3,無自覚が一番怖い。
よくよく考えると、ガーゴイルから採れる素材って、けっこう高値で売れたのでは?
ということで、先ほどの『どこかに消えた』ガーゴイルを追跡することにした。
一体の素材だけで、今月の家賃を払えるかもしれない。
そのためならば、わたしは命を賭けるよ。家賃代分の命だよ。
しばらく進むと、ダンジョンのメインルートから分岐した先に、ちょっとした居住空間があった。
そこには3体のガーゴイルがいた。
どうやらガーゴイル(母)、そして二体の子供たちのようだ。子供といっても、わたしよりも身の丈はあるけどね。
「あー、もしかして、ガーゴイルのご家族ですか? わたし、家族持ちを攻撃するような、そんな鬼畜なことはしたくありませんので。失礼します」
わたしは失礼する気だったのに、なんか向こうは違う考えだったらしい。
ガーゴイル(ママ)が、ガーゴイル(息子1)と(息子2)に命じる。
命じるといっても、ガーゴイルの言語なので、イメージに過ぎないけど。
ただガーゴイルママ含めた三体が散開。
わたしの逃げ道をふさぎ、三体とも牙をむきだし、暴力衝動をもむき出しにしてくる。
「あの、わたしの肉、美味しくないですよ。野菜とかあんまり食べないし。ちょっと聞いてる?」
ガーゴイルの素材を採ろうと欲を出した罰なのか。
先ほどのガーゴイル個体ほどではないが、どれも強そう。視界表示では、ガーゴイルママがレベル32、ガーゴイル息子1がレベル28、息子2がレベル27。
レベル5のわたしじゃ、太刀打ちできるはずもない。
きっとこのガーゴイル一家の、今夜のご馳走にされるのだ。
せめて生きたまま食べるのだけは勘弁してほしい。
ガーゴイルママの命令で、一斉に襲いかかってきた。
成すすべなし。
わたしは恐怖に目をつむり、せめてもの抵抗を示して、〈竜殺しの電動ドリル・ドライバー〉を振り回す。
ぐぉぉぉぉぉ。
という、超小型ドリルの回転音。
しかし、こんな武器で、ガーゴイルなど倒せるはずがない。
DIYでは活躍するだろうけど。
「わたし、死んだ!!」
しーんと静まり返る。
いや、この静寂が訪れる前に、何かの悲鳴を聞いたような。まさかガーゴイルの悲鳴? いやまさか。
思い切って目をあけると、三体いたはずのガーゴイルが、一体だけになっていた。
そのガーゴイル(息子2)が、なぜか這いつくばって、必死にわたしから離れようとしている。
「え、まって? もしかして、何ものかの攻撃を受けた????」
そうとしか考えられない。
先ほどの、人肉を食べていたガーゴイル個体の消滅も、これで説明がつく。
きっと『ガーゴイルよりも恐ろしいモンスター』が、どこかに潜んでいるのだ。
そしてわたしが目をつむっているタイミングで、ガーゴイルたちを消し飛ばしてしまったのに違いない。
えー。戦闘推奨レベル35のガーゴイルたちを、秒で消滅できるって。
どんな規格外モンスターなの????
いや、まって、わたしはなんで無事なの?
もしかして雑魚いわたしは、あえて殺さず、弄んでいるとか?
わたしは、生き残りりガーゴイルの前に回り込み、その両肩をつかんで思い切り揺すぶった。
人間の言葉が分かりにくいかもしれないので、一語ずつ区切りながら、尋ねる。
「一体、敵は、どこに、潜んで、いるの? どんな、敵なの??」
そのガーゴイルは、悲鳴を上げ、口から泡を噴き出した。
どうやら、『どこかに潜んでいる敵』への恐怖から、ショック死したらしい。
「そんな怖い敵だったんだね。まぁそうだよね。家族を一瞬で消滅させるような敵だもんね」
いまもその『謎の敵』が近くに潜んでいるかも、だよね。
そう思うとぞっとする。
ところで──。
また〈竜殺しのドリル・ドライバー〉のドリル箇所に肉片がこびりついていた。
やれやれ。汚いな。この肉片、どこで付着しているんだろ。
「あ、そうだ。せっかくだからこのガーゴイルから素材を採取しよっと。素材、素材と……素材って、なんだ?」
モンスターから採取する素材って、厳密にはどこのことを言うの?
しまった。肝心なことを事前に調べてこなかった。
「とりあえず、脳みそとか、なんか高そう」
脳みそを取り出すには、死体の頭部に穴をあけるしかない。
そこで、ガーゴイル死体の頭頂部に、〈竜殺しのドリル・ドライバー〉の超小型ドリルをつきつける。
トリガーを引いた。
ぐぉぉぉぉ。
と、ドリルが動いたかと思ったら、ガーゴイルの死体が跡形もなく消し飛んだ。
「……………………………………………あーー、そういうことかぁ~」