15,殺され速度が、異常すぎる。
※※※ダンジョン内の複数視点※※※
芦ノ湖ダンジョンには早期警戒システムというものがある。
これは『ダンジョン内のモンスターの被撃破速度が、規定を上回った』ときのみ発動する。
簡単にいうならば、
モンスターたちの殺される速度が、異常に速すぎるときに。
そしていま、全階層において、早期警戒システムが発動する。
芦ノ湖ダンジョンが誕生し、はじめてのことである。
それぞれのフロアボスたちは動揺し、幹部クラスのボスたち(つまり中ボス)にも、不安の表情がよぎる。
最下層では、眠りに入った百眼鬼の側近たちの慌ただしい会話が響く。
「一体、何が起きているというのだ? その警報は誤報ではないのか?」と側近1。
「いえ、それがシステムを何度もチェックした結果、間違いないようでして──」と側近2。
「だが警報が自動発令される条件である『被撃破速度』、すなわち我らモンスターの殺され速度は、確か──」
「一秒未満で一体です!」
「バカな!! いやまて。上層エリアならば、それもありえるのか?」
「いえ、そうではありません。早期警戒システムは、中層以上の難易度エリア内でのみ、自動発令します!」
「な、なんだと……中層以上ともなれば──第50階層からだぞ。雑魚モンスターでさえも、平均レベルは80を超える。各フロアボスは、レベル100以上だ。それが、一秒未満に連続して殺されてるだと????」
ダンジョン内の監視システムと接続していた、側近3が悲鳴に近い声で言った。
「か、確認しました! 未確認の人間が、現在、第58階層を突破──ああ、59階層、そして60階層に入ろうとしています! と、とんでもない速度で移動している模様! そして、どのモンスターも皆殺しにあっています!!」
側近1は、ダンジョン内通話機能で、この最下層(第150階層)から、第60階層にいる幹部ボスと交信した。
その幹部ボスは、ヘカトンケイルの変異種。
〈疾風のヘカトンケイル〉。レベル205。
「〈疾風のヘカトンケイル〉よ! いま、人間がそこに到達しようとしているぞ! ほ、報告せよ! その人間は、一体、何ものなのかを!」
第60階層より、〈疾風のヘカトンケイル〉の悲鳴まじりの声が、通話機能を通して聞こえてきた。
「な、なにか、来ます! あぁ、なんだあれはぁぁあ!! 人間が、人間の女が回転しながら、とつもない速度──そして、とてつもない怒りを発散しています!! あぁぁあ我々はついに人類の『憤怒』に触れてしまったのかもしれませんんんんん!!!!」
そして〈疾風のヘカトンケイル〉の「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」という断末魔の悲鳴が轟いた。
通話が切れる。
最下層には重い沈黙が垂れ込める。
その中、側近2は首をひねっていた。
〈疾風のヘカトンケイル〉が殺され悲鳴をあげたとき──別の、ある声が聞こえたような。
おそらく、ダンジョン内のモンスターを殺しまくり、〈疾風のヘカトンケイル〉をも瞬殺した謎の人間の、憤怒の声に違いない。
確かに、その声はこう言っていた。
───「処女膜の恨みを受けてみよ」と。