七割がた思っていなかった。久しぶりだった。路地を横切ろうとした瞬間、身体ごと掴まれ、路地の方に追いやられる。何度か経験があったが、抵抗するだけ無駄である。力の差は、路地に追いやられた時点で歴然としているからだった。
何も考えるな。何も感じるな。気づいたら終わってるから。
あとは身を任せるだけ。
身を任せるだけ。
身を任せるだけ。
――汚い路地の壁に背を預け、しゃがむ有紗に、男もしゃがんだ。「いいよね?」目線が口元に移り、ゆっくりと近づいてくる。
「べ、別に――」
気づけば、有紗は男の頬を張っていた。
「別に、あんたが性欲持っていることに何ら嫌悪感はないわよ。私がイラつくのは、それが恥ずかしいことだとか隠そうと思ってるその偏屈さだって。街中でナンパみたく誘いなさいよ。路地とかホテルなんか行かないでそっちですればいいじゃない。公衆の面前で裸になればいいじゃない。あんたがそうするなら私もするよ。どうして……あなたたちはいつも自分ばっかり。どんな機械だって物だってそうでしょう。使用方法を間違えれば本来の効果を発揮しない。あなたたちが使い方を間違えるから、奇怪は、部品が傷ついて、錆びて、ぼろぼろになっていくんだよ――」
なんで泣いてんのよ私……。有紗は立ち上がって路地から出ようとする。男は追ってこない。でもそれどころじゃない。なんで泣いてんの。馬鹿じゃないの。泣いて何か解決するわけ? そんなに弱かったっけ、私って。いろんなものに蓋をして、仕方ないって割り切って、そういうものだって決めて、毎日毎日、毎日毎日今日まで生きてきたじゃん。全部崩れる。泡になる。どうして。私は強くない。ずっと弱いまま生きて行かなきゃ――。
有紗は咄嗟に振り返った。
路地には誰もいなくなっていた。
首を少し傾ける。誰もいない路地をじっと眺めている。
頭の中でそいつの声が、ありさ、と呼んだ気がした。




