23,《職人魂》ということ。
──主人公の視点──
ふいに視界内に、
『これより最下層、ダンジョンボスの部屋となります。準備を整えましょう』
という表示が出た。
わたしは《ローリング》を解除する。
見やると、眼前にはとつもなく巨大な観音開きの扉がある。
なるほど。この扉の先が、ダンジョンボス百眼鬼が待つラスボス部屋、というわけだね。
……というか、もう最下層に来ていたんだ……なんか、途中からモンスターが一体も出てこなくなったような。もう、このダンジョン、欠陥だらけだぞ。
さて準備ねぇ……準備体操とか?
そういえば、あとひとつ、スキルスロットが残っているんだった。
現在のスロット入りスキルは、《突撃》、《ローリング》、《視認》、《跳躍》。
もちろん一度セットしたスキルでも、好きに変更はできる。
ただけっこう各スキルは連動しているので、ひとつを外すことで、ほかのスキルにも影響が出たりするんだよね。
たとえば《ローリング》の可能時間がいま半永久なのは、スキル内容に『AGIの影響を受ける』とあるため。
そしてこのAGIは、《突撃》スキルによって、∞と化しているわけだね。
だから《突撃》を外すと、《ローリング》がちょこっとしかできなくなるという。
現在、取得可能なスキルリストを開いたところ──
とんでもない膨大な量のスキルが出てきた。
そういえば、いまのわたしはレベル125なので、取得できる汎用スキルも大量にあるんだっけ。
というかステ振り用のステータスポイントが、25480も溜まっている。ステ振りって、なんで手動なのかなぁ~。
さて。
数多のスキルは、ひとつを除いて汎用スキルだった。
ところが一つだけ、ジョブスキルが解放されている。
つまり、わたしの〈穴をあける者〉というユニークジョブ専用のスキルが。
その名は、《職人魂》。
ふむ。唯一無二のジョブスキルだぞ。
というわけで、能力内容を読むまでもなく、まずは取得。
スキルスロットに装着してから、初めて《職人魂》のスキル内容を一読してみた。
《職人魂》──『任意の対象を一体、選択する。対象のレベルが装備者よりも上だった場合。
穴をあけることができる。
対象との距離は、関係ない。ただし、同じ階層にいる必要がある』
えーと。
つまり、好きなモンスターを思い浮かべて、そのモンスターのレベルが、わたしのよりも上だったら──
穴をあけることができる??
わたしは肩をすくめた。
「まぁ、試してみなきゃ、こういうスキルって、分からないよね」
《職人魂》、発動!
対象──百眼鬼!!
百眼鬼のレベルはわたしより上のはずだし、いまは同じ最下層にいるから、発動条件はクリアしているよね。
すると、右手にもった〈皆殺しのドリル・ドライバー〉の超小型ドリルが、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉと響かせながら、回転しだす。
そして、ゆっくりと停止した。
「え? これだけ?」
なんだろう──?
この先のラスボス部屋から、妙に悲嘆にくれた悲鳴が聞こえてくるんだけど。




