18,跳びやがった。
──黄鬼の視点──
計画は完璧だった。
小娘は、永久機関のごとくローリングしている。このローリング状態には攻撃力∞の効果があり、触れたモンスターは消滅する。
ならばローリング状態ごと、落とし穴に落とせばよい。
しかも落とし穴は、位相次元モンスター〈ガーダンラ〉の胃袋に接続している。
それは『この世のどこでもない空間』に接続している胃袋である。
さらに小娘が急停止できぬよう、階層のつなぎめ後を落とし穴に設定した。
猛スピードのローリングで階層移動し、この第80階層に入ったとたん、逃げ場のない落とし穴となる。
そしてこの落とし穴の幅は1キロにわたるのだ。
ようは1キロの『大穴』である。そして落ちれば、異次元につながる胃袋。
小娘が助かる見込みはない。
「さぁ来い! 小娘! 貴様の快進撃も、ここまでだぁぁぁぁぁぁ!!」
と黄鬼が勝利を確信したとき──
小娘はローリングしてきて。
落とし穴の前でぽんと跳躍した。
ローリングを維持したまま、素晴らしい弧を描いての跳躍。
黄鬼は知らないことだが、これは志廼沙良がローリングしながら会得し、スキルスロットに入れた汎用スキルのひとつ。
《跳躍》。
その効果は、『跳躍力が上昇する。上昇量は移動速度に影響する』。
通常、この《跳躍》による上昇効果は微々たるもの。
初期のレベルで獲得できる汎用スキルのひとつにすぎないからだ。
だがしかし。
沙良の攻撃力は、〈竜殺しのドリル・ドライバー〉あらため〈皆殺しのドリル・ドライバー〉効果によって∞。
さらに〈突撃〉スキルの効果『AGI(素早さ)の数値を、装備状態含めたATK(攻撃力)の数値の10パーセント分上昇させる』によって、事実上、AGIは∞。
AGI∞は、移動速度が∞を意味する(よって沙良は、現在の神速でも実は移動速度を抑えている)。
結果。
移動速度の影響を受ける《跳躍》の上昇量も、半端なく跳ね上がった。
1キロの落とし穴を楽々と飛び越せるほどに。
装甲巨兵〈ドガ〉が叫ぶ。
「跳びやがった、だとぉぉぉ!!」
黄鬼がさらに叫ぶ。
「た、叩き落せ! 奴は確かに跳んだが、その下はまだ落とし穴だぞ! 位相次元モンスターの〈ガーダンラ〉の胃袋へ叩き落せば、われわれの勝利だぁぁ!!」
装甲巨兵〈ドガ〉。
あまたのダンジョン攻略者たちを屠ってきた、幹部ボスの一体。
レベルは287。
かつて百眼鬼さまより、「貴様は最も頼りになる配下だ」とお褒めの言葉をいただいた。
その誇りを胸に、跳んでくるローリング小娘に向かって、こちらも跳びあがる。
「百眼鬼さまのためにぃぃぃぃ!!」
そして渾身の戦技の《ギガントインパクト》を発動する。
この戦技の攻撃力は5201であり、防御するために必要な防御力は、
ローリング小娘と接触。
「あぎゃっ!」
と惨めな悲鳴をあげて、装甲巨兵〈ドガ〉が消滅。
レベル287、百眼鬼にも認められた幹部ボス。
消滅。
黄鬼は口をあんぐりと開けて唖然。
「バカなこんなことが…………バカなぁぁぁぁぁ!!」
とくに深い運命でもないが。
ちょうど黄鬼が叫んでいたところに、ローリング小娘こと沙良が着弾。
もちろん、跡形も残らないのだった。