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25,女児は女児じゃないか。

 

 百眼鬼を撃破したとたん、膨大な経験値が入ってきた。

 レベルは自動で180まで上がったけど、ステ振り自体は手動でしないといけない仕様。


 しかし、そんなことはどうでもいいよ。


 わたしはがっくりと落ち込んだ。


「……一度、破けたものは、二度と戻らない………しかもダンジョンボスのくせに素材ひとつ落としていかなかったし」


 ふと視線を転ずると、ボス部屋の片隅でボロ雑巾みたいなのが落ちていた。

 いやまて。

 あれは桜島二奈さんだぞ。ボロ雑巾と見間違えるかな、普通?


 二奈さんは、衝撃波を全身に浴びたようで、瀕死状態。

 意識はないようだ。


「まったく、これだからダンジョンというものは──」


 獲得できる汎用スキルの中に、治癒系のスキルがひとつもない。

 どうやら回復スキルを使えるのは、ヒーラー系のジョブだけらしい。


 転移ゲートで、二奈さんを地上に運び出そうとしたとき。

 上空より青い光の塊が降りてきて、散開。


 散った光粒子の中心から、5歳程度の女児が出てきた。赤紫色の髪をサイドテールにしている女児が。


「ほう。『殲滅の道を往く者』こと百眼鬼が死んだか。殲滅の領域を創り出せるチートスキルを持ちながら、まさか初心者の女子高生に殺されるとは。情けない」


「女児のくせに偉そうだなぁ~」


「わらわは女児ではない」


「いや、どう見ても女児じゃない」


「見た目は女児でも、女児とは限るまい。この地球が誕生するより前から生きている者を使まえて、貴様は女児というのか?」


 わたしはこめかみを揉んだ。

 なんという……哲学的問いかけ。


「それで、あなたは『地球が誕生するより前から生きている』女児なのですね」


 すると女児が両手を振り回して、


「じゃから女児ではないと言っておるじゃろ! 貴様、バカなのか!」


「……偏差値は、そんなに高くない高校です」


 女児がウンザリした様子で溜息をつく。ちなみに先ほどから浮遊している。


「まぁ、よい。貴様は、ダンジョンボスの一体を撃破し、この芦ノ湖ダンジョンを完全制覇した。よって、わがコク子の名のもと、そなたにひとつだけ望みをかなえよう」


「そうなの? じゃ、一生遊んで暮らせる大金と、あと桜島二奈さんを治癒してあげて」


 コク子は、凄く疲れた様子で、眉間を揉んだ。


「……人間よ。一つだけだぞ。よく聞くことだ。貴様、よくよく考えずに、『世界の半分をやろう』と言われてイエスと答えかねんぞ」


「あ、世界の半分とかはいいです。間に合ってます」


「……ひとつだけだ。一生遊んで暮らせる大金か、桜島二奈の治癒か、どちらか一つだ」


「………………あーーもう、分かりましたよ! では桜島二奈さんを治癒してあげてください」


「よかろう」


 とコク子は桜島二奈さんのもとに漂っていき、両手をかざした。

 二奈さんの瀕死の肉体が、すぐに再生されていく。


 これで二奈さんは助かった。良かった、良かった。

 なんで彼女、最下層にわたしより早く来ていたんだろ?


 ふいにコク子が、警戒した様子で尋ねてくる。


「それで貴様、これからどうするつもりじゃ?」


「わたし? そうだなぁ。家賃を支払うためには素材が必要だし。いまはレベル180だし、〈ドリル・ドライバー〉を使わずに、別の武器でモンスターを狩るよ。そうすれば素材を採取できるよね」


「そうじゃな。では、これからはダンジョンを崩壊させるような、無茶な無双はもうせずともよいな?」


「んーん。そして家賃の支払いが済んだら、世界中のすべてのダンジョンにいるモンスターを皆殺しにすることになるかなぁ」


「…………おぬし、本当に高校生か? 頭の出来が、女児並みじゃぞ?」

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