17,誰か、奴の、ローリングを、止めろ。
黄鬼が、状況を打開する手を考え出す。
「お待ちください。この小娘を止めるため、何も真向から挑む必要はありませんぞ」
赤鬼が問う。
「どういうことだ?」
黄鬼はダンジョン内MAPを表示してから、
「簡単なことです。現在、小娘は第72階層を猛進中。ですので、いまから急いで──そうですね。たとえば、ここの第80階層の入口に、『落とし穴』を設置します」
「『落とし穴』だと?」
「はい。しかもただの落とし穴ではありません。穴底を〈ガーダンラ〉の胃袋に直結させます」
「マンハッタンダンジョンを根城にしている位相次元モンスターの〈ガーダンラ〉のことか?」
「はい。〈ガーダンラ〉は位相次元モンスターの名に恥じません。その胃袋は、『この世のどこにでもない空間』へと繋がっているはず。すなわち、この小娘を〈ガーダンラ〉の胃袋に落とすことさえできれば、奴は消滅したも同然です」
「し、しかし〈ガーダンラ〉は、われわれのモンスターではない。マンハッタン・ダンジョンの管理者に話をつけねばならない」
「でしたら、急いだほうがいいでしょう」
他のダンジョンとの交渉事は、赤鬼の仕事だ。
そこでさっそく赤鬼はマンハッタン・ダンジョンに連絡を取り、大きな借りを作りながら、〈ガーダンラ〉を借り受ける。
この交渉と同時進行で、すでに第80階層では、落とし穴が造られ始めていた。現場監督は、計画の発案者である黄鬼。
実は黄鬼は、この殺戮の小娘を、良いチャンスと見ていた。赤鬼から、側近リーダーの座を奪い取るための。百眼鬼さま側近の順位は、この成功をもって変わるだろう。
最下層の赤鬼から連絡が入り、〈ガーダンラ〉の胃袋との接続の許可を得たという。
さっそく落とし穴の穴ぞこを、〈ガーダンラ〉の胃袋と接続。
この胃袋こそが、『この世のどこにも存在しない領域』。
落ちたら最後、二度と戻ってはこられない。
そして猛スピードでローリングしている小娘に、この落とし穴を見て急停止する余裕はあるまい。
急停止したらしたで、防御力の低い小娘に総攻撃をしかける準備は済んである。
ここには第80階層の幹部ボス、装甲巨兵〈ドガ〉の姿もある。
第79階層の監視員より報告。
「ただいま標的の小娘は、第80階層に到達しようとしています!」
黄鬼は勝利を確信した。
「さぁ来い! 小娘! 貴様の快進撃も、ここまでだぁぁぁぁぁぁ!!」
このとき、この場の誰もが知らなかったことがある。
この時点で、志廼沙良がスキルスロットに設置していたスキルは、四つ。
《突撃》。
その効果は、『AGI(素早さ)の数値を、装備状態含めたATK(攻撃力)の数値の10パーセント分上昇させる』。
《ローリング》。
その効果は、『ローリング回避が可能。ローリング可能時間は、AGIの影響を受ける。このスキルはほかのスキルと同時発動が可能である』
《視認》。
その効果は、『視界範囲を拡張する。拡張範囲は、移動速度の影響を受ける』
そして、新たなスキル《跳躍》。
《跳躍》…………。