31,アヘ顔を拾う。
芦ノ湖ダンジョンの最深部にて。
コク子は、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
コク子とは、ダンジョン管理の女児である。地球が生まれるより前から生きているらしいけど、悩みは尽きないよね。
「ダンジョンを経由して、なんじゃと? どこに行く?」
と聞いてきたので、わたしは再度答える。
「帝政ウッラル国。そこの独裁大統領をブッ殺しにいく。なぜかって? それはヒマだから……違った。物価高騰を止めるため……これも違った。世界平和のため」
「おぬしは、本当に小学三年生のような思考力で生きておるのじゃなぁ~。感心してしまう」
「で、ウッラル国のダンジョンに空間転移ゲートを開いてくれるんだよね? できるだけ独裁大統領の住まいの近くがいいよね。殺すだけ殺して、あとは帰りに観光して帰る。だって週明けからまた学校だしねー。わたし、こう見えても無遅刻無欠席」
「…………おぬしが、なんじゃと? ええぃ。そんなことより、ウッラルはダメじゃ。お主、この国がいまやすっかり魔境と化しているのを知っているのか? 貴様が『殺す』『殺す』と軽く言っている独裁大統領は、貴様と同じく、ダンジョン内ステータスを維持したまま、地上で生活しているのじゃぞ」
「わたしには、このSSRアイテム〈竜殺しのドリルドライバー〉があるからね」
しかしコク子はぞっとした様子で、
「あの独裁大統領が、SSRランクの格闘スキル〈悪鬼羅刹柔道〉を身につけている、としてもか? 噂では、奴はこの地球さえ背負い投げできるという…………わらわはそんな化け物と関わりたくないのじゃ!」
「そう言わずに。わたしの休みは短い。世界平和は、わたしの双肩にかかっている。あとお付きの千佳ちゃん。そして、コク子が、空間転移ゲートを開いてくれるかに」
しばし熟慮していたコク子だけど、やがて何かを思い出した様子で。
「では取引といこう。わらわが空間転移ゲートを開いてやるかわりに、貴様は変態を引き取るんじゃ」
「えーと。何を引き取れと?」
「こっちじゃ」
と、コク子が案内した先には、宝箱 (というかミミックだね)に下半身を食われている、女子高生がいた。ははぁ。都内でも有名な私立の制服だぞ。そして下半身を食べられながら、なんとも、だらしない顔をしている。
たぶん、普通にしていれば、清楚な美人さんなのだろうけど。下半身食べられているのに、アヘ顔を晒している。
「あぁぁぁ、いい、いい、もっと、もっとわたしを食べてぇぇぇぇ生きたままぁぁぁ」
とか、気持ち悪いことを言っている。
わたしはコク子を見やって、
「………え、なにあれ。さすがに頭おかしすぎだよ。下半身食べられているのに、アヘ顔さらしているなんて」
コク子は深刻そうな顔で、
「貴様が『頭おかしい』というのじゃから、いよいよ頭がおかしいのじゃな。というわけで、あの変態、貴様のパーティに加えて連れていけ。そうしてくれるならば、ウッラル国内にあるダンジョンへのゲートを開いてやるぞ」
「……連れていくかわりに、ここで殺すとか、どうなの? わたし、やっちゃうよ?? ドリルドライバー手から滑らせた演技で、やっちゃうよ?」
「ダメじゃ。それはもう試した。あやつもまたSSRランクを会得した者で──」
「SSRランク、大安売りしすぎじゃない? サービス終了間近のソシャゲ並み」
「……とにかく、あの変態のSSRスキルは、〈不死〉。文字通り。あやつは死なん。厳密には老衰はするらしいが、どう考えても、寿命が尽きるまでまだ何十年もありそうじゃからな。さて、どうするのじゃ?」
「うううう。分かったよ。嫌だけど。あの変態を引き取るよ……ところであの変態、名前あるの?」
「生徒手帳を所持しておった。ほれ」
生徒手帳には。
私立桜革学園、二年生、佐佐歌。とあった。




