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日が暮れる。島中を歩き回ったが、目ぼしい人物は見当たらなかった。そもそもどういう人が目ぼしいのかわかっていないのだから当然のことだろう。
馬鹿らしく思えてくる。初めから無理なことだとわかっていたのに。せとのおばばが船を出してくれたからよかったものの、一人で泳いで向かっていたら島にたどり着けたかもわからない。
「見切り発車なんだよなあ」
いつも。
何か感じたらいったん考える!
前に言われた気がする……あんたはいつも感情と行動が同時なの。悪いことじゃないけど、少し考えてからでも遅くないから。
わかってよ。私の友達はあなたなの。あの子は私の友達じゃない。勿論可哀想だとは思うけどね、あなたが心配なの。普通だよね?
正しいよ。心配してくれるのはすごくうれしい。でも、今行かないと、明日も、明後日も、その次の日も、ずーーっと、それから迷い続けると思うんだ。
今やっと、あんたが馬鹿真面目って呼ばれる意味が分かったわ。すごく真面目って意味で解釈してたけど、真面目過ぎると馬鹿になっちゃうんだね。あんた馬鹿だよ……。
だよなあ、と有紗は天を見上げる。
おっ、満月。
綺麗だった。風が気持ちいい。裸足から伝わる砂浜の温かさ。服を着ていては味わえない全身を撫でるような優しい風。
風が音を運んでくる。香しい匂いに雑味はない。舌の上が潤う。砂浜と森の境目のあたりから端的な人の声が聞こえてくる。森は森でいいけど、砂浜に出てすればいいのに。
本島に戻って暮らしていたことで忘れかけていたこの島独特の雰囲気を感じる。何もかもが自然だった。風も、音も、人も、行いも。何か意図的に行われている様子はなく、それが当然のように、犬が尻尾を振るとか、猫が毛づくろいするとか、兎が足元を駆け回るとか、人間にとって、それ、が自然に映る。
いやらしさがない。卑猥にとれない。どうしていやらしくしたのか。どうして卑猥という言葉を生んだのか。生き心地、時代、環境、その時代を生きた人たち、もっと言えば最初から、人間が生まれたそのときから、その状況がすべて孕んで今にまで続いている。
でも一つだけ。
名前。
これはあってもいいのではないかとふと思う。
波打ち際を歩く影。俯き、とぼとぼと。この島の人間にしては珍しい。何か考えている。何かに迷っている。決めあぐねている。多分に。多分。有紗の目に不自然に映る。映ったから。海も、水平線も、月も、空も、砂も、森も、声も、風も、音も、こんなに自然に溶け込んでいるのに、その影だけが、景色の中で掠れている。
感じたときには、もう近寄り始めていた。
「なーにしてるの」
私が自然にしてあげようと思う。




