7,∞の10パーセントとは。
その後はとくにモンスターと遭遇することはなく、第3層に突入。
「志廼くん。ここから、よりモンスターの脅威は増すわ。あたしから離れないで」
ぼけっとしていたので、なんで『くん』付け?と疑問に思った。
そうそう『男の子』を偽装しているんだったと、思い出す。
しかし私服のジャージ姿だけで、『男装成功』って、わたしの女心が地味に傷つ、かないのが良くないぞ。
「心してかかるよ」
やがてオーガの一団と遭遇。
視界内で確認できた限りで、棍棒や戦斧を装備したオーガが、四体。
それぞれのレベルが右個体から、37、38、35、31。
対する二奈さんはただ一人、レベルは38。
これはいきなり厳しいバトルになるのでは?
というわたしの心配を読んだかのように、二奈さんが余裕の笑みを浮かべて。
「心配しないで、志廼くん。確かにレベルだけ見たら不利に思えるかも。けど魔法やスキルがあるため、同じレベルならば、攻略者のほうが有利なのよ。こんなふうにね。火魔法〈猛火の矢〉!」
二奈さんの左手から、まさしく猛火で構築された矢が飛び、レベル31のオーガを突き刺す。火達磨にしてしまう。
パラディンというジョブ、剣士の親戚かと思ったけど、魔法も使えるんだね。
「凄いね、二奈さん。連射していこう!」
「……あいにく、〈猛火の矢〉はMP消費が激しいのよ。パラディンは純粋な魔法職ではないから、MP数値も少ないし。だから温存しないと。けど、見て。一体が燃えだしたことで、敵のオーガたちは乱れ出している」
確かに、仲間が火達磨になって、慌てふためいている。
意外と気が小さいね、オーガ。
「畳みかけるわ!」
燃える長剣を構え、駆けだす二奈さん。
視界内情報によると、剣身の炎はただの火炎ではなく、〈聖なる火〉というもの。剣の付与スキルらしい。
モンスター全般に効力があるが、とくにアンデッド系には抜群なのだとか。オーガはアンデッドじゃないけど。
レベル37のオーガを一刀両断。
その勢いで、レベル35も仕留める。
だが最後のレベル38個体が、二奈さんに棍棒を振り下ろす。
「〈意志の盾〉!」
エネルギー盾のようなものが出現し、棍棒から二奈さんを守る。
ははぁ。防御系のスキルだね。
棍棒を弾かれて体勢を崩したオーガに、二奈さんは斬撃を叩きこむ。
四体のオーガを、秒殺。
二奈さん。なんでダイアウルフの群れなんかに足元をすくわれていたのか分からない、この強さ。
感心していたら、少し高い位置に、もう一体のオーガが潜んでいるのが見えた。
二奈さんは気づいていない様子。
この隠れオーガ、弓矢を装備。いままさに、矢で射貫こうと二奈さんを狙っている。
二奈さんに注意を呼び掛けても、これは間に合わなさそう。
わたしの位置からだと、直線距離で35メートル。より間に合わないぞ。
なんたって〈竜殺しのドリル・ドライバー〉の弱点は、遠距離攻撃ができないこと。
弓のオーガを撃破するには、あの場まで行かないとだけど。
わたしの移動速度、AGI 2だしなぁ。
そういば、スキルスロットに唯一はめ込んであるスキル。
〈突撃〉。
そのスキル効果は、『AGI(素早さ)の数値を、装備状態含めたATK(攻撃力)の数値の10パーセント分上昇させる』。
『装備状態含めた』ということは、〈竜殺しのドリル・ドライバー〉のATK∞で計算できるわけだね。
ふむ。
∞(無限)の10パーセントの素早さを得ることができる。
……∞の10パーセント?
それって、やっぱり∞なんじゃないの????
じゃ、試してみようか。
弓のオーガを目標にして、〈突撃〉スキル発動。